[2008.3.1更新]

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2008年3月の5冊

 

 

『科学を短歌によむ』 [請求記号: 911.1//617]

諏訪兼位著 岩波書店 (岩波科学ライブラリー)

 日本の詩歌の伝統の中で、短歌(明治30年代以前は和歌)という形式は特別な位置を占めてきました。 5‐7‐5‐7‐7からなる全31文字の中に、宇宙的広がりを有する自然から心の内奥の深い哀しみまでも歌うことのできる形式は、 世界に類がないかもしれません。もちろん、日本にはこれより短い俳句という形式もあります。しかし、 俳句では一瞬の感覚の閃きを鋭く表現することはできても、そこに理知の世界を築き思想を語ることはむつかしいように思われます。 短歌は、そのような理路を含みこんだ表現をも可能にするぎりぎりの形式と言えるでしょう。
 そのせいでしょうか。自然科学の領域では俳人は少ないのに(例外として物理学者で東大の元総長の有馬朗人がいます)、 短歌のほうは斉藤茂吉にはじまって、現在もプロの歌人として通用する研究者がたくさんいます。『科学を短歌によむ』は、 こうした理系の研究者と短歌とのかかわりに焦点を当てたユニークな本です。著者の諏訪さんは、 名古屋大学理学部の地球科学教室の教授を務める傍ら、朝日新聞の歌壇に投稿を続け、1992年には朝日歌壇賞も受賞した人です。 地質調査で長く滞在したアフリカ大地溝帯の雄麗な景観に魅せられて40歳を過ぎてから短歌を始め、スケールの大きい自然を詠んだ、 次のような秀歌を数々作りました。「サバンナは雨季明け近し南よりヌーの大群しずかに移動す」。
 私はこの本を読んで、ひとつの発見をしました。それは、日本で最初にノーベル賞をもらった湯川秀樹が非常に優れた歌人で あったことです。「天地(あめつち)もよりて立つらん芥子(けし)の実も底に凝(こ)るらん深きことわり」といった歌に見られるように、 宇宙や自然の不思議を前にしての敬虔な気持ちから生まれる詩心とその理を探求しようとする情熱は、結局はひとつのものなのでしょうか。 優れた自然科学者と優れた歌人であることは別のことではないことに、私ははじめて深く納得しました。
 現代短歌をこれから読んでみようと思う若い人々には、 『短歌を楽しむ』(栗木京子、岩波ジュニア新書)と 『 短歌をよむ』(俵万智、岩波新書) をまず薦めます。俵万智の名前はご存知でしょう?短歌の世界に新しい風を吹き込んだ彼女の『サラダ記念日』が出てからもう20年、現在はさらに新しい感性で作られたニューウェーヴ短歌の時代と言われています。若い同世代の人たちの作った短歌を現在進行形で 読んでみたい人には、『 短歌の友人』(穂村弘、河出書房新社)がお奨めです。
 なお、愛知県立大学からは、永井陽子と荻原裕幸という、現代短歌の先頭を走る二人のすばらしい歌人が巣立ちました。 永井陽子さんは残念ながら、8年前に以下のような不滅の瑞々しい歌を残して、若くして亡くなりました。
 「あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ」( 『 永井陽子全歌集』、青幻舎)

(学術情報センター長 加藤義信(文学部児童教育学科))

 

『メンタル・コーチング : 潜在能力を最高に発揮させるたったひとつの方法』 [請求記号: 336.4/Sh81]

白井一幸著 PHP研究所

 フィギュアスケートのコーチはおそらく4回転ジャンプをすることはできないでしょうし,できなかったでしょう. しかし,指導が上手なので,4回転ジャンプをする選手が出てくるのでしょう.愛知県のフィギュアコーチは優秀なのだと つくづく感心しています.本学からも,教員ができないようなことができる学生を輩出したいものです.
 さて,例年2月は卒論や修士論文の締め切りということもあり,研究室配属学生と接する時間が,一年で最も多くなるような気がします. 配属学生には様々なタイプがいます.結果が出たと思いこんでいる人,結果が出ているのに気がついていない人, 結果を上手に文章として表現できない人などです.各学生の性格や能力に合わせた適切な指導が必要だと痛感します. 私は,教えすぎず,自分で間違いに気づかせるようにしています.しかし,間違いを気付かせるのはなかなか難しいものです. 偶然ですが,文献[1]によると,私の頭文字TOは“とりあえず降りよう”という意味があるようで,電車などから急に降りるときに 使うようです.逆さのOTは奥田民生ではなく“教えたがり”だそうです.学生諸君と接する際には,TOとOTのバランスが大切だと 教えられているような気がしてきました.今月紹介する本はプロ野球の元指導者が書いた本です.若者やベテランをどう育てるか? 色々と参考になります.中でも,「コーチだから,指導者だから,選手から挨拶があって当然だというような,取るに足りない プライドをもたない.プライドをもつべきときはほかにいくらでもあるはずなのだ」という著者の姿勢は,大学人として肝に銘じる 必要があると思いました.元野球少年としてショックだったのは,「ダウンスイング」の意味が,上から下へ振るという意味では なかったことです.「ダウンスイング」という簡単な言葉の意味を正確に理解しないで,大人が使い,少年もなんとなく理解して しまったのです.
 文献[2]には,欧州のサッカー大国が強い理由が,言語技術[3]とそれに伴う論理的思考にあると書かれています. 文献[3]には,外国語を身につけるためにも,日本語での言語技術は必要だと書かれています.文献[2,3]を読むと, 食堂で「○○」を注文する時には,「○○」と言うのではなく,「○○をお願いします」と言うことの大切さが理解できます.

