[2009.6.1更新]

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2009年5月の5冊


 

 

『萩原朔太郎詩集』 [請求記号:911.1/1009/177]

思潮社(現代詩文庫) 1975年

「ふらんすへ行きたしと思へども/ふらんすはあまりに遠し/せめては新しき背広をきて/きままなる旅にいでてみん。/汽車が山道をゆくとき/みづいろの窓によりかかりて/われひとりうれしきことをおもはむ/五月の朝のしののめ/うら若草のもえいづる心まかせに。」(「旅上」『純情小曲集』大14)
 若葉の美しい季節となりました。上の詩は、先月紹介した木下杢太郎と同世代の詩人、萩原朔太郎(1886-1942)の作品です。文語で綴られたリズムの良さは、この季節をかたどるみずみずしい詩句とともに、詩人の心の美しいすべり出しを映しています。〈きままなる旅にいでてみん〉、〈われひとりうれしきことをおもはむ〉。いまだはじめられていない旅、けれども思いだけは憧れ出でて、すでに旅の軌道にのせられているようなさまが、「旅上」(「旅情」でなく)という題名に込められたのかも知れません。
 朔太郎はこの季節をこよなく愛しました。妹幸子に宛てた手紙には次のようにあります。
「五月は新緑の月で/目には青葉山ほとゝぎす初鰹/といふ芭蕉の俳句にもある通り眼にうつる色といふ色はすべて青です、それも七月や八月の夏の盛りのどす黒い様な紺青がゝつた不快な青とはちがつて、見るからに晴々した透き通る様な青です、凡そ一年中で最も活気に充みちた若々しいムードをあたへる時は五月の初めより外にありません、/水色のリボン、水色の着物、水色のパラソル、これから都の女の服装は水色に変つてしまいます。」(「明44,4,20、津久井幸子宛書簡」『萩原朔太郎全集 第13巻』)
 「旅上」における〈みづいろの窓〉に、この感覚が結晶されているのがわかりますね。しかし、季節に対する詩人の愛は、もっと別の形であらわれたりもします。
「若草の上をあるいてゐるとき、/わたしの靴は白い足あとをのこしてゆく、/ほそいすてつきの銀が草でみがかれ、/まるめてぬいだ手ぶくろが宙でおどつて居る、/ああすつぱりといつさいの憂愁をなげだして、/わたしは柔和の羊になりたい、/しつとりとした貴女のくびに手をかけて、/あたらしいあやめおしろいのにほひをかいで居たい、/若くさの上をあるいてゐるとき、/わたしは五月の貴公子である。」 (「五月の貴公子」『月に吠える』大6)
 ここでの〈若草〉(〈若くさ〉)は、詩人の想念の深いところにはたらきかけているようです。この詩を収録している朔太郎の第一詩集『月に吠える』は、この前に置かれている、いずれも同じ季節をうたった二篇の詩(「愛憐」「恋を恋する人」)の存在によって、発禁処分となるところでした。ですから、それらの詩篇を削除して初版の発売にこぎつけたという経緯があります。現在はもちろん収録されていますから、読むことができます。病とエロスを描き出した『月に吠える』の真骨頂が、実は、朔太郎が好んだこの季節のなかに開かれていったようなのです。この詩集の独特の世界観を、ぜひ、復刻版 を手にとってのぞいてみてください。

(学術情報センター長 宮崎真素美(日本文化学部国語国文学科))

 

『大学活用法』 [請求記号:080/I95/357]

