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2011年4月の5冊


 

 

『武士の町大坂 : 「天下の台所」の侍たち』 [請求記号:080/C64/2079]

藪田貫著 中央公論新社(中公新書) 2010年

「町人の都 大坂」という決まり文句に「大坂地域研究」の第一人者である著者がアンチテーゼを出し、本当のところ江戸時代の大坂にはどれくらい、どのような武士がいたのかを解き明かした話題作です。新発見の「大坂西町奉行所図」や1830年前後に町奉行を勤めた新見氏の日記などを紹介しながら、大坂在住の武士の姿をリアルに描き出しています。もちろん町奉行与力大塩平八郎の仕事ぶりも出てきます。最終的に、著者は、江戸という大坂と比較するうえでの座標軸の存在が重要であるとして、もともと「町人の都」という言説は江戸の武士が生み出したものではないかとの結論を導き出していますが、非常に興味深い指摘だと思います。しかも、この言説は近代以降の豊臣秀吉の顕彰と歩調を合わせるように台頭してきます。<江戸>をアンシャンレジームとみて、その下にいた町人を近代の担い手とみる評価が成立してくるのです。その後「町人の都 大坂」という言説は定着して、「大坂に武士はほとんどいなかった」という言説にまでつながっていったのです。本書は専門的な内容も含みますが、新書として非常に読みやすく作られています。私たちを取り巻く様々な歴史認識・地域認識がどのように成立し、いかなる影響を及ぼすに至っているか、そうしたことを知らしめてくれる一冊です。本学の皆さんにもぜひ読んでいただきたいと思います。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『三大編纂物, 群書類従, 古事類苑, 国書総目録の出版文化史』 [請求記号:020.2/Ku35]

熊田淳美著 勉誠出版 2009年

 「"三大編纂物"を挙げよ」との質問を、例えば文科系諸分野に携わる人々に広く問いかけたとすると、各人の興味関心や職歴や経験などにもとづいた、おそらく多様で個性的な回答が得られるのではないかと思います。しかしもし、こうした回答を大量に集計し分析し得たとすれば、本書が採り扱う3個の編纂物を揃って上位層に位置づけようとするのは、おそらく図書館に関わる人達ということになるのではないでしょうか。その意味で本書は、主題設定そのものが既に図書館的と言うことができるかもしれません。
 日本の出版史上の重要な成果であるこれら3個の編纂物の成立過程を、著者は図書館職員の視点から論じていきます。その視点は、本書の中でも言及される"国文学""国史学"あるいは"書誌学"などのそれとは異なる視界を読者に提示します。もちろん学術的、文化的、経済的、政治的な要因や偶然なども複雑に関係しているのですが、その過程を読みながら再認識させられるのは、最終的にこうした形式・内容を具備して完成するに至ったこれらの編纂物の計画を、当初に着想し、そこに意義を認めて実現に向けて取り組み続けていった人達の独創性と先見性です。
 ところで、後世から視て画期的と考えられるこうした事業の成立過程を−当の成果物自体を身近に手に取りながら−読み進めることができるのも、図書館という存在の果たす役割のひとつといえるのかもしれません。

(元・学術情報センター長久手キャンパス図書館 鋤柄)

 

『数値力の磨き方 : 見えないものが見えてくる』 [請求記号:336.8/N92]

