[2007.7.4更新]

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2007年7月の5冊

 

 

『分裂病と人類』 [請求記号: 081/221/96]

中井久夫著 東京大学出版会 (UP選書)

 精神病のひとつ、統合失調症(分裂病はかつての呼称)は、常人には共感的にも知的にも理解困難な心の病です。 しかし、人間に固有なこのような病(実際、動物は精神病にはなりません)について知ることは、人間という存在一般の隠された秘密に接近する 第一歩となるでしょう。本書は、こうした点で他のいかなる精神医学の本とも異なった、人間論的展望を与えてくれる統合失調症論です。 著者・中井久夫が、分裂病親和性の中核を「もっとも遠くもっとも微かな兆候をもっとも強烈に感じ、 あたかもその事態が現前するごとく恐怖し憧憬する」傾向と捉え、それは狩猟社会においては適応的な能力であったが農耕社会への移行とともに一つの病となった、 と論じたとき、私は初めて人類史的な視点からこの病を理解できたような気になりました。 また、私たち健常者の中に隠されてあるものとの連続性の中で、この病が捉えられることを教えられました。 本書の初版は1982年ですが、未だに画期的な統合失調症論としての地位を失ってはいません。
 中井久夫はエッセイストとしても、ギリシャ詩の翻訳家としても、一流の仕事をしています。『家族の深淵』 『アリアドネからの糸』『樹をみつめて』(2006年)などのエッセイ、最近では『徴候・記憶・外傷 』(2004年)という論文集もお奨めです(いずれも、みすず書房)。

(学術情報センター長 加藤義信(文学部児童教育学科))

 

『市民の政治学 : 討議デモクラシーとは何か』 [請求記号: 080/872/19B]

篠原一著 岩波書店 (岩波新書)

 代議制民主主義が機能不全状況を示しつつある現在、これを補完ないしこれに代替する仕組みを構想しようとする動きが、いま政治学者の間で始まっています。 筆者は「討議デモクラシー」という新しい仕組みを構想し、その担い手として、自分自身でものを考え、自分の言葉でこれを表現し、 自発的に行動する「市民」の存在を想定します。
 「伝統社会」を乗り越え誕生した「近代社会」の基本構造を考察した筆者は、さらに1970年代をその「社会変容の時代」と位置づけ、 これ以降の世界に「行動的市民」が登場する条件が存在すると主張します。

(学術情報センター長補佐 中田晋自(外国語学部フランス学科))

 

『外国語上達法』 [請求記号: 080/329/19A]

千野栄一著 岩波書店 (岩波新書)

私は情報科学に属していますが,パソコンは,計算のためというよりも,日本語や英語で作文をするために利用しています.作文技術や外国語に習熟しておけばと思いながら,キーボードをたたいています.この本では,言語表現には,言葉の背後の文化的内容であるレアリア(言語外事実)を理解することが大切であると教えてくれます.学生の皆さん,「やばい」は“very cool”とも“very bad”とも解釈できます.慎重に使ってください.

(学術情報センター長補佐 奥田隆史(情報科学部地域情報科学科))

 

『カトリックの文化誌 : 神・人間・自然をめぐって』 [請求記号: 080/791/23]

谷泰著 日本放送出版協会 (NHKブックス)

ヨーロッパなどのカトリック教会の祭壇で、十字架上のイエスが傷痕から血を滴らせている生々しい彫像や宗教画。なぜ、このように血塗られたイエス像が、教会という聖なる空間に掲げられているのでしょうか。実は、このイエス像には、さまざまな宗教に見られる供犠儀礼−神と人とのコミュニケーション形式のひとつ−としての意味が表現されており、著者は、イエスの供犠儀礼を比較宗教的な視点から分析することを通じて、キリスト教文化の原形がどのようにつくられ、どのように発展していったのかを探り出そうと試みます。異文化に触れたときの新鮮な驚きや素朴な疑問が、異文化理解を目指す研究の第一歩になることを教えてくれる本です。

(学術情報センター図書館 笹野)

 

『梶井基次郎』 [請求記号:080/153/15 ]

中谷孝雄著 筑摩書房 (筑摩叢書)

『檸檬』、『桜の樹の下には』など、研ぎ澄まされた美しい短篇を残し夭折した梶井基次郎。 本書は、梶井の旧制高校時代からの友人である、作家中谷孝雄の手による伝記です。 大正から昭和初期にかけての文学青年たちの青春が、いきいきと描かれています。
友人らしく、梶井について誉めるばかりでなく、気に入らない点もはっきり指摘しています。 それでも、完璧主義者でユーモラスな梶井の人物像に、読後誰もが魅力を感じることでしょう。

(学術情報センター図書館 石野)