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2011年3月の5冊


 

 

『萌えいづる若葉に対峙して』 [請求記号:911.56/Ts41]

辻征夫著 思潮社 1998年

       すぐにしなければいけなかったのに
       あそびほうけてときだけがこんなにたってしまった
       いまならたやすくできてあしたのあさには
       はいできましたとさしだすことができるのに
       せんせいはせんねんとしおいてなくなってしまわれて
       もうわたくしのしゅくだいをみてはくださらない
       わかきひに ただいちど
       あそんでいるわたくしのあたまにてをおいて
       げんきがいいなとほほえんでくださったばっかりに
       わたくしはいっしょうをゆめのようにすごしてしまった (「宿題」)


 今年も卒業の季節を迎えました。私たちにはいろいろな節目が与えられますが、言うまでもなく、すべてのことがその節目とともに区切りを付けられるわけではありませんね。いつまでもそのままになっている「宿題」の何と多いことか。もしかしたらそれらの大半は、手渡すすべをなくしたときに思い起こされ、そのたび、後悔の種に変わってゆくのかも知れません。すると、「宿題」は抱えていられるあいだが花、ということにもなりますね。
 詩人は、同じ詩集のなかで、そんな〈もうひとりのわたし〉の痕跡を描いてもいます。

出かけようと/靴を履いたら暖かかった/いまだれか帰ってきて/脱いだばかりの靴みたい//いそいで脱いで/居間を見た/寝室の/戸もあけた/ベランダの/さざんかのかげも見た/だれもいなかった//わたしのなかの/もうひとりのわたし/夢みるひと/彼女はひとあし先に/出かけたのかしら/どこか遠くへ/スニーカーに履きかえて

(「スニーカーに履きかえて」)

 みなさんも、新しい季節に向かって軽やかにお出かけください。「宿題」は、持ったままが良さそうです。
 では、私もこれにて。2年間のご愛読ありがとうございました。

(学術情報センター長 宮崎真素美(日本文化学部国語国文学科))

 

『情報技術の人間学 : 情報倫理へのプロローグ』 [請求記号:007.3/Ka71]

笠原正雄著 電子情報通信学会編 電子情報通信学会 2007年

すっかり定着してきた「今月の5冊」.毎月楽しみにしている人も多いのではないでしょうか?
図書館のwebページに行くと,2007年の7月からバックナンバーを見ることができます.
2011年の2月までで220冊.結構な量です.

でも,調べてみてびっくり.その中で,タイトルに「情報」という言葉が入っている本が1冊も無いことを,皆さんご存じでしたか?
県大には情報科学部,情報科学科,情報科学研究科があるのに,情報処理教育センターもあるのに,何より「今月の5冊」を主催しているのは学術"情報"センターの図書館なのに,200冊以上の推薦本のタイトルの中に,何で「情報」という言葉がないのだろう?

よくよく見ると,「文化"インフォマティックス"」という本が1冊あり,その他にも推薦文中で紹介されているその月"6"冊目以降の推薦本には何冊か紹介されていますが.
今回,とうとう「情報」そのものがタイトルに入った本が,今月の"5"冊にデビュー♪
(奥田先生ごめんなさい)

この本は,情報理論,符号理論,暗号理論の大家である笠原先生が書かれたもので,副題(副々題?)をつけるとすれば,サイバー社会の光と影といったところ.元々は,サイバー社会を技術面で支える情報技術者を読者として想定して書かれたのかもしれませんが,サイバー社会に参加する大人であれば,社会の構成員として考えさせられる1冊だと思います.

電子情報通信学会が出版,表紙はいたって地味,タイトルに「情報技術」「情報倫理」といった堅そうな言葉が並び,ページを少しめくってみてもやっぱり堅そうな感じを受ける本で,まず,普通の人が買って読むことはないと思います.
でも,見た目で判断してはいけません.中身を見てみると...

150ページ足らずの中に,何と広範囲で興味深い話が,ぎっしりとつまっていることか.
サルがヒトになってどう変わったのか? 500万年前の話から,古代ギリシャ,平安・鎌倉時代,近代,未来まで.様々な視点で楽しむことができるでしょう.
いろいろありますが,この本のメインは「乳幼児教育」かもしれません.その他,万葉集巻第二(142),巻第三,五,十四など,何首もの歌が出てくるところも必見です.坂上大嬢(さかのうえのだいじょう)の愛の想いは,サイバー社会とどう関わるのでしょう?
大事なことが述べられるときの決め台詞『私たちは,このことを重く受け止めなければならない(私たちは....なければならない)』にも注目してみましょう!

