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2011年12月の5冊


 

 

『武田勝頼 : 日本にかくれなき弓取』 [請求記号:289.1/Ta59]

笹本正治著 ミネルヴァ書房 2011年

 みなさんは「武田勝頼」と聞いて、どのようなイメージを抱くでしょうか。おそらく、父信玄の強さ・偉大さと比較して、更に名門武田氏を滅亡させてしまった人物として、あまり高い評価を与えないと思います。むしろ出来の悪い跡継ぎのように考えているのではないでしょうか。
 ところが、近年それと正反対の議論が出てきています。その代表的な論者が本書の著者笹本正治(しょうじ)さんです。笹本さんは武田氏に関する著作を多く発表していて、もちろん信玄についても評伝を書いています。いわば武田氏研究のエキスパートです。氏によれば、信玄を顕彰するために編まれた『甲陽軍鑑』の記述がすべて史実として受け止められ、信玄をより引き立てるために描かれた、その親や子の劣った人物像がそのまま受容され、評価として定着してしまったというのです。
 この『甲陽軍鑑』史観というべきものに対して、著者は他の間違いない史料をもって立ち向かい、勝頼がいかに有能な武人かつ思慮分別ある文人であったかを縷々展開します。信長に唯一対抗・抵抗できた武田氏を、勝頼も含めほんの僅かであっても蔑にしたくないという著者の気持ちがひしひしと伝わってくる作品です。
 数多くの悲劇のヒーローを生み出した戦国時代ですが、勝頼はまさにその代表的人物の一人です。信長・秀吉・家康の天下統一の陰に隠れていますが、彼と武田氏が倒れなければ新しい時代は生まれなかったのです。著者は敗者の群像を語りつつ、社会に対する人びとの眼差しをより確かなものにしていこうと考えているのかも知れません。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『笑い脳 : 社会脳へのアプローチ』  [請求記号:141.6/O73]

苧阪直行著 岩波書店 2010年

 人はなぜ、笑うのでしょうか。笑いは本当に健康によいでしょうか。
 この図書は、笑いについて、実験心理学の面から解き明かしてゆきます。著者は、ユーモアやジョークのおちから導かれる知的笑い、マンガで誘われる笑い、あるいは「ゲラゲラ」「ニコニコ」などの言葉によって触発される笑いなどを脳の働きと関連づけて考察しています。笑った後の充足感、共感、幸福感は、心の働きのポジティブな面と関わっていると言っています。
 現在、脳の研究は従来の生物学的な脳の研究を超えて、「社会的脳(ソーシャルブレイン)」と呼んでいる新たな研究領域にまで広がっています。よって、社会的な心を扱う心理学と認知脳科学の融合が進展しています。
 人は他者のとの関係のなかで生きています。笑いはそうした他者との関係を安定的に維持する働きがあるのではないかと著者は言っています。そして、ユーモアやジョークも豊かな人間関係をつくっていく働きと密接に関わっているとも言っています。
 本書はコミュニケーション手段としての笑いに関する多くの実験を通して、新しい「社会脳」という研究を紹介しています。笑いはどのように脳と関連をしているかを通して、「社会脳」なるものにふれてみて下さい。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 白井)

 

『かたみ歌』  [請求記号:共同図書環913.6/Sh99/]

朱川湊人著 新潮社(新潮文庫) 2008年

 この本は、東京の下町、アカシア商店街を舞台に起こる7つの不思議な話を書いてあります。1つ1つの話は短いのでとても読みやすいのですが、毎回登場する古書店・幸子書房の店主を通じて、話が少しずつ繋がってきて、だんだん展開がひろがっていき、いろいろな謎が少しずつ明らかになっていきます。
 その中でも、私の一番好きな話は、「栞の恋」です。この話は、世にも奇妙な物語でドラマ化されたのでご覧になられた方もいらっしゃるかもしれませんが、絶対に実る事がない恋を描いてあり、とても悲しく切なく少し怖いですが、でもどこか暖かい気持ちになります。
 また、どの話もラストでドキッとする展開が待ってます。
 作者の朱川湊人さんの本はどの本も、昭和の懐かしいかんじの時代が背景にあり、心温まる作品が多いです。一度読んでみて、もし気に入ったら、ぜひ、「花まんま」など、他の本も手に取ってみて下さい。おすすめです。

(情報処理教育センター 三宅)

 

『纏足の靴 : 小さな足の文化史』 [請求記号:383.7/Te37]

田向健一著 扶桑社 2010年

 長久手キャンパス図書館では来年2月15日まで、国立女性教育会館から100冊を借り受けています。その中の1冊をご紹介します。
 少女の足を布できつく巻き、大変な苦痛を伴いながら生活するうちに骨は変形し、しかしそれは条件の良い結婚につながるために親族の女性たちの手で脈々と施され続ける、男性中心社会で生まれた女性抑圧の印。中東やアフリカの女子割礼と似たようなものと思っていました。しかし香港出身で現在は米国の学者である著者は、そのようなイメージばかり強調されるが、実は家庭の中で重要な位置を占め、美しい纏足靴を作ることで見事な工芸技術を披露する、自立した女性の象徴だという見方をしています。事実、初めは上流階級の習慣であったものが、後世には農民や大衆の間に流行したり、あまりにありふれたものになったため史料がほとんどなかったり、清王朝が何度も禁止したにもかかわらず少数民族にまで広がったなどの記述が、異文化を持つ我々が悪習であると一概には言えないことを物語っています。
 この本は美しい刺繍やアップリケが施された小さな靴の写真がかなりのページを割いていますが、時代や地方によって特色があり、図録のような要素があります。県大の蔵書にも1冊あるので、2月以降も読むことができます。既存の歴史的認識を違った視点で見るためにも、ぜひ手に取ってみてください。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 伊藤)

 

『家なき鳥』   [請求記号:933.7/W66]

グロリア・ウィーラン [著]  代田亜香子訳 白水社 2007年

 この物語の舞台であるインドは、私にとって訪れたことのない国です。自分の住んでいる国以外の国との出会いは、食べ物・雑貨・写真・テレビ・アニメなど色々考えられます。それ以外にも「物語」は初めての出会いとなっていることも多いと思います。
 刺繍の得意な主人公のコリーは十三歳でお嫁に行くのですが、そこには悲しい運命が待っています。それでも、コリーは次々と現れる悲しみの中で小さな幸せを見つけ出し、けなげに暮らします。そして、多くを求めているわけではないにもかかわらず、絶望に直面します。その絶望のなか小さな光が射しこみ、運命を変えていくことができるのです。コリーのめぐりあわせのゆくえと同時に、女性らしい細やかな描写によりインドの生活が感じられること、物語の中に出てくるサリーや刺繍がカラフルなインドのイメージを作り出しているのも魅力です。
 しかし、これが現代のインド女性のおかれている社会とすれば、驚かざるを得ません。出版されてから10年以上経った今のインドの状況は違うのでしょうか? 
そんな疑問から知らない国への扉は開かれていくのでしょう。
 この物語のタイトル「家なき鳥」はインドの国民的な詩人タゴールの詩で、Balaka(野生の鳥)という小詩集『渡り飛ぶ白鳥たち』として「タゴール著作集5」(アポロン社)におさめられているそうです。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 平田)