[2008.5.1更新]

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2008年5月の5冊

 

 

『非対称の起源 : 偶然か、必然か』 [請求記号: 491//1013]

クリス・マクマナス著 講談社 (ブルーバックス)

 世の中に右利きの人と左利きの人が存在し、前者が圧倒的な多数派(90%以上)であることは誰もが知っている事実です。ところが、その事実を反映して、社会生活で用いられる事物や仕組みの多くが右利き用に作られていることに、私たちは案外、気づいていません。昨年度、私の研究室でMさんが「利き手」をテーマに卒業論文を書いてくれましたが、これを読んで私は、この社会が実にさまざまな右利きバイアスのモノであふれていることを再認識させられました。腕時計、カッターナイフ、急須、キーボードといった身の回りのものから、パチンコ台や自動販売機に至るまで、右手での操作を前提として設計・製作されているものを挙げていけば、きりがありません。インターネットではいまや、こうした右利き文化に対抗して、さまざまな左利きグッズが販売されています。この中に、「左利き用鉛筆」というグッズがあり、私はこれには心底、驚いてしまいました(ふつうの鉛筆を左手に握って「MITSUBISHI」や「TOMBO」の文字を読んでみてください。鉛筆ですら右利き用に作られていることがわかります)。
 今回取り上げる『非対称性の起源』は、人間に固有な利き手問題を最新の研究成果を踏まえて、あらゆる角度から論じた書物です。新書の体裁にもかかわらず、470ページの分量はなかなか読み応えがあります。「人間に固有」と言ったのは、道具を用いない動物にはそもそも利き手といった類の身体の非対称的用い方が存在せず、人間に近いチンパンジーでも個体によって使用頻度の高い手はあっても、種全体に右利き優位という事実は存在しないからです。しかし、これは考えてみたら不思議なことです。生物は組織体として複雑化するほど、その身体に非対称な器官や配列を含むようになり(構造的非対称)、結果として機能的非対称へとつながっていくことが必然と思われるのに、それが人間において突然のように最も顕著に現れるようになったのはなぜか?本書は、この問いに答えるために、悪戦苦闘して書かれた本といえるでしょう。特に、利き手の問題から出発しながら、身体の構造の非対称的配置(例えば心臓は左など)がそもそも生物学的にどのようにして決まるかにも、多くのページを割いています。ただ残念なことに、本書を最後まで読んでも、当の利き手問題に満足のいく解答が与えられているようには思えません。でも、そうした肩すかしも、利き手の問題が、対称性と非対称性という生命や宇宙の根源の理解にもつながっていく奥の深い問題であることの証左と考えれば、なんとなく許せる気になります。
 類書に『 左と右の心理学』(コーバリスとビール、紀伊国屋書店)と『 「左利き」は天才?』(ウォルマン、日本経済新聞社)があります。前者は、利き手の問題をはじめて体系的に論じた名著、後者は2006年刊の最近の本で、ここに紹介したマクマナスの本と内容が重なります。ちなみに、もちろん、左利きに天才が多いという事実はありません。
 今年の3月、Mさんを含むゼミの卒業生一同から左利き用の財布をプレゼントされました。そう、実は私自身、左利きです。これまで財布を開いたときに小銭がこぼれ落ちてしまうことが多かったのですが、自分が不器用なせいだとばかり思っていました。ところが、さにあらず。左利きの人間が支持手である右手で開いた財布をもち、左手でお札を抜き取ろうとすると、ふつうは小銭入れの開きは下になって、コインは落ちやすくなります。世間の財布は右利き用に作られていたのです!私は何十年という間、このことにまったく気づきませんでした。

(学術情報センター長 加藤義信(文学部児童教育学科))

 

『日本人の思い』 [請求記号: 361.42/H81]

ほぼ日刊イトイ新聞著 幻冬舎

 食堂の麺類コーナーには“ネギ.ご自由に”というメモが,いつの間にか“ネギ価格高騰のため・・・”というメモに変わっていました.こんな瞬間に物価高騰を実感します.物価高騰だけでなく,日本は色々な問題を抱えています[1].なんとなく良い気分がしません.そこで,今月は我が国の長所について書かれている本を紹介しようと思います.
 推薦本は,コピーライターの糸井重里氏が主宰するウェイブサイトの調査結果が,通常とは違った視点で,まとめてあります.例えば,自分は「よく本を読む!」と回答した人が,この調査では81.2%もいます.読書離れと巷では言われています(私もそう思っている).しかし,自分は読んでいるのだと思っている人が実に多いのです(私もそのつもりです).81.2%は意外でした.ひょっとすると“読書離れ”というのは,社会の先入観や思いこみなのかもしれません.他にも“健康・良く笑う・・・”などの調査結果が,年齢別・性別・県別 でまとめられています.他の統計調査本と見比べるという読み方もあると思います.
 他にも日本の長所を書いてある本として,[2]は柳生博氏(俳優,日本野鳥の会会長)が和暦の素晴らしさを述べています.柳生氏は八ヶ岳山麓の自然の中で暮らしていますから,和暦の素晴らしさを実感していることが伝わってきます.[3]はマンガやアニメをはじめとする日本のポップカルチャーが,クール(Cool)だと海外で高く評価されており,国際的にも高い競争力のあることを述べています.そして,我が国の新産業として「コンテンツ産業」はどうかとして提案しています.[4]の著者は,名著『 菊とバット』は来日する外国人野球選手について書きました.[4]では渡米する日本人野球選手について書いています.

