[2009.8.3更新]

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2009年8月の5冊


 

 

『積乱雲の彼方に : 愛知一中予科練総決起事件の記録』 [請求記号:916/E78]

江藤千秋著 法政大学出版局 1981年

 終戦の日を抱く8月は鎮魂の月。「戦争」をめぐるさまざまな思いが、普段に増して人々の胸を行き交います。それがいかに人々から正気を失わせ、取り返しのつかない事態を引き起こし、拭うことのできない記憶となって苛み続けることになるのか、私たちは私たちのために残された数々の「記録」を、まず受けとめてゆくことを一歩としなければならないでしょう。
 本書は昭和18(1943)年7月5日、名古屋の愛知一中(現 愛知県立旭丘高校)に起きた「予科練総決起事件」の内実を、当時15歳で巻き込まれた著者自身の記憶に加え、その友人や家族の証言、日記、遺書、教員たちへの取材から記録したものです。予科練への志願者数を割り当てられ、特別な時局講演で生徒の心に火を付けた愛知一中の様子は、戦局の刻一刻の変化と併行しながら、生徒を取り巻く周囲の人たちのさまざまな思念をあぶり出してゆきます。生徒たちを志願させるのに躍起になった者、留めようとした者、どうとでもなれと傍観した者、教員たちの態度も分かれており、どのような教員が身近にいたのかで生徒たちの運命も左右されてゆきます。大正デモクラシーの自由主義教育世代である親たちの烈しい抵抗もあり、愛知一中での「総決起」は事実上崩壊し、志願者は全体の26%に留まりました。けれども志願して征き、還らなかった生徒たちはいたのです。
 入隊者たちが行進する桜通、「軍艦行進曲」「海ゆかば」を演奏する東邦商業学校(現 東邦高校)のブラスバンドなど、現在に通じる身近な存在もあらわれて、遠い出来事にはしていません。そして、今年78才になられた本学国文学科の卒業生にも、幼な友達をこの愛知一中事件で失った人がいます。16才で征ったその人を、12才の少女の目がどのようにとらえていたのか、そして、その出来事がその後の人生にどのような影響を及ぼし続けたのか(「文字文化は〈命の泉〉―戦時下名古屋の女子教育―:卒業生 長谷川文子氏に聞く」 )、こちらもご覧になってみてください。幼い少女が、「命の有限を無意識に感じていた」という切実な日々が、そこには確かにあったのです。

(学術情報センター長 宮崎真素美(日本文化学部国語国文学科))

 

『マナーハウス : 英國発貴族とメイドの90日』 [映像資料] [請求記号:DVD/1-3/465]

プレシディオ(発売) 2007年

 以前、『犬は勘定に入れません』 という本を紹介しました。イギリスの近未来の大学生が19世紀にタイムスリップする話で、自分もそんな体験をしてみたいと思ったものです。そう考えた人が他にもいたのか、このイギリスのTV番組では100年前の生活を再現してしまいました。8,000人から公募で選ばれた20人が、20世紀初頭の屋敷の主人やメイドなどそれぞれの役割になりきって、90日間を過ごしたのです。
 最初はコスプレ気分だった使用人役たちは、想像以上の過酷な生活を強いられ、不満がつのっていきます。一方、女主人役の女性は使用人に身の回りの世話を任せ切ることに戸惑いを覚えるのですが・・・。ラスト、20人が現代に戻っていく姿は感慨深いものがあります。参加者のキャラクターも見所の一つ。私のお気に入りは偏屈なフランス人コックです。
 さて日本では、明治時代の生活を再現することができるでしょうか。この番組を見てしまった今では、もし企画が持ち上がったとしても、私は応募する自信がありません。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 新川)

 

『吉田茂の自問 : 敗戦、そして報告書「日本外交の過誤」』 [請求記号:319.1//172]

小倉和夫著 藤原書店 2003年

 本書は、1951年に外務省内で作成され2003年に公開された「日本外交の過誤」という報告書(以下、本書に倣い「調書」と記します。)について、その全文を掲載するとともに、著者が調書を検証・解説・論述し、さらに過去及び現在の日本外交についても論じたものです。
 本書に収録されている調書とは、戦後日本の独立回復の直前期に、当時の吉田茂首相が外務省の若手幹部職員に直に指示して作成させたもので、満州事変以後敗戦に至るまでの日本外交の経緯を検証しています。作成当時の約20年前から数年前までを対象としていることから、作成に携わった外交官達にとって上司・先輩にあたる人達の仕事を、"過誤"として批判的に議論・評価するものとなっている点が、この調書の特色だろうと思います[1]。
 吉田自身も外交官出身であり、結局本書は「結果的に破局に到達してしまった昭和前半の日本外交の失敗を、次の世代の外交官が検証し、それを更に後輩の外交官である著者が検証する」という重層的な構成となっています。
 このような形をとっている本書を読みますと、ある歴史的な現象に対して異なる時点・地点・観点から繰り返して検証をおこなうことを通じて、その現象をより深く理解し、そこから今後の指針を学びとることもできるのではないかという、その可能性の大切さをあらためて考えます。
 本書は刊行直後を中心にいくつかの書評欄で採り上げられており[2]、その後も論壇でしばしば引用されるなど比較的よく知られた本ではありますが、近現代外交史論の書物としてだけでなく、読者に様々な示唆を与えうる本だと思いますので、今回あらためて紹介します。


