[2009.12.1更新]

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2009年12月の5冊


 

 

『さんぽ日和 : 名古屋・愛知編』 [請求記号:291.55/Sa66]

points de tricot編 リベラル社 2008年

 2009年もあとひと月となりました。街も人も、新しい年との境に向けてざわめいて参りますね。そこで、心和らぐ「さんぽ」の本のご紹介です。みなさんはどんな「さんぽ」をお好みでしょう。哲学者、西田幾多郎の思索を助けたことで知られる「哲学の道」はあまりに有名ですね。いつもの道をいつものテンポで歩くそれ、探検よろしく違った趣向を求めて歩くそれ、10月に紹介した『旅人かへらず』 の世界も、不可思議な想念のそれでした。
 本書は、地元愛知のさまざまな「お店」をめぐる「さんぽ」です。カフェ、雑貨店、和菓子店、伝統工芸店などなど、実に多様な店めぐりが、そのまま地域探訪に重なります。いわゆるガイド本と決定的に異なっているのは、店主との温かで奥行きのある対話のありようが、写真の一枚一枚、添えられた言葉の端々からあふれ出し、それぞれの物語が紡ぎ出されているところです。それが、おしつけがましくなく、自然にさりげなく表現されているところが、何とも魅力的に思われます。
 それらは、「千人の新しいお客さんよりも一人の人に千回来て欲しい」(はちみつ専門店の店主)という言葉、「小さくてかわいいもの/たとえば昔のカギ/アルミのスプーン/ラムネ色の小瓶/古くて魅力的なもの/たとえば木製の椅子/ガラスのペッパー&ソルト/シルバーのブローチ/(中略)/すっきり甘くておいしいもの/スワンサイダー/(中略)/教えたいような/秘密にしたいような/常滑の雑貨屋さん」といった眼差しにあらわれています。
 このやわらかな眼差しの持ち主は、高橋玲子さん。本学の卒業生でいらっしゃいます。本書の姉妹本は全国の「さんぽ」シリーズとして20冊を数えますが、その中の一冊、『雑貨屋さんぽ 名古屋・愛知編』 は、三省堂名古屋高島屋店、パルコ4Fリブロ名古屋店などでベストセラーとなりました。ご存知の方も多いでしょう。
 来る12月16日(水)の午後、これら人気の書籍を編集している高橋さんが、本学で「編集者のお仕事」 について話しをしてくださいます。ぜひ、いらしてください。学術情報センターの2009年は、みなさんの先輩、高橋さんのご講演で楽しく締めくくりたいと思います。

(学術情報センター長 宮崎真素美(日本文化学部国語国文学科))

 

『海に消えた星の王子さま Saint-Exupery, L'ultime Secret : Enquete sur une disparition
 [請求記号:950.278/P88]

ジャック・プラデル,リュック・ヴァンレル著 神尾賢二訳 緑風出版 2009年

 『星の王子さま』(1943年)の作者アントワーヌ・ドゥ・サン=テグジュペリ(1900−44年)が飛行機乗りであったことは知られていても、彼がナチス・ドイツと戦う自由フランス空軍の『戦う操縦士』(1940年)として戦死したことはあまり知られていないかもしれません。彼が搭乗する偵察機ライトニング223号が、コルシカ島を飛び立ったきり「行方不明」となったのは、第二次世界大戦末期の1944年7月31日のことでした。1998年、地中海のマルセイユ沖で操業していた漁師の網にブレスレット(アントワーヌと妻コンシュエロの名前が刻印)がかかったことから、同機が海上に墜落した可能性が高まり、海中に沈む同機が正式に確認されたのは、墜落から60年余りを経た2003年のことでした。しかし、墜落の理由は依然として分からないままでした。
 2008年3月になって、ついにその真相本『サン=テグジュペリ、最後の謎:行方不明の真相』がフランスで出版され、その翻訳本が今回ご紹介する『海に消えた星の王子さま』です。『星の王子さま』のファンたちからは、王子さま同様、「行方不明の真相」は「謎」のままでよいとの声も聞こえてきそうですが、人間としてのサン=テグジュペリをより深く理解するためにも、あえて本書をオススメしたいと思います。
 自由フランス空軍のなかでは飛行中隊司令官の地位にあったものの、サン=テグジュペリは高齢を理由に、米軍から飛行を禁じられていました。飛行許可を求める彼は、自由フランス軍総司令官だったジロー将軍の取りなしによって、ついにアイゼンハワー連合国軍総司令官の説得に成功します。こうして晴れて軍用機に搭乗するサン=テグジュペリでしたが、(結局最後となった)偵察任務に先がけ、妻や友人に宛てて置手紙を残していました。その内容は、文字通り「決死の覚悟」と呼ぶべきものであり、このエピソードに評者はますます彼への憧憬の念を強くしました。さらに本書は、サン=テグジュペリの最期にまつわるもう一つの悲劇を用意しています。この日、マルセイユ上空で彼の偵察機に遭遇したドイツ軍飛行兵もまた、彼の作品をこよなく愛する一人の読者であり、かねてから憧れの人と「空」で出会うことをおそれていたといいます。

