[2010.6.1更新]

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2010年6月の5冊


 

 

『すごい本屋!』 [請求記号:共同図書環]

井原万見子著 朝日新聞出版 2008年

 陽射しが夏の気配をふくんで参りました。今回は、そこでもきっと濃い緑がきらきらと輝きはじめているのに違いない、和歌山県の山奥にある広さ20坪の書店のお話しです。
 生活雑貨も扱う書店、「イハラ・ハートショップ」。店主の井原さんは、80歳を超えるお年寄りから幼児まで、村の人びとに必要とされる店作りを自然体でおこなってきました。自然体というと流れに身を任せているだけのように聞こえもしますが、それは、彼女の他者に対する温かい眼差しと共感、そして鋭い観察に支えられているものです。
 京都、大阪、東京の書店や版元との交流、そこからはじまる村の小学生たちによる選書、名だたる絵本作者たちの原画展や絵描き大会、写真家によるお話し会、大人のためのトークイヴェントなど、何百人という人が集まる企画の実現されてゆくさまが、やわらかな文体に包まれて、まるで自然に記述されてゆきます。
 そういった「すごい!」エピソードのなかの圧巻は、「森君、今森さんと会う」のくだりです。村の少年「森君」は、自分の読んだ本の著者「今森さん」に、和歌山県の最優秀賞に選ばれた自身の感想文を読み聞かせるという夢のような経験をします。しかも、自分の村の神社で。「イハラ・ハートショップ」とともに展開するこの出来事の経緯は、実にドラマティックです。
 本書では、井原さんの書店を「周回遅れの最前線」と形容した同業者の言葉が随所に引用されています。NHKをはじめとする多くのメディアによる取材対象ともなっているこの書店。「周回遅れの最前線」の意味を、ぜひ、読んで探ってみてください。

 ところで、井原さんの村の子どもたちもおこなっている「選書」。本学でも、来る6月10日(木)に、学生のみなさんを対象に「選書バスツアー」 別ウィンドウが開く をおこないます。私たちと、本を求めて楽しく出かけませんか。ご参加お待ちしております。

(学術情報センター長 宮崎真素美(日本文化学部国語国文学科))

 

『「星の王子さま」を哲学する』 [請求記号:953.7/Sa22]

甲田純生著 ミネルヴァ書房 2006年

 L'essentiel est invisible pour les yeux. 「大切なことは目に見えない。」
 私たちが大好きなあのキツネが王子さまに授けたこの秘密。サン=テグジュペリ『星の王子さま』には、こうした重要なテーゼがたくさんちりばめられています。世界で愛されるこの物語を「哲学」しようという、題名からして何か野心的なにおいのするこの本を、筆者は「〈文芸批評〉のスタイルをとった『哲学入門』」であるといいます。
 スタイルとしての〈文芸批評〉について、筆者は次のように説明します。すなわち、『星の王子さま』の解説本は多数公刊されているけれども、それらは「解釈」と「批評」とに区別される必要がある。「解釈」はいわば手品の〈種明かし〉であって、解説されてしまえば、楽しみはおしまい。これに対し筆者が目指す「文芸批評」は、むしろ読者がどのような方向へ「想像力」を働かせればよいかを示すものである、と。
 ですから、例えば「大切なことは目に見えない」というフレーズについて、作者サン=テグジュペリの個人史に立ち入って、「大切なこと」とは何だったのかを解説するようなことはないでしょう。「大切なこととは何か?」という問いを哲学的な問題と捉えた上で、私たち自身が私たち自身の問題として思索する。『星の王子さま』は、まさにその題材と位置づけられる訳です(「星の王子さま」哲学する?)。
 「哲学」と聞いて、少し敬遠したくなってしまう人でも、題材が『星の王子さま』なら、楽しく学べそうではないですか?そして、もし筆者の目論見通り、「哲学」の世界に興味が沸いてきたら、筆者が「兄弟本」と位置づけている甲田純生『スリリングな哲学―人間を知るための旅―』(晃洋書房)もあわせて読んでみて下さい。どちらの本も、平易な文章で書かれているので、すらすら読めます。

(学術情報センター長補佐 中田晋自(外国語学部ヨーロッパ学科フランス語圏専攻)))

 

『食べる人類誌 : 火の発見からファーストフードの蔓延まで』 [請求記号:383.8/F21]

フェリペ・フェルナンデス=アルメスト著 小田切勝子訳 早川書房 2003年

 この本は、人類史上において、大きな影響を与えた「食」を古今東西のエピソードから解析し、人類文化の歴史を読み解き、現代の「食」の在り方に問題を投げかけています。
 人類の20億人が主食とし、毎日のように食べているコメはライ麦、大麦、トウモロコシなどのイネ科の食物として元来は牛などの反芻動物の主食でした。非反芻動物の人間が食べることがなかったコメを何故、摂取するようになった出来事とは・・・。
 人間は元来、カニバリズムで人肉を食べていたことなど、ショッキングな歴史的事実をテーマ別に解析した、時空を超えたドキュメンタリー作品です。
 著者は「電子レンジの導入が社会的な行為としての料理と食事の終焉を現実のものにする。」結んでおり、また、警告として「食べ物の歴史における最初の大革命が取り消される危機にさらされているということだ。」している。
 ふと、15年前の新婚間もない後輩の言葉を思い出した。「私は、皿を洗ったことがありません。皿にラップをひいて、いつもチーンです。手も汚れないので便利です。」
 日本酒が有名だという居酒屋の奥からも、「チーン。チーン。チーン。」と聞こえ、酒について講釈を語っていた店主の顔を苦々しく思い出しました。
 少し、当然のように思っている「食」を見つめてみませんか。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 春日井)

