[2010.12.1更新]

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2010年11月の5冊


 

 

『赤の書』 [請求記号:146.15/J95]

C・G・ユング著 ソヌ・シャムダサーニ編 河合俊雄監訳 創元社 2010年

 深紅の、大きくてずっしりとした本書のことを、多くの人は画集だと思われるでしょう。
 これは、「夢」の研究で知られている心理学者ユングの「自己実験」が綴られた書です。ユング自身による手書きの装飾文字と彩色鮮やかな多くの挿画。実に神秘的で美しい書物です。
 「第一次世界大戦の前に、理解しがたい夢を見たり、圧倒されるようなヴィジョンを体験したりして、精神的な危機を迎え」(河合俊雄「監訳者後記」)ていたユングは、それらを記録し対峙してゆく手法をとり、「無意識から生じるイメージ」にみずから関わり、その解釈を織り込んでいったと言います。実験とその草稿が起こされてからおよそ100年、家族の元にあった本書が、このほどようやく陽の目を浴びたというわけです。
 味わい方はいろいろです。本文からは聖書やニーチェの影を見ることができますし、さまざまな形象であらわれる神との、多様な向きあいが展開されているようにも感じられます。また、かのサロメとの邂逅も果たし、「私」と「魂」との対話もなされます。そして何より、それらを象徴する素朴なタッチの、それでいてデザイン性の高い多くの挿画に圧倒されます。
 挿画は細密です。西洋と東洋のイメジが融合された曼荼羅様のもの、根方に卵を擁する青色の樹木、モザイク様に描かれた抽象・具象、薄紫に彩色された美しい蔓花、衣服を着た動物などなど、タロットカードを思わせるそれらの多くはシンメトリカルで、まるで図案集のようです。ユング自身の奥底を浮上させた、さまざまのイメジにふれながら、これらを描いていたユングのありさまを想像させる面白さです。
 独りしずかに味わってみたら、次には誰かと一緒にご覧になってみることをお薦めします。対する相手によって、実にさまざまな会話がはずみます。ちなみに、私は図書館の司書さんたち、デザインを得意とする職員の方、心理学者といったみなさんと、それぞれに本書を楽しみました。そこでどんな会話が交わされたのかは秘密ですが、とても奥深く、発見に富んだ、愉快なひとときであったことを、お伝えしておきます。

(学術情報センター長 宮崎真素美(日本文化学部国語国文学科))

 

『生き抜くための数学入門』 [請求記号:410/A62]

新井紀子著 理論社(よりみちパン!セ) 2007年

「今月の5冊」を愛読しています.
(推薦文を愛読? 本じゃないの?というツッコミはさておき)
さすが,図書館に関心がある人の推薦文は深い,作文上手すぎ,といつも感心します.
ということで,今回も前回に引き続き,軽めの*レア*推薦文で.

この本も,タイトルを見て立ち読みし,つい買ってしまいました.

生き抜くための数学って?
280円の牛丼に千円札を出して買って,おつりをごまかされないための数学?
・・・それって,単なる引き算だよな.
消費税の計算法かな?
・・・それもただのかけ算.本1冊分の話題にはならないなあ.
サラ金の金利計算法だったりして?
・・・恐っ
カロリー計算? メタボ率の算出??(今日,健康診断だったので.....)
どれもちょっとはずれていました.

さて,正解は,
「国際紛争を起こさないための数学」などなど(うーん,タイムリーすぎる).
読んでいくと,"生き抜くための数学"という主張に納得.
NHKでは龍馬伝が佳境ですが,龍馬がこの本を読んでいたら,万国公法ではなく数学書を持ち歩いたかもしれません.

この本,ある図書館では「児童書」に分類されていました.文中の漢字には(簡単なもの以外には)ふりがなが振ってあるので 〜〜鮒(ふな)とか稠密(ちゅうみつ)などです.諍いはなかったかも〜〜子どもでも読めるとは思いますが.
微分積分,三角関数,複素数,オイラーの公式,テイラー展開にニュートン法など,理系の学生さんでも十分に楽しめる内容です.
もちろん,文系の学生さんはメインの読者です.何と言っても,中学生でも読めることになっているのですから.

気軽に読める1冊ですので,推薦文を読むだけでなく,是非手に取ってみてください.
学校で習った"数学"が,今後の人生では役に立つようになるかも.

これからは数学ぜよ!

