[2010.7.1更新]

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2010年7月の5冊


 

 

『定本尾崎翠全集』より「第七官界彷徨」 [請求記号:918.6/1/88]

尾崎翠著 稲垣眞美編 筑摩書房 1998年

 梅雨明けの待たれる頃となりました。このじめじめを吹き飛ばすべく努力をするのも良いですが、「小野町子」なる少女が描き出す「第七官」的雰囲気に寄り添って、この季節にしっかり浸ってみるのも、また一興です。

私はひとつ、人間の第七官にひびくやうな詩を書いてやりませう。

 「第七官」という聞き慣れない感覚に向かって、ひとりひそかに創作の意欲を抱く町子は、実のところ、それが「どんな形のものかすこしも知らなかつた」のですが、私たちはたしかに、彼女によってある不思議な感覚世界を「彷徨」させられてしまいます。それは、「鼻もちのならぬ臭気」が漂い、素っ頓狂な歌声と下手なピアノが鳴り響き、「蘚の恋愛」なるものが観察される、町子らの家の湿気を帯びた雰囲気に拠っています。秋から冬の物語であるのに、私が梅雨時になると必ず彼らのことを思い浮かべてしまう理由も、このあたりにありそうです。
 分裂心理病院に勤める町子の長兄「一助」、蘚の恋愛を研究し自室で肥やしを煮る次兄の「二助」、音楽学校を目指す従兄の「佐田三五郎」らの住むその家に、町子は、彼らの身の回りの世話をすべく加わって、その妙ちきりんなありさまを淡々と語り出すことになります。ところが町子もまた、三五郎の親切心から虎刈り同然のおかっぱにされた自身の頭を、こともなげに野菜風呂敷で被ってみせるような人物なのであり、この風変わりな語り手によって、彼らの世界はいっそうおかしみを増しています。
 昭和6年に発表されたこの作品は、それからおよそ40年後、花田清輝と平野謙によってアンソロジー『現代文学の発見』に収録されることで、ふたたび注目を集めます。その収録巻(第6巻)の題名が「黒いユーモア」であるのも、いたく納得のゆくことです。
 独特のセンスを持つ作者尾崎翠は、謎に満ちた人物でもありました。興味をお持ちになった方には、彼女に関する最新の書物、川崎賢子『尾崎翠 砂丘の彼方へ』をお薦めします。

(学術情報センター長 宮崎真素美(日本文化学部国語国文学科))

 

『ようこそ量子 : 量子コンピュータはなぜ注目されているのか』 [請求記号:007.1/N64]

根本香絵, 池谷瑠絵著 丸善 2006年

「今月の5冊」に初めて寄稿します.最初ということで,専門分野に関連した本を.
この紹介文をちょっと我慢して読むことができた人は,この本を読むのは,それほど苦にならないでしょう.

さて,私の専門は,"量子情報科学".

と言っても,誰もが???という顔をします.昨日も事務の人との飲み会で聞かれ「"量子"っていうのは,量子力学の量子でねえ...」と説明を始めてみましたが,ちんぷんかんぷんみたいでした(泣).
この本は,量子力学の世界から量子コンピュータまでを平易に解説した一般書です.
量子力学を説明するのに不可欠とされる「数式」を一切使っていないらしい,すごいらしい,という噂を聞いて,この本の著者が量子情報の第一線の研究者と言うことを知っていたので,私は出版直後にネットで即買いしました.
その結果...

「バキュン」
いきなりやられちゃいました.ちょっとだけ言っちゃうと.
量子と空気の意外な関係とは?
あとは,実際に眺めてみてください.

もう1冊.推薦はできませんが,恥を忍んで告白を.
「ねこ耳少女の量子論~萌える最新物理学~,竹内薫, 藤井かおり, 松野時緒著, PHP研究所」という"少女マンガ"が去年出版されました.まさか,県大図書館は買ってくれないでしょうから,タイトルでネット検索してみてください.
表紙を見ればわかりますがー ぶっ飛んでいます.内容は「量子テレポーテーションとは?」「光の正体とは?」「超ひも理論」「量子暗号」などなど.ネットで購入は憚られたので,名古屋の本屋に行き,ちょっと立ち読みして私費で買っちゃいました(恥).研究分野を学生さんにわかりやすく説明したい!という教育目的だったのですが.
確かにおもしろいです.でも,こんなマンガでも数式が出てきます.

やっぱり「ようこそ量子」はすごい.マンガの方は,情報科学部棟の臼田研にありますので,いつでも立ち読みに来てください.

