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2012年1月の5冊


 

 

『近世三昧聖と葬送文化』 [請求記号:385.6/Ki46]

木下光生著 塙書房 2010年

 今回紹介するのは、近世の被差別民研究を精力的に行い、常に新鮮かつ鋭い論点を出しつづける気鋭の研究者、木下光生さんの論文集です。木下さんは、人びとは「自他の死をどう受け入れ、葬り、処理し、記憶していくのか」という、人間にとって本来切実であるはずの「死という問題群」を近世史の分野で改めて鮮明にしてくれました。それは本書の題名にある「葬送文化」という表現に直截に表れています。文化として論ずるということが、それらの問題群と正々堂々とわたり合っている感じがするのです。
 葬送にかかわる者としての三昧聖(さんまいひじり)は、「聖」という語感とはおよそ異なる穢れと差別の対象でした。「おんぼう」とも呼ばれることが多く、言うまでもなく火葬・土葬および墓地管理を専門としてきた賤民の一種です。本書は、江戸時代の畿内近国における三昧聖の実態を社会的分業・経営の観点から克明に分析し、さらに近代の賤民解放令後の実態とも連絡させて検討しています。その結果、「葬送の商品化」は近代以降であるとの通説=俗説が変更されることになるのです。
 ヒトの一般死にともなう死穢の問題が賤民の社会的地位とどのように関わるか、これまで「具体的・自覚的に追究されて」こなかったと著者は述べていますが、特に近世史研究の場合はそうだと思います。著者は、実態論を深めるため賤民の自己認識のレベルまでの検討を行い、やがて賤視に対する解放闘争へと言及していきます。多くの読者は、常に現代的課題と切り結びながら過去と格闘する姿勢に共感を覚えるでしょう。もちろん、著者の研究は差別という寝た子を起こすものでも、差別を助長するものでもないことを付け加えておきます。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『ロウソクの科学』  [請求記号:080/I95-33/909-1]

ファラデー著 竹内敬人訳 岩波書店(岩波文庫 青) 2010年

 イギリスに王立研究所(Royal Institution of Great Britain)という科学施設があります。
 ここでは、1826年以来、現在に至るまで「クリスマス講演会」と呼ばれる、青少年向けの科学実験講座が行われています。
 1860年の「クリスマス講演会」で公演された内容が、今回紹介する『ローソクの科学』です。
 講演者はマイケル・ファラデー、化学や電磁気学の実験で数多くの物質や現象を発見し、現代に続く科学技術文明の基礎を築いた大科学者です。ベンゼンの発見者、イオンの命名者(流通企業や英会話教室ではありませんよ、化学で出てくる原子や電子に関わるイオンです)、ファラデーの法則と聞くと思い出す人も多いでしょうか?
 そんな偉大な科学者が講演のテーマに選んだのがロウソク。「何だロウソクか」と思ったあなた、ちょっと考えてみてください。  ファラデーの講演が行われたのは1860年。
 これは桜田門外の変が起きた年、写真を撮るのにも2,30分じっとしていなければならない時代のお話です。
 6回にわたる講義で、ファラデーはロウソクを使っていろいろな実験を行い、水や酸素の性質から大自然の不思議な連動、そして若者への熱い期待へと話を繋げていきます。
 150年経った今でも、この本を読んで科学者や技術者への道を選ぶ人がいます。
 『これは私たちが開国をうながした、はるか遠くの異国、日本からもたらされた物質です』なんて発言も出てくるファラデーの名講義、ぜひ一度読んでみてください。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 松森)

 

『ドイツの姑 (はは) を介護して』  [請求記号:916/G75/]