(学術情報センター長補佐 臼田毅(情報科学部情報科学科))

 

『残念な人の思考法』 [請求記号:159.4/Y48]

山崎将志著 日本経済新聞出版社(日経プレミアシリーズ) 2010年

 本書は、ビジネス書を普段から読まないひとにこそ、おすすめします。
 やる気も能力もあるのに仕事がうまくいかないのはなぜ?というフレーズに興味をひかれて読んでみました。キーワードは、「残念な人」、「プライオリティ」、「エンプロイアビリティ」です。
 本書が何に役立つかというと、たとえば、学生なら、履歴書の志望動機の書き方が参考になりますし、ビジネスマンなら、残念な営業の例やシェアを伸ばす自動車ディーラーの例が参考になります。
 筆者によると、いい大学を出て、いい会社に就職して、やる気があり、毎日遅くまで残業する、だけど成果が出ないのが「残念な人」だと述べています。
 本書を読み終わって思ったのは、肩肘張らず、大量に出版されるビジネス書の一つに過ぎないものとして参考程度で読むのが健全だろうということです。ただし、「残念な人」の思考法と自分のこれまでとを比較していくつもあてはまる人は、自分のプライオリティを決めていく思考法と、結果を残し評価されるための努力を無駄にしていないかの再確認のためのツールとして本書を活用して、「残念な人」から脱却していただきたいと思います。

(情報処理教育センター 浅野)

 

『死刑と無期懲役』 [請求記号:080/C44/830]

坂本敏夫著 筑摩書房(ちくま新書) 2010年

 裁判員制度が施行されて一年半になります。私たちもいつ法廷で、被告人を目の前にして重い量刑を言い渡す日が来るか、分からない時代になりました。
 本書は元刑務官である筆者が、昨今の死刑執行の多さに突き動かされて書いた「塀の中の真実」の本です。
 初めて現場責任者として指揮した死刑執行の大混乱と後悔、幹部として赴任した各地の拘置所で出会った死刑囚との触れ合い、長年冤罪が疑われ、後に釈放された男性の様子などのエピソードは、どれも死と直面した人間の素の部分がさらけ出されていて、心が締め付けられます。
 また、現在収監されている被告人の実名を挙げて「本当にそうなのか(冤罪ではないのか)?」と問いかけたり、検察官が宴席で「我々の手にかかれば白でも黒にできる」と公言しているというくだりは、内にいた人間のみが知る暴露本の様相を呈しています。
 筆者はこのような検察や裁判所による冤罪の可能性と、長年見てきた受刑者たちの「人間は変われる」ということに確信を持って、死刑制度には消極的に反対していることが、読み進めていくうちに分かります。決して声高に叫ぶのではなく、もし存置させるなら今のこういう点を改善すべきという主張もしています。
 随分身近になった裁判を、この本を通じて考えてみませんか?
 
 余談ですが、筆者は映画やドラマの監修も行なっています。
 映画「刑務所の中」(2002)は漫画家花輪和一が銃刀法違反で服役した実体験を基にした作品ですが、肩の力を抜いて刑務所の中を知りたい人にお薦めです。この本の無期懲役囚のエピソードと少しだけリンクします。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 伊藤)

 

『穴 : Holes』 [請求記号:933.7/Sa12/]

ルイス・サッカー著 幸田敦子訳 講談社 1999年

原書 : 『Holes』 [請求記号:933.7/Sa12]

タイトルも内容も、装丁のイラストも不思議な本ですが、あっと驚く展開と爽快な結末が待っています。読み終わると全ての不思議なイメージがぴたりとマッチして、まるでパズルでも解いたかのような、これ以上ない美しい整合性を感じるような本です。
物語は大変ついてない運命の少年スタンリーが無実の罪で矯正キャンプに送られるという、想像しただけで心がざわざわするような設定で始まります。さらにそこでは人格形成と称して固い地面に穴を掘っては埋め、掘っては埋める理不尽な作業。
普通の物語ならば「スタンリーはきっとこの後逆転して、いい人生を送るような結末だろう」とか「このまま悲劇的な最後で、読み終わったらきっと悲しくなるだろう」などの予測をつけながら読めるものですが、この本はそもそもの成り行きが不可解で着地点がわからず、「一体何が何だかわからない」という気分で読み進めているうちに全ての謎が解け、爽快な気持ちになってしまいます。「読んでいる」のか「作者によって引き込まれている」のかも曖昧であり、読んでいる間の不思議な感覚に繋がるのではないかと思います。
アメリカで「ニューベリー賞」「全米図書賞」とダブル受賞したベストセラーです。児童文学ではありますが、大人が読んでも充分に楽しめます。映画化もされている傑作です。是非読んでみてください。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 梅田)