[2009.10.1更新]

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2009年10月の5冊


 

 

『Ambarvalia ; 旅人かへらず』 [請求記号:911.56/N87 ]

西脇順三郎著 講談社(講談社文芸文庫) 1995年

 秋が訪れた、と感じられた日に必ず開く書物があります。『旅人かへらず』。もう、長い間の繰り返しで、もちろん、毎年のその日は同じではありません。
 作者西脇順三郎(1894-1982)は、日本の近代詩に奇抜な風を吹き込んだ詩人です。通常のイメジの連鎖でことばを接続させず、夢の中の出来事のように不可思議な接続で作品を綴る手法は、第一次大戦後のヨーロッパで生まれた「シュルレアリスム」(超現実主義)を現地で体験したことによります。それは、次のような美しい結晶となってあらわれました。
 (覆された宝石)のやうな朝/何人か戸口にて誰かとさゝやく/それは神の生誕の日。
 この三行詩は「天気」と題され、昭和8年に出版された詩集『Ambarvalia』(ギリシャ語で「穀物祭」の意)の巻頭に置かれています。
 このような詩風で鮮烈な登場をした詩人が、戦争をはさんでのち、昭和22年に出版したのが、詩集『旅人かへらず』でした。
 三二 落ちくぼむ岩/やるせなき思ひ/秋の日の明るさ
 三七 暮るるともなき日の/恋心/山里の坂/どんぐりの果の恋しき

 これはどうしたことでしょう。先の詩「天気」がカラリと乾燥した西洋的な世界であったのに対し、こちらはずいぶん湿潤で日本的です。西脇の超現実的手法に刺激され、憧れて詩作をした詩人は多くいました。彼らのなかには、『旅人かへらず』における変貌ぶりに落胆を隠さず、『Ambarvalia』の詩「カプリの牧人」(春の朝でも/我がシヽリヤのパイプは秋の音がする。/幾千年の思ひをたどり。)をもじり、「風邪をひいた牧人」(北園克衛)と論評した詩人もいたほどです。
 168篇の短詩の世界を紡ぐ旅人は、「幻影の人」と名づけられています。
 路ばたに結ぶ草の実に無限な思ひ出の如きものを感じさせるものは、自分の中にひそむこの「幻影の人」のしわざと思はれる。(「はしがき」)
 この人とともに詩篇の世界を歩み、そして、この人をいつものように見送ること。くり返される〈淋しき〉散歩を、今年もまた、してみました。

(学術情報センター長 宮崎真素美(日本文化学部国語国文学科))

 

『南方熊楠・萃点の思想 : 未来のパラダイム転換に向けて』 [請求記号:289.1/Ts85]※旧共同図書環

鶴見和子著 藤原書店 2001年

 「南方熊楠」・・・「なんぽう くまくすのき」などと読む人もいるのかもしれません。
 正しくは「みなかた くまぐす」で、日本を代表する生物学者、民俗学者です。特に動物の特徴と植物の特徴を併せ持つ粘菌の発見者であり研究者です。
 熊楠は子供の頃から、驚異的な記憶力を持った神童で、100冊の本を一読し、すぐに書写する特殊な能力を持っていたようです。また、何日も山に入り昆虫や植物を採集することから、天狗というあだ名がありました。
 学者としては、日本の民俗、伝説、宗教を広範囲な世界の事例と比較し論じ、比較人類文化学を展開しました。また、菌類の分野でも新しい種70種を発見するなど、生物学者としての功績は大きく世界的な評価も高いようです。
 本書の著者は、大乗仏教の曼陀羅を偶然と必然を同時にとらえる方法論のモデルとして読み解いた「南方曼荼羅」は、通常の科学では解明できない状況を新たなパラダイムへ転換する役割を持っていると評しています。
 南方熊楠はエキセントリックで衝撃的な個性を持った魅力的な存在です。その創造的な思考に触れだけで、頭の中が整理できるだけでなく、眠っていた新たな思考が目覚める機会になると思います。
 本書はその入門としてお勧めします。深く読み込みたい方は中沢新一編者の「南方民俗学」をお勧めします。
 秋の夜長に、南方熊楠はいかがですか。6か月後には、読んだ人それぞれの思考の中に粘菌が誕生するのではないでしょうか。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 春日井)