[1]「2009年6月の5冊」で中田晋自先生が紹介していられた図書の主人公である広田弘毅(元首相・外相、外交官出身)も、この時期の日本外交の中心人物として当然その言動は検証の対象とされています。
[2]過去の書評を探す方法としては、(1)毎年刊行される『出版年鑑』の「資料・名簿編」に掲載されている新聞・雑誌書評リストを参照する、(2)出版社がインターネット上に公開している自社刊行物関連情報を参照する、(3)新聞社や雑誌社が自社のWebサイト内に設けた紙面書評欄のバックナンバーを検索する、などがあります。ただし(2)(3)は、必ずしも情報が存在するとは限らず、また(3)は、遡及可能期間が限られていることもあります。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 鋤柄)

 

『新大学教授になる方法』 [請求記号:377//1116]

鷲田小彌太著 ダイヤモンド社  2001年

 この書物を薦めさせて頂いたのは,将来,大学教授になりたいと考えている方にはもちろんのこと言うまでのないことであるが,その逆に全くにそうでない方にも,大学と高校とではどういう点が違うのであろうかという疑問に答えを投げ掛けてくれている観点において,大学生という立場にある今の皆さんにこそ広く,一読の価値があると考えるところにあります.
 この疑問に答えてくれている部分が,まさに本書の29〜34ページにあります.この書物は教える側の視点より書かれているが,このことを念頭に置き人称を入れ替えることによれば,教えられる側,つまり学生の側からでも充分に理解できる内容となっています.
 近年の大学新卒者対象の就職面接試験内容は把握しておりませんが,かつて10数年ほど前の一時期までは,面接官より聞かれる質問第1位に君臨していたものとして,「あなたは大学生活を通じて何を得ましたか」というのがありました.このことについても,上述の部分が何らかのヒントになるものと思います.
 本書では大学教授になるためには,学術論文が必要であると述べられております.私は恥ずかしながら,ある体験を通じるまでの当時の私の想像では,大学というところは専門性をより深めながらも,高校の延長のようなものなのではと思っていた時期がありました.しかしながら,本書を通じても知ることができるのですが,大学教授とは教育者でありながらも,新たなものを発見する,究明するという研究者としての側面も有しているのです.
 本書には論文の執筆技術についても掲載されており,論文作成における考え方を身に付けることは,大学教授にならなくとも,どの職種に就いた場合にも役立つ場面があるものと思います.
 以上のような視点が備わるだけでも,価値・意義ある大学生活における勉学への意欲や,大学の先生の見方や接し方も変わってくるのではないでしょうか.
 本書を通じて大学生活における何らかのヒントを得て,大学生活でこそ体験できるものをより多く体験して,自分にとって有意義な価値ある大学生活を過ごされてください.

(情報処理教育センター 今西)

 

『戦う動物園 : 旭山動物園と到津の森公園の物語』 [請求記号:080/1855/12]

小菅正夫, 岩野俊郎著 中央公論新社(中公新書) 2006年

 動物園不況の時代から閉園の危機を乗り越えて存続を果たしただけでなく、それまでの動物園の考え方を超えた行動展示を実施し、世界中から来園してもらえる動物園となった「旭山動物園」。動物園不況を乗り切れず、一度は閉園を経験するも、日本で唯一市民からの寄付金で黒字運営される動物園となった「到津の森公園」。この本はこれらふたつの動物園を成功に導いた園長のサクセスストーリーを主にお二人の対談に基づいてまとめた本です。
 しかし、成功に向けた動物園づくりの軸となる動物行動理論や飼育理論、または子どもたちに対する教育理論なども展開されますが、現実社会における組織としての成功は、ドラマや映画のようにすぐれた能力を持った園長や現場の人々のアイデアや試行錯誤によるがんばりだけでは得ることはできません。実際に成功に到る仕事の大半は、まずはほとんどの決定権を持つ市長や職員の人達への説明や説得、次に伝統に左右されない独自の理論に基づいた動物園としてのサービスの実践による様々な働きかけや、直接的にボランティアとして活動してもらえるような働きかけと指導により、市民やお客さんを動物園の協力者になってもらうための活動だったようです。
 それらの活動は、他者の理解を得るプロセスであるといえます。他者の理解を得るというプロセスは、ビジネス、政治、教育、研究など様々な場面において重要な要素です。そのため、この本は、単純なサクセスストーリーとしてだけでなく、いろんな視点で読むことができ、いろんな分野で参考にすることができる内容となっていると思います。単純に最近流行の動物園への興味からこの本を読んだ私は、自分の仕事の進め方、教育や教育機関のあり方など、いろいろと考えさせられました。みなさんは、何について考えますか?

旭山動物園
http://www5.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/
到津の森公園
http://www.kpfmmf.jp/zoo/

(学術情報センター大学連携チーム 落合)