岩波書店編集部編 岩波書店(岩波ジュニア新書) 2000年

 今月紹介する本は,高校生をターゲットとする岩波ジュニア新書シリーズの一冊です.大学で学ぶことについて,各界で活躍されている14名が,わかりやすく書いています.高校時代に読むと良かったかもしれません.しかし,私は,大学を活用する当事者である現役大学生が読んだ方が,当事者感覚があり良いと思い紹介します.高校時代に読んだ人も是非読み返してください.紹介本の中で,数学者(大道芸人としても有名)のピーター・フランクル氏は"大学に入る18歳で,「最適化」を図るのではなく,18歳は人生の出発点であると考えて欲しい.・・・.大学に入ってからの努力が大切・・・.アルバイトする時間があるのなら,大学で自分に付加価値をつけ,専門職に就いた方が,給料も伸びていく・・・"というような文書を寄せています.同様に,[1]では,表現こそ違いますが,大学生活を普通に,正課を骨までしゃぶりつくすように,まともに送ることで,「雇用され得る能力」は身に付くと主張しています.先月のこのコーナーで紹介した「女女格差」や「希望格差社会」に対抗するためには,大学を存分に活用して(図書,講義,研究室訪問など),自らの付加価値(教養や専門性などでしょうか)を高めておくことに専心した方が良いと思います.
 さて,[2]では,世界でいちばんやる気のないのは日本人!と言われてしまいました.本当に世界でいちばんなのか,どう調べたのかと突っ込みたくなるタイトルの本ですが,著者が言いたいことは,自己実現のために「自分はどのようにしてキャリアを積んでいきたいのか」を考える習慣が,一般論として日本人にはなさすぎるのではないかということです.「自分はいつ何をしたいのか.そのために今はどうすべきか」ということを考えることの大切さは,紹介本でも複数の方が紹介しています.自己実現というゴールを達成するために,自分は,今は何をしなくてはいけないのかを考え,行動に移しましょう.
 例えば,学生さんから留学したいという話を良く聞きます.そのためにアルバイトをしてお金を貯めているのですと.ですが,今は,誰でも海外に自由に行くことができる時代で,見聞を広げただけでは,自己実現のためのキャリアには直結しない人の方が多いと思います.どんな自分になるために留学するのか熟考すると,アルバイトで自分の時間を使わず,図書館や演習室で学習をしたり,体を鍛えたりした方が良いかもしれません(留学ガイドブックは数多くありますが,[3]には体力の大切さが書いてあり,共感します.学習にも体力は大切です.).ただし,[4]で,村上龍氏が"しゃにむに「がんばる」のではなく,自らと外部との関係を考え,「外向き」に思考し,行動することも重要だと思う.新鮮な空気を吸うためには,外に出る必要がある"と書いているように,思考とともに,とりあえず異文化体験(外国に行くことだけでなく,教授を訪ねること,他学部の講演会に参加することも異文化体験!) をし,自分の「突然変異」スイッチがONになることに賭けることも,大学生の特権だと思います.
 長くなってしまいましたが,もう少し気になる本を紹介します.ご存じのように,文明については色々な説があります.例えば,[5]はベストセラーになりました.この本では,日本の文明は孤立していくと予想がありましたが,[6]の日本の携帯電話の独自進化(ガラパゴス化)を読むと予測が当たっているのかもと思います.[7]は情報科学や複雑系科学の分野で開発されてきたマルチエージェントという技法を国際政治学へ応用しています.情報科学の研究成果が,社会科学の分野とジョイントできるような気にさせてくれます.
 最後に,平成19年度と平成20年度の2期,学術情報センター長補佐を務めさせていただきました.何もできなかった2年間でしたが,「今月の5冊」にはスタートしてから毎回,今月の本を紹介することができました.図書を接点として,私と皆さんと交流できていたとしたら愉快です.今後はOK私塾やBlog("Occasional Takashi SUN:ほぼ隔週たかしSun")を通して,本だけに限定せず,映画やBlogなども含んだ多様なコンテンツについて紹介ができたらと考えています.
Good luck to you !

[1] 浦坂純子,『なぜ「大学は出ておきなさい」と言われるのか―キャリアにつながる学び方』,筑摩書房,2009.
[2] 可兒鈴一郎,『世界でいちばんやる気がないのは日本人――成果主義が破壊した「ジャパン・アズ・No.1」』,講談社
[3] 吉原 真里,『アメリカの大学院で成功する方法―留学準備から就職まで』,中央公論新社, 2004.
[4] 村上龍,『無趣味のすすめ』,幻冬舎,2009.
[5] サミュエル・P. ハンチントン,『文明の衝突』,集英社,1998.
[6] 宮崎智彦,『ガラパゴス化する日本の製造業』,東洋経済新報社, 2008.
[7] 山本 和也,『ネイションの複雑性―ナショナリズム研究の新地平 (人工社会の可能性)』,書籍工房早山,2008.

