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2011年9月の5冊


 

 

『村の身分と由緒 「江戸」の人と身分2』 [請求記号:210.5/E24/2]

白川部達夫 山本英二編 吉川弘文館 2010年

 戦後めざましい発展を遂げた近世身分制研究ですが、このシリーズ六巻(本書はその二巻目)は、身分を国家や共同体・地域社会、あるいは家制度などの枠組みでとらえる従来の方法ではなく、ヒトすなわち「個人」の単位で理解しようという姿勢を前面に推し出しています。これは、制度・集団として実在する確かな身分としてではなく、多様な職能民を「身分的周縁」としてとらえようとした近年の成果に接続するものです。
 本巻は、村社会の身分にかかわるものを扱っています。村社会といえば百姓です。もちろん百姓は農民と同義ではありません。彼らの構成するイエと村、その土地所有の仕方、百姓の由緒にまつわる問題、有力民と地域の祭礼、村役人らの身分と格式、被差別部落の問題等々と盛り沢山の内容です。
 編者の一人である山本さんは「中山間地域などで過疎化と少子高齢化が進み、限界集落や消滅集落などの危機的な状況が現出し、地域社会の再生が喫緊の課題となっている」と述べていますが、地域社会の母体となった村が研究対象から疎遠となる中で、本書は「百姓身分」をキーワードに再び村社会を見つめ直した研究成果と言うことができるでしょう。日本社会については、基本的に村的な構造・特質を排除して議論することはできないと評者は考えています。この社会を深く理解するためにも本書を薦める次第です。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『ベルリン・天使の詩 [映像資料]』  [請求記号:DVD//18]

ヴィム・ヴェンダース監督 1987年

 「ベルリンの壁崩壊」に先立つこと2年前に公開されたこの映画は、日本にも熱狂的なファンはいたものの、ロードムービーの監督というマイナーイメージの強かったヴィム・ヴェンダースの名前を一躍有名にしました。予想外とも言えるロングランに続き、各国の映画賞を総なめにします。ただこれは、ハリウッド的な映像文法で撮られた分かりやすい作品ではなく、ストーリー性は希薄で、ともすると難解な芸術映画ととられかねない作品でした。
 ダミエルとカシエルは、地味なコートを着た中年男の天使(中年の天使?!)で、人間を守護すべくベルリンの街を終始徘徊しています。それでも、天使ですから変幻自在に空間を移動し、人の内面の声を聴き取れる、霊的存在でもあります。映像は、天使の視点を観客が追体験する形で、とりとめのない都市の生活断片を求めて遊泳します。それら映像群の美しさ。この都市の詩学を前にして、天使の役割は、ただ傍観しそれを記録すること。何世紀にも渡る膨大な人間についての記録も、仲間同士で語られるだけで当の人間には伝わらない。そんな自分の存在にダミエルは疑問を持ちます。(そんな不毛な役回りは、天使ならずともどうかと思うでしょう。) 天使のまなざしの映像が終始モノクロームなのは、理知と無時間性を具現する天使の立場と、感情と感覚の人間世界とが隔てられていることを表現しているのでしょう。
 それが、人間の女性マリオンに恋をしたことで状況は次第に変わり始め、ダミエルは最後は人間になります。人間となったダミエルがまず体験したのは、圧倒的な「色彩」の世界(映像はここからカラーに反転)、寒さにすら快感を覚え、一杯のコーヒーに暖を取ることの幸福感。人間にはありふれた当たり前の事柄を、元天使は生の実感として新鮮なまなざしでとらえます。人間であることは、痛みや愚かさや限りある命を受入れることかもしれないが、この世に存在することそれだけで、意味のあることではないですか?と問いかけているようです。
 最後に、この映画を見て誰もが感じること、それはドイツ語という言語のもつ美しさです。街の人々の内的独白、天使同士の会話、全ては難解さを通り越えて詩的なハーモニーの域に達しています。それもそのはず、脚本には作家ペーター・ハントケが参加しています。天使役は、名優ブルーノ・ガンツ、と実はかなり贅沢な映画です。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 荻田)

 

『学問、楽しくなくちゃ』  [請求記号:共同図書環407/Ma67/]

益川敏英著 新日本出版社 2009年

 「学問、楽しくなくちゃ」というユニークな題名のこの本の著者は、2008年にノーベル物理学賞を授賞した益川敏英さんです。益川さんが行った大学生向 けの講演やいくつかの雑誌に書かれた記事で構成されています。ノーベル賞授賞の研究「クォークの六元モデル」(小林―益川理論)についてもさらりと触れて いますが、全体を通して語られているのは益川さん自身の学問と向き合ってきた姿勢(学問との付き合い方)です。大学時代の毎日や科学の基礎の大切さなど実 際の事例や喩えを使ったお話は分かりやすくすんなり頭に入ってきます。また、講演の章では講演部分に加え、参加者からのさまざまな質問に、真面目に、時に は会場の笑いを誘うユーモアたっぷりの益川さんの応えも読みがいがあります。小見出しがついているので、電車の中やちょっとした時間に少しずつ読むことも できますが、読み始めたら最後まで一気に読んでしまうかも…。

(情報処理教育センター 落合)

 

『日のあたる白い壁』 [請求記号:共同図書環723/E44/]

江國香織著 白泉社 2001年

 本を読むことによって精神的に自由になることがあります。私にとってこの本はそういう本の一つです。有名な絵とか順路とかそんなものに縛られない美術館。もっと自由に絵と親しむ世界が広がります。著者の独特な言い回し、視点、感性によって絵を、そして画家を知る楽しさ。
 そして、自分と響き合う絵との出会いを求めて、原画を目にしたときに感じる風や「無音」を求めて美術館へ出かけたくなります。
 この本の文庫版(集英社)には、絵本作家の荒井良二が解説を書いています。美術館で「どの絵だったら買いたいか」という絵の見方をしているそうです。この解説を読んでから私もたまにそうやって遊んでいます。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 平田)

 

『旭山動物園のつくり方 : 「伝えるのは命」最北の動物園からのメッセージ』   [請求記号:480//220]

原子禅文 亀畑清隆写真 柏艪舎 2005年

 夏休みも後半に差し掛かってきましたが、皆さんはどこか行かれたでしょうか?今回紹介する本は、私が今1番行きたいと思っている場所に関する本です。
 「旭山動物園」という言葉は、1度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?2004年に月間入園者数が日本一に輝き、話題になった動物園です。
 この本では、たくさんの動物たちの写真とともに、旭山動物園で働く人々の言葉が紹介されています。その言葉を読んでいると、飼育員の方たちが真剣に、そして本当に楽しそうに動物たちと向き合って仕事をされている様子が伝わってきます。
 先に書いたように、旭山動物園が世間から注目を集め始めたのは2004年前後からですが、そのずっと前、1986年ごろから「ワンポイントガイド」などの現在でも人気のイベントが行われていたのです。動物について来園者に「伝える」という能動的な取り組みはこの頃から始まり、それが話題になった「行動展示」へと発展していくのです。この流れを見ると、旭山動物園の人気は、決して話題性だけをねらった急ごしらえのアイディアによるものではなく、飼育員の方の、動物について、命について「伝える」という気持ちの積み重ねであることが分かります。
 本のカバーにあるホッキョクグマと飼育員の方の写真だけでも1度見てみて下さい。飼育員の方と動物の関係がその1枚から感じられると思います。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 西川)