 

『博士と狂人 : 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』 [請求記号:833.1/W76]

サイモン・ウィンチェスター著 鈴木主税訳 早川書房 1999年

 私は英語には疎いので、OED(オックスフォード英語辞典)には縁がありません。が、タイトルに惹かれて手に取ったこの本を、たちまち読み終わってしまいました。
 OEDの特長の一つは用例が豊富なことだそうです。その用例を集めるために協力した多くの人々の中でも、マイナーは最大の貢献者でした。編集主幹マレーが、手紙だけのやりとりだったマイナーに初めて会いに行ったときの光景がまず描かれます。立派な屋敷に通されたマレーが、その主人に「マイナー博士ですね」と言うと、「いえ、彼はこの精神病院の患者です」と、主人――病院長は答えるのです。
 貧しい生活をしながら、独学で言語学を学んでいたマレーと、南北戦争の従軍医師であったマイナー。二人の半生が交互に描写され、そして交わります。もちろん、OEDの成り立ちも丁寧に説明されています。OEDを引いてみようという気に・・・はなりませんでしたが、その偉大さは十分伝わりました。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 新川)

 

『世界食文化図鑑』 [請求記号:383//476]

スージー・ワード, クレア・クリフトン, ジェニー・ステイシー著 東洋書林 2003年

 図鑑は自由気ままにページを開いて読めるのが楽しい形式です。この図書の場合、世界の食の旅という要素もあり、行き当たりばったりあちこち観て回れます。穀物・野菜・フルーツ・乳製品、それから魚・肉、ハーブにお茶など。そして人類と食物の歴史に思いをはせ、長い時間の中を漂いましょう。
 ところで、今回「食」についての本を求めて書架の間をうろうろしました。ご存じの通り、図書館の図書は分類ごとにまとまっておかれています。けれども「食」というテーマの本といっても、ひとつところにある訳ではないのです。まず、最初に行くべき棚は「食品・料理」の596の棚でしょうか。他には「民俗学の食」なら383、「食品・栄養」なら498、「食品工業」なら588、農業なら610といった具合です。紹介した図鑑は、民俗学の383の棚にあります。
 書架の間を歩いていると思いがけない本との出会いがあるのと同様、図鑑の中にも出会いがあることでしょう。秋です。ぜひ、図書館と図書の中をブラウジング・ウォーキングして、読書とスポーツ(?)の秋を満喫しましょう。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 平田)

 

『アセンブラ入門(CASL)』 [請求記号:007.6//570]

エスシーシー出版局 編 電子開発学園 1989年

 図書館内で整理中の図書をふと見たとき、「アセンブラ」の文字を何年ぶりかに発見、懐かしさでいっぱいでした。加えてその昔民間企業に勤務していたとき、残業に苦しめられた原因が「アセンブラ」を解読してのエラーチェックでしたので、あのときの苦しみも思い出しました。このようなきっかけで、図書館2階の書架007分類のところまで行き「アセンブラ入門(CASL)」を発見しました。
 「アセンブラ」の言葉の響きは、植物のアセロラの種類、それともおまじないの言葉をイメージしてしまいそうですが、コンピュータが理解できる機械語(2進数・・・0と1の数列)に一番近い言語の名前です。正式にはアセンブラ言語(またはアセンブリ言語)といいます。C言語などがコンパイル(翻訳)されアセンブラとなり、さらに機械語となりコンピュータは理解できます。見た目とっつきにくいのですが、わかってくると面白くなり、でも遠ざかるとさっぱりわからなくなる、そんな言語です。細かい動きが指定できることがウリです。(C言語などでは1行で済む記述もアセンブラにコンパイルすると4、5行になります。)
 この図書は初心者向きで「アセンブラ言語」の概要、命令の意味、記述方法などわかりやすく解説しています。練習問題、応用プログラミングも付いています。
 図書館内で見かけた「アセンブラ」の図書、どなたかがリクエストしてくださったようです。いろいろなコンピュータ言語が存在しても「アセンブラ」は必要とされる方が存在するのですね。OPACで検索すると7冊ありました。(2009.9.11現在)
 なかなか自分でプログラミングして試す機会もないと思いますが、この泥臭いアセンブラの世界を皆さんも体験してみてください。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 杉山)