県大の学生さんも,ここで紹介されなかったら見ることもなかった本だと思いますので,何かの縁だと思って眺めてみてはいかがでしょう.
まずは,興味のあるところを選んで読んでみても良いと思いますよ.

(学術情報センター長補佐 臼田毅(情報科学部情報科学科))

 

『チョコレートの世界史 : 近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石』 [請求記号:080/C64/2088]

武田尚子著 中央公論新社(中公新書) 2010年

バレンタインデーも終り、少し時期は遅くなってしまいましたが、今回はチョコレートに関する本を紹介したいと思います。チョコレートに関する思い出は、いい思い出、ほろ苦い思い出、人それぞれでしょうが、チョコレート自体が苦手という人はなかなかいないのではないでしょうか。

そんな身近な食べものであるチョコレートですが、その歴史・成り立ちについては知らない人も多いと思います。本書は、チョコレートの原料であるカカオ、そしてそこから誕生したココア・チョコレートに焦点をあてて、世界の歴史をたどっています。「奴隷貿易」「プランテーション」「イギリス重商主義」など、世界史の授業で耳にしたことがあるような事柄が、カカオの世界への広まりや、ココア・チョコレートの誕生・改良に関係していたことが分かり、新鮮な目線で世界の歴史を見ることができるのではと思います。

今や大量生産されていて、いつでも食べることができるお菓子「キットカット」についても印象的なエピソードが紹介されています。赤と白のラッピング・ペーパーでおなじみのキットカットですが、青のラッピング・ペーパーが使用されていた時期があったのです。そこに込められた意味とは一体何だったのでしょうか?
ぜひ本書を読んで確かめてみて下さい。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 西川)

 

『本は、これから』 [請求記号:080/I95B/1280]

池澤夏樹編 岩波書店(岩波新書) 2010年

 図書館員はおおむね本好き(のはず)です。でも、本のハード(形)とソフト(内容)のどちらがより好きなのでしょう。電子端末(Kindle iPadなど)を買うか買わないか迷う気持ちには、この二つのせめぎあいが隠れています。
 「本は、これから」に続く言葉が紡ぎだされている37のエッセイをご紹介します。書店・古書店・図書館・取次・装丁・編集・書き手・読み手など色んな立場からの、本の身体性や読書の本質などの話には新しい発見があることでしょう。
 確固たる考えのない私は、すばらしい書き手の文章にすぐ洗脳され、一人読むたびに「その通り」と思ってしまいます。ゆらゆらと考えは揺れ続けるけれど、おそらく紙の本がなくなってしまうことはないのだろうと思いました。そして、教室で電子書籍の教科書で学ぶ小学生、ベストセラーでも全く予約する必要のない公共図書館、お気に入りの電子書籍をプリントアウトして自分で製本する人、ほとんどの本が電子書籍で出版され紙の本は名誉出版という世界、こんな未来の姿を夢想するのです。
 好き嫌いにかかわらず、図書館員が電子端末を貸出する日はもうすぐそこまでやってきているのでしょうね。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 平田)

 

『伊藤博文 : 知の政治家』 [請求記号:080/C64/2051]

瀧井一博著 中央公論新社(中公新書) 2010年

 日本法制史学者・瀧井一博氏による伊藤博文没後100年を記念して出版された新書です。
新書形式ではありますが、単なる伝記ではありません。著者による伊藤博文研究の集大成です。
 伊藤博文は日本法制史の明治史上、最も重要な人物であるにもかかわらず、アカデミズムでの功績を高く見積もることに消極的な傾向があります。
また一昨年は記念年でありながら、歴史的意義を再考する動きは皆無でした。
 倒幕、廃藩置県、貨幣法、岩倉使節団、西南戦争、初代内閣総理大臣、条約改正、日清戦争、日露戦争、初代韓国総監そして暗殺。
大日本帝国憲法を制定し、立憲政治確立に懸けた政治思想、国家構想、日韓併合の過程についての叙述や論旨が平明で丁寧に綴られています。
 文明、立憲国家、国民政治という視点から「知の政治家」として生きた伊藤博文の政治思想研究図書です。
 本書は、第32回サントリー学芸賞(政治・経済部門)受賞作品です。

(学術情報センター大学連携チーム 大仲)