(学術情報センター長補佐 臼田毅(情報科学部情報科学科))

 

『寺田寅彦全集 第8巻』より「変わった話 一電車の中で老子に会った話」 [請求記号:081/8/64]

寺田寅彦著 岩波書店 1961年

 「天災は忘れた頃にやってくる」この名言は、戦前の物理学者、寺田寅彦の言葉と言われています。
 言われていますという表現になってしまうのは、この言葉が寺田寅彦の書いたどの文章からも見つからないからです。詳しくはここをご覧ください。
 その寺田寅彦、量子力学から地震や線香花火まで扱う当時の日本を代表する物理学者でありましたが、同時に夏目漱石の俳句の弟子でもあり優れた文筆家でもありました。科学と文学を融合した味わい深い随筆を数多く残しています。
 その中の一つ、「変わった話 一電車の中で老子に会った話」は、老子に興味はあったが、どの本を読んでもどうも難しくて親しみが感じられず最後まで読みきれなかった。しかし、先日たまたまドイツ語訳の老子を読んだら、おもしろくて一気に読んでしまった。また、このドイツ語訳の中にはどうも間違っているものもあるようだ、でもこの解釈は案外しっくりくるという感想をもったという話です。
 寺田寅彦の独特の分析・解釈・まとめに意表を突かれます。
 次の随筆が「二千年前に電波通信法があった話」その次の随筆が「ごちそうを食うと風邪をひく話」と続きます。なんとも不思議な、それでいて考えさせられる寅彦ワールドが次々に展開させます。
 巻は違いますが、全集第3巻「電車の混雑について」(資料ID 102371628)では、真剣に電車の混雑について分析検討し、果ては人生についてまで語ります。
 夏目漱石の「吾輩は猫である」の寒月先生のモデルであるといわれる寺田寅彦は、今から100年ほど前にこんな事も考えていたのでした。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 松森)

 

『新版 大学生のためのレポート・論文術』 [請求記号:816.5/O22]

小笠原喜康著 講談社(講談社現代新書) 2009年

 これはもう、生協の書籍コーナーに平積みされているので、多くの方が入手済みだと思われますが、"まだ読んでない"という方のために取り上げます。
 これは典型的なマニュアル本で、しかもありそうでなかった手引き書です(もう類似の本は多々あるかもしれませんが)。
 最新刊ということで[注:私が読んだ時点でです]、現代の電子化・ネット化された社会環境に見合った説明であり、なおかつ、額にしわ寄せて読む必要性もなくさっと目を通しておけば、またいつでもちょっと手にして確認すればいい、そういう類の本です。
 こういった本が出てくるのは実にうれしいことで、これが"基準"になる訳ではありませんが、集団や社会の中で共通認識されて定着するようになれば、ある種、本質的なことではない"どうでもよい"部分で時間を無駄にすることが少なくなります。
 記し方ばかりか、「調べる」ために役立つヒントも多々あって、むしろこちらの方をを知っておくだけでも読む価値があり、その後の学習のあり方にも違いが出てくるはずです。
 これはそんなに高価な本ではないので、図書館で借りるというよりはぜひ手元に、座右ならぬ座左か座奥ぐらいの場所に備えて卒業論文作成などに役立ててもらえたら、と思います。(この前文が図書館員検閲で削除されないことを願いつつ)
   ※一度、図書館で借りて読んで、"これは"と思ったら購入するのが一番いいでしょう [図書館職員談]

(情報処理教育センター 河合)

 

『イメージを読む : 美術史入門』 [請求記号:723//419]

若桑みどり著 筑摩書房(ちくまプリマーブックス) 1993年

 『モナ・リザ』の背景には何が描かれているか、思い出せますか?
  ルネサンス時代にはたくさんの名画があります。その中でもダ・ヴィンチ、ミケランジェロの絵は特に有名ですが、肝心の作品の解釈に関してはどれ程の人が知っているでしょうか。絵を知ってはいても、そこには何が描かれていて、なぜ傑作といわれるのか…説明するのは難しいことです。もちろん何の知識が無くとも見ただけで圧倒される高度な技術、感性があるのは言うまでもない事ですが、単に視覚的な技巧ばかりではなく、そこに画家個人の"思想"があることを読み解くと、さらに深く、本当の"傑作"の意味を知ることができます。
  本書では美術史の入門として、大学の教授でもある著者が、4つの絵画について画家の思想を探りながら講義をするという形をとっています。宗教が多大な影響力を持っていたこの時代、それでも描かずにはいられなかった秘められた思想とは一体何でしょうか。
  画家がこの世にいない以上確かなことがわかることはないかもしれませんが、著者の見解が大変面白く、これを読んで『モナ・リザ』が時代を超越しているのは確かだと感じました。画家が失われても、絵は残る。それはメッセージとなって時を超えていく。稀有な天才はそれを予感して、この絵を死ぬまで手元に置き続けたのかもしれません。
  ヨーロッパを旅する予定のある方は、美術の知識を、ぜひ少しでも得た上で行かれるといいと思います。楽しみ方が全然違ってくると思います。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 大島)