[2010.2.25更新]

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2010年2月の5冊


 

 

『江戸っ子菓子屋のおつまみ噺』 [請求記号:588.36/H93]

細田安兵衛著 慶應義塾大学出版会 2009年

 寒いうえに、試験やレポートで大忙し。温かいお茶と甘いものが必需品という方は多いのではありませんか? 今回は老舗の菓子屋「榮太樓総本舗」のお噺です。「七段松(山が七つ)の中に「榮太樓」の文字が右書きで入っている」あの商標に、きっと見覚えがおありでしょう。
 菓子屋「榮太樓」をめぐって見えてくる、幕末から現代にいたる日本の歴史と文化と心意気。「野暮」をきらう六代目は、本書のいたるところに「なるほど」と首肯させる名言をちりばめています。
 「古いものには苔が生えますが、黴が生えるものは古くさいものです。
 また、近年話題の「日本橋再開発」に関わっては、「残・蘇・創」(「世に残すべきものは残し、失ったものは蘇らせ、そして新しいものを創造してゆこう」)を提唱しています。
 「粋」な装幀の本書には、梅干しの味がしないのに「梅ぼ志飴」であるわけや、榮太樓の「金鍔」がなぜ丸いのか、といった今も人気のお菓子達の由来はもちろん、「茶目でお調子者」だった幼き著者が、「両足にソロバンをくくりつけて」畳廊下を滑走したとき祖父が諭した商人の心ばえ、関東大震災で被災した榮太樓に、同業者「川越亀屋」が寄越した「荷馬車一台分の小豆」に見る「気遣いと友情」など、人の潤いがたくさん詰められています。
 震災や戦災、一族からの出征と戦死など、老舗をめぐる物語は実に波瀾万丈ですが、それらを乗り切る「人」の力のありさまを、さらりと語る著者の手法は見事です。私たちを容赦なく取り巻く困難はいつの世にもあること、そして、それに真向かって生きてゆく人の心と知恵の交流をあざやかに伝えてくれています。

 暦の上では、はや「立春」。春のお菓子もお目見えです。

(学術情報センター長 宮崎真素美(日本文化学部国語国文学科))

 

『人間の大地』 [請求記号:958/3/362]

サン=テグジュペリ著 山崎庸一郎訳 みすず書房(サン=テグジュペリ・コレクション 3) 2000年

 『星の王子さま』(1943年)の作者として知られるフランスの作家アントワーヌ・ドゥ・サン=テグジュペリ(1900−44年)は、フランス空軍で兵役に就いた経験を生かし、フランス民間航空会社による航空便の路線開拓に尽力した郵便飛行士としても知られています。第二次世界大戦末期の1944年7月31日、自由フランス空軍の偵察任務のため飛び立った彼は結局帰らぬ人となりましたが(彼の経歴や行方不明の真相については『海に消えた星の王子さま』を紹介した2009年12月の「今月の5冊」を参照)、作家としての彼は、生前、当時としては非常に危険で死と背中合わせの飛行に、勇気と使命感を持って立ち向かっていく飛行機乗りたちの生きざまを、自らの作品のなかで描いています。
 飛行機乗りたちの経験は、決して「空」で完結するわけではありません。『星の王子さま』でも、砂漠に不時着する一人のパイロットを登場させているサン=テグジュペリですが、『人間の大地』(1939年)を読んでいくと、これが彼自身の実体験であったことを知り、彼が水を求め、命がけで砂漠を歩んでいく姿に胸を打たれます。上空でも地上でも、彼が五感を通して感じ取った全てのこと、彼が体験した全てのことが、ここに「人間」の考察として集約されています。英語版タイトルをWind, Sand and Starsとして公刊し、アメリカで大ヒットを飛ばし、「全米図書大賞」を受賞した『人間の大地』は、フランスでも、アカデミー・フランセーズの「小説大賞」受賞するなど、高い評価を受けます。
 それにしても、当時とりわけ夜間に飛行するという行為は、『夜間飛行』(みすず書房、2000年)に序文を寄稿したアンドレ・ジッドが述べているように、「きわめて無謀とされるもの」(3頁)とされていたことを考えると、それでもなぜ彼らは飛行機に乗るのかという疑問が思い浮かびます。その答えは、もしかすると『人間の大地』の冒頭に登場する「アルゼンチンでの最初の夜間飛行」のシーンを読むことによって、理解できるかもしれません。かの宮崎駿が深く傾倒したというサン=テグジュペリが描く「飛行機乗りたちの世界」に、皆さんもふれてみてはどうでしょうか。

(学術情報センター長補佐 中田晋自(外国語学部ヨーロッパ学科フランス語圏専攻))

 

『ぼくらの言葉塾』 [請求記号:080/I95B/1215]