野田宜成著 日本実業出版社 2009年

春は統計の季節です。4月になると、前年度に皆さんが図書館を利用した様々な実績(「入館人数」や「貸出件数」や「図書受入冊数」)は統計資料としてまとめられ、これによって一年ごとに図書館の活動を見直します。
さて、ここに挙げた本書は、そんな統計の仕事のために手に取った一冊です。
自分の人生を振り返ると「グラフ」や「数値」は高校までは数学・理科・社会の問題に出てくる存在でした。しかし、大学生や社会人になるとそれは「伝える手段」に変化します。新聞やテレビでも多くの「数値」を目にします。既にきれいに作られたグラフを見るだけではなく、自分でもナマの「数値」から意外な傾向を発見できたら面白いと思いませんか?
本書は、「数値」にあふれながらも、ポップな挿絵と「ディスニーリゾート」「Jリーグ」「立ち食いそば」などの身近な題材で「数値」の様々な読み方を紹介する内容になっています。
読了後は自分なりの切り口で「数値」を見られるか、試してみたくなる一冊です。
本書を読んで面白いかも!と思った人はぜひ実際の統計データに挑戦してみてください。国立国会図書館のリサーチナビ(http://rnavi.ndl.go.jp/rnavi/)からは、色々な統計データにアクセスできるのでおすすめです。

(元・学術情報センター長久手キャンパス図書館 福田)

 

『桃山ビート・トライブ』 [請求記号:共同図書環913.6/A43/]

天野純希著 集英社 2008年

 今、日本中が自然の力の怖さを感じ、平穏な日常生活を送ることが困難になっている時に、どこかで安らぎを求めたいと思う人もいるでしょう。それは、例えば、音楽や読書、映画だったりしますが、今日はその3つのジャンルを混ぜたような「音楽」をテーマにしたちょっと珍しい時代小説をご紹介します。
 三味線を盗んだ藤次郎、笛師の小平太、織田信長が召抱えていた黒人・弥助、そして踊りの天才・ちほ。 この4人が出会い、それぞれの特技に魅せられ、「ちほ一座」を結成し、諸国を巡りながら興行し、腕を磨いていきます。速いテンポのアフリカンビートと三味線、横笛のトリオに、ちほの舞が観客を魅了し、次第に人気の一座に・・・。
 しかし、豊臣秀吉による天下統一の為に太閤検地や刀狩りなどの強引な規制が始まり、ちほ一座を始め、河原で自由に興行していた芸人たちを追い出していきます。そんな時代に反発して「音楽」という自己表現で突き進む4人の物語です。
 戦国版青春バンド物語みたいな感じなので、時代小説苦手な人でも気軽に読めると思います。本を読むことで、今自分が直面している状態を良い方へ変えられるような力になる、と信じたいです。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 古屋)

 

『インド夜想曲』 [請求記号:973//152]

アントニオ・タブッキ著 須賀敦子訳 白水社 1991年

 年のはなれた姉から、インドへ旅した時のお土産というパピルスステッカーを幼い頃にもらいました。色とりどりのインドの神様から立ち上る、嗅いだこともない不思議な香りに目がまわり、頭がクラクラしたのを覚えています。本書を読みながらフラッシュバックしたのは、あのステッカーからほのかに漂うミステリアスな香り。非日常的ないくつもの断片がつぎつぎと現われ、ゆっくりと消えていきました。
 主人公は失踪した友人と接点のあったインドの三都市、ボンベイ(現在はムンバイ)、マドラス、ゴアを旅します。「ある人間の足跡をたずねあるいている」と語っていますが、まるで掴みどころのない混沌とした世界を彷徨っているかのように思え、各地で出会った人々とのやり取りも白昼夢めいた様子でこちらの興味をよりいっそうかきたてます。記憶に残るのは、バスの待合室で一緒になった少年との会話。ジャイナ教の占い師とされる少年の兄による予言では、思わず顔をあげ周囲を見まわしてしまったほどです。
 探している友人の名はシャヴィエル・ジャナタ・ピント。インドで失踪したポルトガル人。だけど、旅する彼の名前は?一体何という名前だった?なぜか主人公の名前が全く思いだせないことに気が付きました。「この肉体の中で、われわれはいったいなにをしているのですか」と、旅先で知り合った紳士がつぶやきます。主人公は、「鞄みたいなものではないでしょうか。われわれは自分で自分をはこんでいるといった」と、答えます。もしかすると自分で自分をはこんでいる"彼"に、名前など必要ないのかもしれません。詩情あふれるしっとりとしたひとときを味わえる、珠玉の一冊です。

(元・学術情報センター大学連携チーム 坂元)