[1]北原保雄他,『 KY式日本語 : ローマ字略語がなぜ流行るのか』,大修館書店,2008.
[2]田嶋幸三,『 「言語技術」が日本のサッカーを変える』,光文社, 2007.
[3]三森ゆりか,『 外国語を身につけるための日本語レッスン』,白水社,2003.

(学術情報センター長補佐 奥田隆史(情報科学部地域情報科学科))

 

『クマにあったらどうするか : アイヌ民族最後の狩人姉崎等』[請求記号: 384//450]

姉崎等語り手 片山龍峯聞き書き 木楽舎

 語り手の姉崎等さんは、67歳まで、現役のクマ撃ちとして通常数人で行うクマ猟に単独で臨んでいました。 早春とはいえ雪深い北海道の山中、窪みにかかるように木を切り倒して、その下で寝泊りした (姉崎さんは「仮小屋」と呼んでいます!)こともあったそうです。そんな過酷な体験を、 姉崎さんは飄々とした口調で当たり前のように語ってくれます。 探究心旺盛な姉崎さんの話はとにかく面白く、豊富な経験に裏打ちされたクマの生態についての知識は、 大学の研究チームからも一目おかれるほどです。そんな姉崎さんが導いたクマ対策は、実際にできるかどうかはともかく、 非常に説得力があります。
 姉崎さんはただ獲物としてクマを獲るのではなく、常に自然からの恵みに感謝し、尊重しています。それがアイヌ独特の、 しとめたクマの魂を送る風習を続けてきた理由でもあるのです。自然と人間との関係について、改めて考えさせてくれる本です。

(学術情報センター図書館 新川)

 

『文章のみがき方』[請求記号: 080/1095/19B]

辰濃和男著 岩波書店 (岩波新書)

 1975年から1988年にかけて朝日新聞のコラム「天声人語」を担当した著者が、古今様々な分野の専門家が書いた文章論を紹介し、 その1つ1つに対して自己の考察を述べています。登場する先人はざっと挙げてみるだけでも、夏目漱石、谷崎潤一郎、永田弘(詩人)、 太宰治、藤沢周平、皆越ようせい(写真家)、岡本太郎、俵万智、江國香織etc. と著者の多彩で豊富な読書量にまず驚かされます。
 著者はいい文章の条件として「平明、正確、具体性、独自性、抑制、品格」などを欠かせない要素としていますが、 決して堅苦しい文章の書き方読本ではありません。たとえば、「いやな言葉は使わない」の章にある 「何でもかんでも『お』を被せるのは下品だ。特にカタカナ語の単語に『お』をつけるのは、ほとんどコントである。 『お紅茶』は許せるけど、『おコーヒー』『おビール』などといわれると、それだけでその人の目をまっすぐ見れなくなってしまう」 (甘糟りり子 『 女はこうしてつくられる』筑摩書房 2005)を、爽快な「いまの風」をまとっているおしゃれな文章であると評し、 しなやかでユーモラスな文章論を展開しています。他にも「歩く」「自慢話は書かない」「乱読を楽しむ」「落語に学ぶ」 「肩の力を抜く」「思いの深さを大切にする」といった日頃の生活における物の見方や考え方についての楽しいヒントを文章の 上達にからめて紹介しています。
 また「自分と向き合う」の章で「私はこうして文章を書いていますが、去年書いた文章はすべて不満であり、いま書いている文章も、 また来年見れば不満でありましょう」(三島由紀夫 『 文章読本』中公文庫 1973)を引用し、 三島由紀夫ほどの作家にも自分の文章に不満があったのだと読者に安堵感を与え、「それでもなおかつ現在の自分にとって一番納得の ゆく文章をかくことが大切なのであります」と執筆初心者(私を含め)を励まし、文章を発表する勇気を与えてくれるのです。

(学術情報センター図書館 西脇)

 

『外国語の水曜日 : 学習法としての言語学入門』  [請求記号: 807/A/499]

黒田龍之助著 現代書館

 NHKテレビロシア語会話の講師でもあった作者が、理系大学でロシア語を教えた体験をもとに書いた、 外国語学習をめぐるいろいろな話。
 ロシア語だけでなく、フィンランド語やイタリア語など様々な言語の、様々な学習法を紹介しています。 言語を学ぶことは、その言語が使用されている地域や社会を知ること。この本には、そんな外国語学習の楽しさが詰まっています。 巧みな文章で書かれており、エッセイとしても楽しめます。語学に興味がある人も、そうでない人も、是非読んでみてください。

(学術情報センター図書館 石野)