ねじめ正一著 岩波書店(岩波新書) 2009年

 人と人の間をつなぐアイテムのひとつは「言葉」です。しかし、言葉の使い方でトラブルになったり、誤解を招いたりもします。時には無闇に使った「言葉」が戦争の原因となることもあります。
 巧みに使う必要はないかもしれないけど、適切にかつしっかり気持ちを乗せた言葉を使いたいものです。
 そこで、紹介したいのは、「ぼくらの言葉塾」です。
 この本は、詩や俳句、歌を題材に言葉の持つパワーやそれを生み出している人間の魅力に焦点を置いて書かれています。特に、私の大好きな谷川俊太郎やまど・みちお、長新太等の多数の詩を引用して、丁寧に言葉の意味を解読し、言葉の味わい方や楽しみ方を指南しています。
 また、当時、私も注目し、興奮して観ていた、谷川俊太郎とねじめ正一との朗読力を3ラウンド競う「詩のボクシング」(平成10年放送)が紹介されています。ラウンドごとのふたりの駆け引きから、詩を読む醍醐味が伝わってくるだけでなく、読み方や声の質により言葉の印象が変幻する言葉の可能性を見せつけられ、印象深いイベントとして今でも鮮明に記憶残っています。
 私たちの周りに、言葉は音となり、文字となり氾濫しています。時には過激に、問答無用に押し寄せてきています。その中にあり、ずいぶんと粗雑で乱暴な言葉を日々使っていることに時折気づくことがあります。
 この「ぼくらの言葉塾」は、言葉の魅力や心地よさを再認識させられるだけでなく、混乱した脳の言語中枢を穏やかにしてくれます。また、自らも詩を書いてみようと思わせるような創作意欲も湧いてきます。私も近日中には「実は、その時に・・・」をテーマに詩を書きたいと思っています。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 春日井)

 

『雪のひとひら』 [請求記号:933.7//101]

ポール・ギャリコ著 新潮社 1975年

 今年2010年は、銀世界で始まりました。その銀世界の始まりは遠く上空の雪のひとひらにあることを、この物語は思い出させてくれます。雪のひとひらは、自分がなぜ生まれてきたのか、どこへ行くのかと問いかけながら原っぱに舞い降り、その後思いもかけない経験・冒険を重ねていきます。雪のひとひらの一生は「女の一生」にもなっており、そのピュアな存在によって描かれる細やかな心の動きを楽しんでください。そしてまた雪のひとひらの眼を通して、日の光、緑の葉、水のきらめきなどの自然、女の子の青い目や人々の笑い声など世界の美しさを感じてください。
 時折、著者を女性だと思い込んでいたら実は男性で驚かされることがあります。この物語の著者ポール・ギャリコには、他に『ジェニィ』という主人公の少年が猫として暮らすことになる作品がありますが、猫になったことがあるかのようです。性別も種も越えることのできる稀有な作家の一人です。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 平田)

 

『目的から逆引き!いますぐ実務で使えるExcel統計データ分析』 [受入中]

藤原慎也著 秀和システム 2005年

 今やホームページ作成能力やこれに関する知識は就職し配属された部署に関わらず社会人として誰でもが有しているべき素養の1つと言っても過言ではない風潮に次第に変わってきているのと同様に、コンピュータ導入環境の充実が今以上にさらにどんどん進めば進むほど、私の予想では就職し配属される部署に関わらず社会人として誰でもに統計分析能力を求められる時代が到来するのはそう遠い将来のことではないように思うのです。
 統計分析はコンピュータが普及する前までは数学の得意な人以外は踏み入れないような領域の雰囲気があったところを、いわばコンピュータの普及が、少々のコンピュータ操作能力を有し分析結果を出すだけなら、数学が出来る人もそうでない人も横一線にしてくれる時代を到来させてくれたのです。
 本書を活用・利用する場合の私のお薦めの方法は最初のページから理解を積み上げて行こうとせずとも、一番に興味深い統計分析事例紹介であるPart3 から直ぐに読み進めて行って欲しいと思います。
 卒業論文に統計分析結果を取り込みたいと考えている方は、自分は数学ができないからと念頭から除外してしまうのではなくて、今の時代は計算をコンピュータにやらせることで、数学が出来なくとも、数学を知らなくとも統計分析結果を出せる時代ですので、本書を大学1年生の今のうちから、気軽な気持ちで眺めることから始められたら良いと思います。
 本書の特徴、有り難い点としては、1つの統計分析テーマ事例の取り上げにおいて解説ページの割り当てが多くとも5ページ程度と少量のために全体像を即座に捉えやすくなっていることにあります。
 このことより、理解への到達はちょっとした細切れ時間の活用ででも出来そうですので、通学や通勤時のかばんの中、大学卒業後でも勤務先の自分の机の引出しの中に忍ばせておきたい一書になると思います。

(情報処理教育センター 今西)