[2007.8.1更新]

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2007年8月の5冊

 

 

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』 [請求記号: 913.6/4/709]

村上春樹著 講談社 (村上春樹全作品 : 1979-1989)

 もう20年以上も前、ブレンダ・リーの曲を車の中でよく聴いていました。なかでも、The end of the worldが好きでした。 村上春樹の小説『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の冒頭は、この曲の歌詞の引用から始まります。 「太陽はなぜ今も輝きつづけるのか/鳥たちはなぜ唄いつづけるのか/彼らは知らないのだろうか/世界がもう終わってしまったことを」。 そして、この小説の終わり近く、心を失った主人公がかつての心の世界の記憶をかすかに蘇らせるきっかけとなるのは、 『ダニーボーイ』という歌です。つまり、昔この曲も好きだった私にとっては、この小説は徹底してノスタルジックな音楽小説なのです。 そういう個人的な読み方を度外視しても、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』は村上の小説群中、 白眉の傑作といえるでしょう。物語は、二つのまったく別のSF的世界が同時進行することによって展開します。 一方に、心を失った人たちの静謐でモノクロームな「世界の終わり」があり、 他方に、ハリウッド映画のように目まぐるしく主人公が動き回る動的な「ハードボイルド・ワンダーランド」があって、 読者にはこの二世界の繋がりが読み進むにしたがって次第に開示されていく仕掛けになっています。 読者はきっと、小説の半分を構成する「世界の終わり」の、音も色彩も消え、生命的なもののミニマムとなった世界の描写に、 不思議ななつかしさを感じることでしょう。この「世界の終わり」の感触は、私の中ではなぜか、 アガタ・クリストフの『 第三の嘘』や『 昨日』(いずれも早川書房)の読後感と重なり合います。 喪失感や温かみのある世界との隔絶感を描いている点で同質性があるせいでしょうか。後者の2冊も併せて読むことをお奨めします。

(学術情報センター長 加藤義信(文学部児童教育学科))

 

『思想としての「共和国」 : 日本のデモクラシーのために』 [請求記号: 311/A/1066]

レジス・ドゥブレ[ほか]著 みすず書房

 いま、私のゼミで読んでいるこの本ですが、ぜひみなさんにも読んでいただきたいと思います。 特に冒頭に掲載されているドゥブレ論文「あなたはデモクラットか、それとも共和主義者か」(1989年)は、 とても味わい深く、読むたびに新たな発見があります。
 「共和国(フランス)」と「デモクラシー(アメリカ)」との対比のなかで、「共和国」の優位性を主張するドゥブレは、 「記憶」を重んじる「共和国」に生まれた子どもたちは、生まれながらにして「すでに6000歳」なのだと主張します。 しかしそれは、おそらく人間の精神活動の蓄積を身につける努力が必要でしょう。それはどこでしょうか? ドゥブレは「図書館」であるといっています。曰く「共和国では図書館に最大限の敬意が払われるが、 デモクラシーではテレビが重要視される。というのも、図書館が偉人たち―彼らを崇拝すること、 それが文化というものだ―が眠る墓地であるとすれば、テレビは快適に時間をつぶすのに役立つ」(16頁)と。

(学術情報センター長補佐 中田晋自(外国語学部フランス学科))

 

『なぜニッポン人は美しい風習を捨てるのか : 親日家8人からの熱きメッセージ』 [請求記号: 302.1//168]

ピーター・フランクル [ほか]著 明拓出版編集部編 明拓出版

夏は「地球の歩き方」(ダイヤモンド社)を片手に海外に出かける学生さんも多いことかと思います. 私も約20年前,浜田省吾のJ. Boy のような気分で,アメリカ大陸をバックパックで放浪し, その後の人生に役立つ色々なことを発見したような気がします.それは日本や米国の文化であったり, 自分の進路であったりしたのかもしれません.ここで紹介する本は,著名な親日家による最近のニッポンに関するエッセイ集です. 出発前,道中,帰国後と時間・場所を変えて読んでみると,その度に発見があり,面白いと思います. なお,旅行先では,柳田氏が提唱する「ノーケータイ・ノーインターネット」で過ごした方が,感覚が研ぎ澄まされて, 旅行がより充実するような気がします.Have a nice summer days! 

柳田邦男,『壊れる日本人ケータイ・ネット依存症への告別』,新潮社 (2005/4/1).

(学術情報センター長補佐 奥田隆史(情報科学部地域情報科学科))

 

『不思議な日本語段駄羅 : 言葉を変身させる楽しさ』 [請求記号: 911.4//858 ]

木村功著 踏青社

 インドにあるのはガンダーラ、能登に伝わるは段駄羅(だんだら)。 段駄羅は、俳句、川柳と同様に5(上の句)7(中の句)5(下の句)の17文字で成立つ文芸です。 しかし、大きな違いは中の句が同音異義語であり、57で一つ、75で一つと独立し、一粒で2度美味しい言葉遊びです。 夏の作品から
     寝苦しい 不快な蚊なり
            深い仲なり  花と蝶
というように「ふかいなかなり」の7文字が2つに変身しました。 文芸に興味のある方への紹介本です。

(学術情報センター 山田)

 

『犬は勘定に入れません : あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』 [請求記号: 933.7//462 ]

コニー・ウィリス著 早川書房

近未来の大学生が、19世紀イギリスに”休暇タイムトラベル”する話。コニー・ウィリスは著名なSF作家で、 県大図書館では代表作『 ドゥームズデイ・ブック』 『 航路』も所蔵しています。
本作は、ヴィクトリア朝に本当に旅行しているような気分を味わえますが、それだけではなく、 川下りやがらくた市がなぜかスリリングになるコメディタッチの展開に笑い、ミステリ要素に頭を悩ませ、 思わずブルドッグを飼いたくなる(かもしれない)、そんな忙しくもお得な小説です。

(学術情報センター図書館 新川)