[2011.1.4更新]

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2011年1月の5冊


 

 

『どんぐり姉妹』 [請求記号:913.6/Y91]

よしもとばなな著 新潮社 2010年

 新しい年がはじまりましたね。みなさんはどんなお気持でお迎えになりましたか?
 人が、新しいところへ踏み出してゆく仕方はさまざまです。それは、この風変わりな名前を持つ姉妹においても、また。
 「どんぐり姉妹」は「どん子」と「ぐり子」という、信じがたい命名をされた二つ違いの姉妹です。彼女たちの父親は、彼女たちが産まれるそれぞれの秋に、彼女たちの誕生の時を待ちながら、産院の庭で「ひたすらにどんぐりを拾った」のでした。「お父さんの時間の中でもいちばんと言っていいほどすばらしい時間だった」と、父親は娘たちに語ります。
 ところが姉妹は、この「かわいらしい心を持っていた」両親と死別。12歳と10歳のその日から、「あちこちの親戚の家」をめぐってふたりで生きてきました。妹ぐり子は言います。「私の心の中には、いつも死んだ身内の部屋、両親とおじさんとおじいちゃんのための部屋があって、面影をいっしょに連れて歩いている」。
 最後に一緒に暮らした祖父の死から、それぞれに歩み出してゆくとき、30歳にさしかかった姉妹の拠りどころは「恋」でした。姉どん子が、「恋のはじまり」の感覚に執着しながら、結婚にとらわれず、常に未来へ向かって進んでゆこうとするのに対し、妹ぐり子は、中学の同級生だった「麦くん」との「欲望ときれいな気持が奇妙なあたたかさで混じり合い、見る景色全部に溶けて」ゆく感覚を、夢の中で取り戻します。予感は現実へ。そして、夢の「中庭」に訪れたのは……。
 実は、「どんぐり姉妹」というのは、彼女たちが「心の本業」としているサイトの名です。「人々の隠している淋しさ」を、「私たちにいつでもメールをください」、「時間はかかっても、お返事をします」として受けとめています。そこに寄せられた淋しい思いも、姉妹の現実にはたらきかけてきます。夢と現(うつつ)、生と死、さまざまな端境のまじりあう場所に、ゆらゆらとたゆたう切ない情景。それらは、「今」を生きてゆくことの確信へとつながる不思議に、結ばれています。

(学術情報センター長 宮崎真素美(日本文化学部国語国文学科))

 

『アダム・スミス : 『道徳感情論』と『国富論』の世界』 [請求記号:080/C64/1936]

堂目卓生著 中央公論新社(中公新書) 2008年

 私はこんなに一生懸命やっているのに、どうしてみんなわかってくれないのかしら?
 こんな思いを持っている方に読んでもらえるといいかもしれません。
 アダム・スミス、各個人が利己的に活動しても、結果的に社会は繁栄するという考え方「見えざる手」で有名な、自由主義的経済学を主張した大経済学者。
 市場規制を排除し、競争を促せば経済成長が達成できるという、現在の日本を席巻する新自由主義の根底をなすものとして語られることも多いです。
 彼が著した『国富論』は教科書にも出てくる名著ですが、実はもう一冊『国富論』の前に『道徳感情論』という本を書いています。
 著者は、この2冊を読まないと「見えざる手」の本当の意味はわからないのではないかと読者に訴えます。
 著者が丁寧に説明するこの2冊の本からのアダム・スミスの考えは・・・
 周りの人に共感されないと自分の思い通りに動いても良い結果は出ない。
 簡単に言うとこういうことでしょうか?
 最初に書いた思いへの見解は、最終章の終わりごろのところに私は見いだしました。
 そしてこの本を読み終えた後の感想は足るを知る。
 なんと、自由主義的経済学を主張した大経済学者の考え方を書いた本を読んでの感想は、考え方が真逆かと思われる老荘思想の考え方でありました。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 松森)

 

『日本でいちばん大切にしたい会社』 [請求記号:335.35/Sa32/1]