(学術情報センター長補佐 奥田隆史(情報科学部情報科学科))

 

『羽生善治 挑戦する勇気』 [請求記号:081/717/121]

羽生善治著 朝日新聞社(朝日選書) 2002年

 こんな本が大学の図書館にあるの??? と思われるかもしれませんが、あるんです。
 どうしてこのような本が図書館にあるのか?それは、この本が朝日選書のうちの一冊だからです。図書館では継続図書といって、内容の如何に関わらず刊行されるごとに購入するシリーズ図書があります。朝日選書をはじめ、岩波文庫、NHKブックス、ちくま新書などです。
 「ミトコンドリアはどこからきたか」とか、「エコノミック恋愛術」といったタイトルの本が、「源氏物語の時代」、「調査のためのインターネット」などの本と一緒に、2階小型図書のコーナーに並んでいます。専門分野と関係のない本も気分転換にいいですし、思わぬヒントが浮かんでくることもありますよ。
 図書館に入ってすぐの所には、大学連携による「共同図書環(館)」の図書があります。 こちらにもベストセラーや話題の本、多くの学生に読んでほしい一般教養書が並んでいます。 ご利用ください。
 さて、「羽生善治挑戦する勇気」ですが、羽生名人の考え方がわかりやすく書かれています。なぜならこの本は小中学生向けに行われた講演を基に書かれた本だからです。
 気分転換には水泳、集中するためにはボーとする時間が大切だそうです。勝利を導く4つのプロセスとして、知識を知恵に変える思考についても述べています。
 気軽に読める一冊としてお薦めします。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 松森)

 

『日本語が亡びるとき : 英語の世紀の中で』 [請求記号:810.4/Mi95]

水村美苗著 筑摩書房 2008年

 本書は12歳の時父親の転勤でニューヨークに住み、アメリカと英語になじめずに、思春期に日本近代文学全集を読み耽って過ごした女性作家の日本語論です。
 世の中は英語ブームで教育熱心な親はいかにして子供を英語好きにさせようかと躍起になっています。いよいよ2年後には小学校でも5年生から英語の授業が導入されることが決まりました。それに加えて、インターネットの普及です。著者は将来的にはグーグル・プロジェクトにより世界中の図書館の本がiPodにすべて収まるという中で、日本でも<叡智を求める人たち>は世界に向けて英語で読み書きするであろうと予測し、それは日本語を亡ぼすことになりかねないと警鐘をならします。そして今こそ<国語>としての日本語を護る大事な時であり、漱石、鴎外などの日本の近代文学を子供たちに読み継がせることに主眼を置くべきだと力説しています。
 メディアや新聞の社説(中日新聞3月22日朝刊)でも取り上げられた今後の日本語教育と英語教育に問題を提起する話題作です。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 金久)

 

『全球凍結』 [請求記号:450/2/469]

NHK「地球大進化」プロジェクト編 日本放送出版協会(NHKスペシャル地球大進化 46億年・人類への旅 2) 2004年

 すべての海は凍りつき、陸地は厚さ数キロの氷に覆われていた―。
 本書は、地球46億年の歴史の中で、少なくとも2回以上起こったと考えられている全球凍結に焦点を当て、それによっていかに生物の進化が飛躍的に進んだかを紹介しています。
 数千万年という長期にわたって凍結し、ほとんどの生物が死に絶えた地球に、どうやって再び春が訪れたのでしょう(それは春という言葉で表せるような生易しい温度変化ではありませんでしたが)。そこには、現代でも社会問題となっている温室効果ガスが大きく関わっています。
 私が「全球凍結」という言葉を知ったのは、この本の元となったNHKスペシャルをたまたまテレビで見た時です。この全球凍結は有力な仮説に過ぎず、異論も多くあるということですが、真っ白に凍った地球のCG画像は死の星を思わせ、非常に衝撃的でした。同時に、苛烈な環境変化を乗り越えて現在に至る地球のたくましさに感動し、たとえ人類が絶滅したとしても、きっと地球は別の生命を載せて生き続けるのであろう、と思ったことも覚えています。
 『地球大進化』は地球の歴史と生物の進化を、長いスパンで考えることができるおすすめのシリーズです。写真や図が多く、素人でも楽しめます。「全球凍結」は2巻に当たります。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 福崎)