(学術情報センター長補佐 中田晋自(外国語学部ヨーロッパ学科フランス語圏専攻))

 

『クリスマス・キャロル』 [請求記号:933.6/D72]

ディケンズ著 池央耿訳 光文社(光文社古典新訳文庫) 2006年

この季節に相応しい古典です。最近映画化されたので知っている人も多いでしょう。
この作品は、孤独な老人スクルージがクリスマスに救われる物語です。
スクルージは、悪人ではないが、ケチで人付き合いが嫌いで、慈善と博愛の精神に欠けた人物です。
そんな彼は、クリスマスの夜、クリスマスの精霊に出会うことを共同経営者だった友人の霊に教えられます。
精霊は、スクルージに過去と現在と未来を見せ、金儲けを否定し、弱者救済と慎ましい生活を肯定し、 寂しく死んでいく老人(=スクルージと思われる)と気高い魂で家族に思われながら死んでいく幼子を対比させて、 スクルージに未来を変える機会を与えます。
そして、スクルージは生まれ変わったように慈善家となり、ひとびとに讃えられ、幸せな人生を送ります。
宗教的には、まさにクリスマスの奇跡なのでしょう。
しかし、精霊は、自分自身に正面から向き合うときの不安感、他人より自分が不幸であることへの恐怖感、 それらの精神的ストレスに耐えきれなくなったスクルージの深層心理が自己防衛のために見せた幻想であり、 意固地になって周りを遠ざけていたスクルージは、実はいいひとになりたかったのではないでしょうか。
なお、内容は難しくなく、読後感はとてもさわやかですので、クリスマスの前に目を通しておくことをお勧めします。

(情報処理教育センター 浅野)

 

『私の昭和史』[正篇]・戦後篇上・戦後篇下 [請求記号:911.52/N37/[0]-2]