坂本光司著 あさ出版 2008年

 本書はこれまで様々なメディアで取り上げられ、著名人が引用したこともあるので、ご存知の方も多いかも知れません。
 大学で中小企業の研究をしている著者が、6000社を超える訪問企業の中から厳選した「大切にしたい」5社を紹介しています。どの会社も中小企業で、初めて聞く名前もありますが、全て「心」を大切にしている会社です。しかも「心」を重視した結果、長期にわたり好業績を収めているのです。
 内容は大きく1部と2部に分かれており、1部では著者の考える経営理念が述べられています。それによると会社とは「5人に対する使命と責任」があり、その順は1.社員とその家族の幸せ 2.外注・下請け 3.顧客 4.地域社会 5.自然に生まれる株主の幸せ とあります。私自身も過去に民間企業で「株主さんの利益追求のため」というスローガンの下の締め付けに対し、鼻白む思いをしながらも仕方のないことだと思っていたので、この順位は驚きました。そしてこのことを「分かっていない経営者が増えている」と斬っています。
 2部では各社の事例が挙げられています。ここでは具体的に述べませんが、どれも深く心に響くエピソードで、外で読むときは気を付けないとうっかり涙がこぼれてしまうことがあります。また、こういった心を大切にした経営をしていて尚且つ好業績とは、語られない多くの苦労があったとは思いますが、昨今の効率第一主義の風潮は一体何なのだろうと考えさせられます。
 就職活動中で悩んでいる人、これから活動を開始する人、将来起業しようと考えている人に特に、少し視点を変える意味でもぜひ読んでいただきたい本です。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 伊藤)

 

『流れる星は生きている』改版 [請求記号:080/28-18-4/28]

藤原てい著 中央公論社(中公新書) 1994年

 敗戦下、満州引き揚げのため、朝鮮半島を南下する母子4人の過酷な体験を描いた手記です。著者藤原ていは、作家新田次郎の妻であり、『国家の品格』を書いた数学者、藤原正彦の母でもあります。著名な一家ですが、それは後世の話であり、当時この名もない人々は他の多くの日本人と同じ、死ぬような目にあいながら苦難の日々を乗り越えなければなりませんでした。
 夫と引き離され、乳飲み子を含む3人の幼い子供を抱えた母が人々から受けるのは、同情などではなく、非難と嘲笑の眼差しであり、数々の日本人の裏切りに遭いながらも異国の人の助けを借りて必死に祖国を目指します。その道程は死ぬより苦しい「生きる」ための戦いであり、子供を「死なせたくない」という何より強い思いが、そのままこの母を支える凄絶なまでの強さとなっていきます。
 戦争は男達が起こすのだとしても、その裏では史実には残らない女達の悲しみに満ちた苦しい戦いの日々があったことを、この本は今なお伝えてくれています。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 大島)

 

『レポートの組み立て方』 [請求記号:816//101(長久手) 816.5/Ki46/1994(守山)]

木下是雄著 筑摩書房 1994年

この書を薦めさせて頂いたのは偏に,"大学生が書くレポート"と"社会人になってから書くようになるレポート"の書き方の特徴の違いをしっかりと区分けして解説をしてくれていることにあります.この一読の価値がある箇所は,第1章です.
この2者に着眼し,しかも1冊の書物の中でこの特徴の違いを説明してくれているために非常に読解がしやすく,論文・レポート作成の分野における書籍においてこのような照射を有する書物は見掛けたことが無く感銘を受けたのを覚えております.
有益だと考えますこととは,学生時分の頃より現在のレポート課題の取り組みにおいてこの違いの意識が有るのと無いのとでは,卒業後を見据えての現在の大学環境の活用の仕方も変わってくるでしょうし,卒業後においては実務にも即時対応できると思うことにあります.
発行年が1994年と古くなってきているにもかかわらず,この書は同分野書籍の現代における出版の多くにおいて今なお土台・源にされているようで,さらにはカスタマーレビューにおいて散見することは多くの高い評価です.
作文,感想文,小論文,論文,これらの特徴の違いをきちんと理解している人,説明できる人はたとえ社会人でも意外に少ないと思います.この書はこれらの違いを把握できることに向けてもヒントを示唆してくれると思います.就職試験対策に向けての1つとしても,この書と推薦コメントがきっかけとなり,これらの違いの把握への興味・関心が誘発・喚起される機会になるようなことがありましたら僥倖の至りです.

(情報処理教育センター 今西)