 

『妙なる技の乙女たち』 [請求記号:共同図書環]

小川一水著 ポプラ社 2008年

『妙なる技の乙女たち』より「天井のデザイナー」

本書は、一応SFであり、短編集です。
その1本目である本編を読んで浮かんだ感想が、「面白い」、「普通だ」、「続きはないのか」などでした。
小難しいことを考えなくても読めるSF小説です。

作者は、日本SF小説界の旗手であるそうで、ほかの作品も、そういえば聞いたことある、ぐらいには知られています。
しかし、本編の面白さは、決してSFであることに依ってはいませんし、SF要素をすべて取り払っても作品として十分成立します。

本編は、宇宙関連の工業デザイン会社入社3年の若手社員が先輩社員を差し置いて宇宙服のコンペに出品し、そして...という、よくあるストーリーだと思います。
しかし、デザインの手法を学んでいく主人公と、この泡沫企業に慣れてしまった社長や先輩社員の言動・行動とに着目していくと、SF小説という印象はなくなるのではないでしょうか。
主人公は、やる気のない先輩たちを当てにせずデザインを進めようとしますが、製品はみた目が重要なだけではなく、法令や規格に準拠し、既存製品の材質とデザインが採用されている理由を考慮してデザインするという基本をおろそかにしてはいけない、ことを先輩から教わります。思いつきや思い込みでは仕事は進まないということを入社したてのころきっちりと学んだことを思い出します。

本編は決してハッピーエンドにはなりませんが、若手だから、女性だからという理由で認められないのではなく、何が必要でなぜだめなのか、「基本」をおこたっていてはまともに相手にされないということを知ることと、学びとって自分の血肉にしなければ進歩がないことを感じとることができる作品だと思います。

(情報処理教育センター 浅野)

 

『トゲウオのいる川 : 淡水の生態系を守る』 [請求記号:080/1365/12]

森誠一著 中央公論社 1997年

 ハリヨという魚を知っていますか?
 トゲが背部などにあるところから「針魚」(ハリウオ→ハリヨ)と呼ばれている、体長5センチ程度の小さな淡水魚です。きれいな湧水のある池川を住処とするので、開発による湧水の枯渇や水質悪化によって激減し、今では岐阜、滋賀の一部の水域にしか見られない絶滅危急種です。
 著者はトゲウオの研究者で、ハリヨたちの危機を知って保護活動に乗り出し、様々な試行錯誤を繰り返しながら、現在も活動を続けています。
 何しろ熱い、そのエピソードの数々。ここでは、岐阜県大垣市のハリヨ生息地での話をご紹介します。ハリヨ保護を訴える市指定の看板の足が折られ、倒れているという事件が続いたある日のことです。

「こうした繰り返しが二回くらい続いた後、私はその原因を目撃した。中・高校生らしき二人が立て看板を石投げの的にしていたのである。彼らは何かブツブツ言いながら、代わる代わるに石を投げていた。一人は石を探しに私のほうにまで向かってくる。私は思わず叫んで走り出した。が、言葉にならず、グォーとかゲェーとかいった獣のような声をあげていた。彼らは私のただならぬ形相と加速してくる早足を見てか、逃げ出した。ただし、最後に持っていた石を思いっきり池に投げつけてから。さらにカーッとなった私は即座に道端の石を拾い、彼らに向かって投げた。もっとも、彼らははるか遠くに行ってしまっていたが。私は視界から見えなくなるまで、彼らの姿を追った。」 (P56)

 著者は、ハリヨ教育を重視し、講演会等の啓蒙活動を精力的に行っていますが、その背景にはこういった小さな(しかし印象的な)エピソードが積もっているのがよく分かります。
 また、この本では、ハリヨたちの生態や保護活動について述べた後、第三章で保護活動を具現化するためのマニュアルにも触れられています。
 「義憤」を持ち続け、活動を一時的なお祭りではなく継続的なものとすることがいかに難しいことか。地道に続けてきた者だけが持つ説得力にあふれた章です。「外にはネットワーク化、内にはマニュアル化」という言葉は、保護活動だけではなく、あらゆる活動に共通する真理だと思います。
 今年10月には、生物多様性についての会議「COP10(コップテン)」が名古屋で開催されます。環境や生き物について考える機会も増えるこの時期、ぜひ読んでみてほしい一冊です。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 川島)