中村稔著 青土社 2004-2008年

 今回この本を紹介しようと考えたのは、「2009年1月の5冊」 欄で加藤義信先生が採り上げていられました加藤周一著『羊の歌』『続 羊の歌』からの連想によります。加藤周一氏(1919-2008)と本書の著者である中村稔氏(1927-)とは生年が比較的に近く、自伝としてほぼ同じ時代を記述していること、医師または裁判官といういわゆる知識層の家庭に育ち、府立中学、一高、東大を経て、医師あるいは弁護士となっていること、文学の分野においても共に第一人者としての事績をものしていること、といった事項のほかに、周囲の動静を詳細かつ客観的に記録分析しつつ国内外社会の大きな動向へと繋げていること、その中における自身について語る場合には冷静な他者の視点をもち一定の距離を保持していることなど、類似している面がいくつもあります。また、いくつかの挿話(たとえば一高国文学会における大野晋氏、小山弘志氏、中村眞一郎氏らによる万葉集などの古典輪講への参加)は共通していますし、双方の文中で互いに登場人物となってもいます。
 いっぽう、両書の相違点としては、加藤氏が自己を素材として事象の本質を追究しようとするのに対して、中村氏は、出来事を記述し、当時の自身の考えや態度を顧み、それを率直に容認したうえで自己評価を行い、それを時代のなかに位置づけようとしているように読み取れます。また、戦争が苛烈を極める時期での年齢や立場の差異(大学病院勤務の若い医師と一高(文科!)の生徒)は、言うまでもなく両氏の以後の足取りに異なる作用をもたらしているように思います。
 以上のような意味で両書は、交互に読み返すことによりいっそう深い読書をすることができると考えられます。
 本書を読んでひじょうに印象深いのは、穏やかで余飾のない文面、出来事に対する観察、克明な記述、著者の数多く幅広く奥深い交友、交友のある(あった)人へのいたわり、また、歴史上の重要な事件や人物とのつながりの多さ、総じて、人生を大切に生きてきた人であろうことが伝わってきます。
 また、それ自体が一種の作品と言えるほどによく整えられた目次も、本書の特徴のひとつに挙げられるでしょう。
 中村稔氏は、知的財産法を主な専門とする弁護士・弁理士であり、またいっぽう現代日本を代表する詩人のひとりで日本近代文学館理事長なども務められたことのある方です。本書または本書に至る業績に対して毎日芸術賞や井上靖文化賞、朝日賞が、その他にも多数の作品に受賞歴があり、本書と同じ版元から同じ装幀で著作集(全6巻)も刊行されています。
 本書3冊は、月刊「ユリイカ」誌上に2002年から2008年までの間の前後2回それぞれ2年余り、計59回にわたった連載をまとめたものですが、まだようやく1961年1月に到達したところです。さらに続篇を書きたいとの著者の意向が、3冊目の後記で述べられています。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 鋤柄)

 

『水族館の通になる : 年間3千万人を魅了する楽園の謎』 [請求記号:480.76/N37]※旧共同図書環

中村元著 祥伝社(祥伝社新書) 2005年

 本書は、「水族館と動物園はどこがちがうの?」などの基本的な疑問から始まり、「水族館の水はなぜきれいなの?」、「死んだ魚は食べちゃうの?」などの素朴な疑問、「ピラニアの水槽掃除は怖くないの?」、「誰の食費が一番高い?」など誰もが一度は考えそうな疑問など、様々な疑問に各所で水族館アドバイザーを努める筆者が答えてくれる本です。
 「深海の生物は飼えるか?」では、深海生物の飼育方法の研究が盛んになっていて深海生物用の大水槽を用意する水族館もあり、小さめのリュウグウノツカイが生きて捕獲されれば飼育できるかもという話にワクワクしました。その成果か近年はダイオウグソクムシなどより多くの深海生物を飼育・展示する水族館を目にするようになりました。ですが、依然として多くの深海生物の生態は謎につつまれており、その飼育はまだまだ難しいようです。
 「世界最大の水族館は?」では、当時世界最大だった「黒潮の海」という水槽を持つ沖縄美ら海水族館が紹介されており、読んだ時にはぜひ広大な水槽をジンベイザメが泳ぐ姿を見たいと思いました。調べてみると2009年現在は、アトランタのジョージア水族館 の水槽「Ocean Voyager」が水量23,500tでダントツの第1位、アラブ首長国連邦のドバイ・モールに造られたドバイ水族館 の水槽が10,000tで2位、そして沖縄美ら海水族館 の水槽「黒潮の海」が7,500tで3位となっているようです。「黒潮の海」の3倍以上の規模の水槽があるとはビックリです。ちなみにどの水槽も香川県の日プラ株式会社 という会社のアクリルガラスだそうです。
 この本は、それほどマニアックな内容はなくタイトルある「通」というのは言い過ぎな気がしますが、読めば水族館をより楽しめるようになると思います。
 最後に。私のお薦めの水族館は鳥羽水族館 です。大規模な水族館であり、名古屋から日帰りで行ける立地条件もよいですが、一番のお勧めポイントは順路がないことです。12のゾーンや特別展示室などを好きなところから見て、行ったり来たり自由にできます。また、「うら側探検隊」という普段は見ることのない水族館の裏側を見るとこができるツアーもあります。私のお気に入りはここのスナメリです。見ていると癒されます。

(学術情報センター大学連携チーム 落合)