[1] “Japain”,Economist,2008年2月21日.
[2] 柳生博,和暦倶楽部,『 和暦で暮らそう』,小学館,2008.
[3] 杉山知之,『 クール・ジャパン 世界が買いたがる日本』,祥伝社, 2006.
[4] ロバート・ホワイティング,『 サクラと星条旗』,早川書房,2008.

(学術情報センター長補佐 奥田隆史(情報科学部地域情報科学科))

 

『図書』と『ちくま』

岩波書店(『図書』) 筑摩書房(『筑摩』)

*『図書』 [請求記号: P051-19]
*『ちくま』はパンフレットコーナーにあります。

 私は昔、全くの理系でした。それで、いわゆる文系の文章は、“いったい何を、何のために書いているのだろう?”という疑問が絶えずあり、文系の人達の文章を簡単に読めるにはどうしたらよいか、と常々思っていた時に、ここに挙げた岩波書店の広告誌「図書」があって、結構さまざまな分野の人達が寄稿していて各方面の世界を垣間見ることができると判り、大きさも手頃だし、1冊\50(?年前当時,現在\100)、年間購読料\500(現在\1000)で、10年でも5千円(当時)にしかならない、と長期の定期購読を始めたのでした。(昔は、大きい本屋さんで無料で配布してたこともあったのですが。)
 もともと出版社の広告雑誌なので新刊情報も当然目にでき、加えて、世の中にはどんな人がいて、“この人はこういうことを書いているんだ”という文筆のベテランの文章を読めるし、連続ものもあるし、第一、自宅に届けられると何かしら読んでみたくなるもので、目にするうちにそれなりに次第に世界の認識が広がったのを感じました。
 「ちくま」についても同様で、これら2つに限るものではないのですが、これらに目を通していたら、いつの間にか自然と前述の疑問が解けていったようで、加えて自分なりに文章を書いていける自信のようなもの出来てきたような感じがしています(実際に書けるようになった、という訳ではないですが)。
 だから皆さん、理系に限らず、知らず知らず(?)教養を深めるためにも、こういった冊子に定期的にサッと目を通されるのもよいのではないでしょうか。

(学術情報センター利用案内室 河合)

 

『魔の山』 上・下 [請求記号:080/559-1A,2A/5]

トーマス・マン著 新潮社 (新潮文庫)

 このドイツ文学を代表する難解な長編小説を、私は充分理解したとは言えませんが、大変おもしろく、夢中になって読みました。
 「ひとりの単純な青年」ハンスが、山の上にある結核療養所で月日を過ごします。そこは、世間から切り離された、独特の価値観が 支配する場所でした。ハンスはいとこを見舞うため3週間の予定で訪ねたはずが、自身も病に侵され、魅入られるようにそこに留まります。
 ハンスの物語は、特殊な世界での特殊な体験のように思えますが、その反面、私たち誰もが体験する事柄を含んでいるような気がします。長い物語を読み終えた後、この本は、何度も思い出す忘れられない本になることでしょう。

(学術情報センター図書館 石野)

 

『読書力』  [請求記号: 080/801B/19B]

齋藤孝著 岩波書店 (岩波新書)

 本書は『 声に出して読みたい日本語』でおなじみの明治大学の 齋藤孝先生の著書です。日頃大学で教鞭をとられている先生は、最近の大学生が本を読まなくなっていることを大変なげいておられて、 本書は「なぜ読書しなければならないのか」という問いに答えてくれています。
 読書もスポーツと同じようにトレーニングを積めば、しだいに力がついて相当な本まで読むことが出来ると説き、「自分で声に出して読む方法」や「三色ボールペンで線をひく方法」などをそのステップとして紹介しています。読書することにより、会うことの出来ない過去の偉人やあらゆる分野の優れた人の話を聞くことができる出会いを経験することが出来ます。著者はゲーテが好きで、「ゲーテを自分のおじさんのように感じている。」と語っていますが、そんな素敵な出会いがあれば人生が変わるかもしれませんね。
 本書はどちらかといえばこれまでにあまり読書してこなかった人に、是非おすすめしたい1冊です。まず「文庫百冊、新書五十冊」の目標をたてて、読書トレーニングをはじめてみませんか。巻末にはおすすめブックリストも載っています。

(学術情報センター図書館 金久)