グレーフェケ子著 中央公論新社(中公文庫) 1999年

 著者は名古屋出身の方です。
 ドイツ、ということで、では本学ドイツ学科(現、欧州学科ドイツ専攻)、あるいは先輩校(ライバル校?)でドイツ(文)学科出身と思いきや、そうではなく文化人類学を学ばれ、その後ドイツ人科学者とご結婚されて渡独されている方です。
 さて、ドイツでの生活も日本と同様、言葉が違えど人生のあらゆる出来事があるわけで、どこでも人生経験内容は似たようなものになるはずです。当然、お国が違えば伝統や状況が異なり、"想定外"なことに遭遇することがしばしばです。その実態は千差万別、やはり個々のケースを読み解くことで学ぶことがいろいろあるはずでしょう。
 これを"文化の違い"と括って済ませてしまいがちですが、この著者がきわめて詳細に私生活を公にしてくれたおかげで、私たちは日本に居ながらにして外国の様子、外国人の人となりを理解でき、りわけ介護先進国と呼ばれるドイツにおける介護の実状を(もう古い情報かもしれませんが)直接的に学べる、という点で教科書として貴重だ、と思います。
 (※著者のサインが中表紙にあります!……でも残念ながら中古本だったんです)
 同著者作品:「ドイツ快適住宅物語」(中公文庫)
         「ドイツの犬はなぜ幸せか―犬の権利、人の義務」(中公文庫)

(情報処理教育センター 河合)

 

『ペンギンの憂鬱』 [請求記号:983/Ku69]

アンドレイ・クルコフ著 沼野恭子訳 新潮社 2004年

 売れない小説家ヴィクトルは、動物園から譲り受けた憂鬱症のペンギン、ミーシャと暮らしています。彼が、まだ生きている人間の追悼記事を書くという奇妙な仕事を引き受けるところから、物語は始まります。やがて、書いた後に記事にした人間達が次々と不審な死を遂げていき、その影はヴィクトル自身にも迫ってくることになるのです。
 物語の舞台はウクライナの首都、キエフ。家の外では銃声が鳴り響き、マフィアの抗争が続く暗い社会情勢でありながら、一方で主人公を取り巻く家の中での生活は、飽くまで淡々と、平和な「日常」であろうとします。
 危険だとわかっていながら、流されるままに仕事を続ける主人公と、その仕事を通じて知り合った人物の子供ソーニャ、ベビーシッターの女性ニーナ、そしてペンギンを含めた、血のつながらない他人同士の不思議な同居生活は、愛情や不安といった感情よりも「普通」に日々を過ごすことに重心が置かれています。その違和感や、不安感は物語の背景に常に存在するにもかかわらず、そこから目を逸らしているかのような人々に、平和な日本で暮らす私たちには理解しがたいものを感じますが、その分、物語は決して重苦しくはならず、本当に深刻なことは、日常という同心円の外に追いやられています。
 登場人物達は、皆それぞれの孤独を抱えています。その中でも、故郷から遠く離れた地でたった独り、眠れずに夜中に足音を立てて歩き回るペンギン、ミーシャが、愛らしいのにどこか哀しげで、心に残ります。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 大島)

 

『問題な日本語』   [請求記号:810.4/ Ki64]

北原保雄編  大修館書店 2004年

 「お土産をいただきまして、すみません」「○○さんって今日ヒマだったりします?」皆さんはこんな日本語を何気なく使っていることはありませんか?私自身はごく自然に使ってしまっているのですが、少し違和感を覚える人もいるようです。
 この本は、そのような「気になる日本語」についての質問に回答するかたちで解説がされているもので、本書はそのシリーズの第3弾です。
 この本を読むまでは、私自身は全く「気にしていなかった日本語」も、この本を読んでいると、確かに気になると感じるものも多く、興味深かったです。
 友人同士など、先に挙げたような表現に共感できるもの同士の間ならば問題はないと思いますが、目上の方と話す時などは、そのような言葉が気になってしまう方もいるようなので、注意が必要かもしれません。
 12月から就職活動が本格的にスタートし、慣れない敬語に苦戦している人も多いかもしれません。この本を読んで、1度自分の普段の日本語を見直してみるのはいかがでしょうか?
 ただし、あまり考えすぎてしまうと言葉が出てこなくなってしまうので、あくまで参考程度に息抜きで読むのがおすすめです。ちょっとした4コマ漫画のようなものも所々に書かれているので、楽しく読むことができると思います。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 西川)