今月の5冊へ先月までの5冊へタイトルリストへ

書名のリンクは図書館所蔵です。別ウィンドウが開きます。

2012年2月の5冊


 

 

『日本的思考の原型 : 民俗学の視角』 [請求記号:380.1/Ta55]

高取正男著 平凡社(平凡社ライブラリー) 1995年

 民俗学といえば柳田國男や折口信夫がまず念頭に浮かびますが、この両巨人に代表されるムラ社会に対する基本的理解(個人は共同体=集団の中に埋没し「常民」としての無名性を帯びた存在である)を根本から揺さぶった研究者がいました。今回紹介するのは、歴史学から民俗学に転じ、新しい視点を示した高取正男さんの著作です。これは、講談社現代選書として1975年に刊行されたものを平凡社ライブラリーとして再版したものです。再版にあたり新たに「解説―フォークカルチュアの遍路びと」が付され、本書の意義が的確に述べられていますが、とても参考になります。
 食器や枕、物乞い、村の談合など、ごく当たり前の日用品や現象を素材に、すでに忘れられたり失われたりした文化を探り当て、それらの基層文化の意味を確認し歴史を記述することが民俗学の目的とされています。本書はそうした民俗学のテキストとしての意味を有していますが、それ以上に、伝承主体としての個別のヒトやモノの実存的なあり方(埋没からの復権)について言及し、従来の民俗学的理解を乗り越えようとした批判の書だと言えます。それは、四章立ての内容(「エゴの本性」「裏街道の話」「土着の回路」「マレビト論再考」)すべてに顕現しています。著者は「共同体を構成する個々人のエゴと、所属する共同体のあいだの随順と対立、没我と我執の関係は、人間存在の根源にかかわる要素である」と指摘し、民俗誌を改めて伝承の主体に即した形で再構成することを提起したのです。この方向を現在の民俗学は継承していると思いますが、民俗学に限らず、著者の視点は日本社会を考える上で極めて有効だと思います。読んでいてハッとさせられることしばしで、文化論の真髄に触れたような気分になります。どうかご一読を。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『アメリカ黒人女性とフェミニズム : ベル・フックスの「私は女ではないの?」』    [請求記号:316.853/H85]

ベル・フックス著 柳沢圭子訳 明石書店 2010年

 本書は、アフリカ系アメリカ女性に関わる性差別と人種差別を、奴隷制時代から分析したもので、ポーラ・ギディングズ著『アメリカ黒人女性解放史』(時事通信社、1989年)[請求記号367/964]とともに読んでほしい本です。ギディングズの著作は奴隷制時代から現代までをたどった歴史書ですが、本書は数多くの資料に言及しつつも、エッセイのような形で読み易く書かれています。
 1970年代、80年代は英米フェミニズム批評全盛の時代でした。ミレット、エルマン、ショウォルター、ギルバート&グーバーらの著作が次々に出版され、批評空間をラディカルに塗り替えてゆきました。男性批評家の視点で文学作品を読んでいた女性読者にとって、眼からウロコの体験でした。ちょうどそんな時期に本書は書かれました。ベル・フックスは、「女たちよ、連帯して女性の権利をかちとろう!」というフェミニズムのスローガンに首を傾げ、「ちょっと待った」と声を上げました。
 奴隷制時代、社会の最下層におかれた黒人女性たちの直接の加害者は、抑圧に異議を唱える当の白人女性たちでした。女性参政権や平等権修正条項を求める長い運動の過程でも、黒人女性は運動の仲間に入れてもらえませんでした。それでも黒人女性は、結果的に、自己実現を求めて外に出て行く白人女性のために低賃金で家事や育児を代行し、彼女たちの自立を支え続けたのです。フックスはこのような歴史的事実を踏まえ、女どうしなら一致団結できると単純に考えるフェミニストたちの能天気と無知を、鋭く糾弾したのです。
 本書に続いて、ブラック・フェミニズムと呼ばれる数多くの批評が生まれました。そして、ポストコロニアル・フェミニズムと呼ばれる批評もブラック・フェミニズムの理論から多くのヒントを得、いまだ植民地主義の影響下にあえぐ女性たちの声を代弁しました。ガヤトリ・スピヴァクは、最下層に生きる女たちと連帯するためには、先進国女性知識人は女であることをいったん脇に置いてみたらどうだ、と提案しました。
 フックスの意図は、白人フェミニストを非難し、フェミニズムの有効性と成果を否定することではありません。性差別は単独で起きるものではないこと、それゆえ、人種/民族、階級等を加えたより複雑で包括的な視点が必要であることを訴えています。フックスの『ブラック・フェミニストの主張-周縁から中心へ』(勁草書房、1984年)もお薦めします。

(学術情報センター長補佐 鵜殿悦子(外国語学部国際関係学科))

 

『3・11の未来 : 日本・SF・創造力』  [請求記号:901.3/E14/]

海老原豊 藤田直哉編集 小松左京 [ほか著]  作品社 2011年

 本書は、2011年3月11日に発生した東日本大震災について、26名のSF作家や評論家などのSF者が「災害」、「日本」、「SF」について各々の知識や感性で多角的に論考した本です。中には不謹慎とも感じられる著述や少々過激な著述もありますが、SFファン以外の人にも興味深く読める本であると思います。
 住まいのある仙台で被災した、東北大学工学部の特任教授であり、日本SF作家クラブの現会長である瀬名秀明氏は、2段組み43ページにもわたる著述で、被災地での体験を交えて、被災者の実感とそれ以外の人々の想像の差異、時間の差異、シンパシーやエンパシー、そして思いやりについて考察しており、被災者の実感を伴った興味深い論考となっています。
 その他、2011年3月の時点に日本SF作家クラブの15代目会長だった新井素子氏なども、独特の新口語文は健在で、共感しやすいいつもの調子で、災害、原発事故の捉え方について考察したうえでSFの意義を考察しています。
 京都大学SF研究会出身の評論家である鼎元亨氏のこの災害後の日本についてのSF的論考は、非常に良く出来たSF、フィクションとして読めるのですが、可能性がゼロとはいえないリアリティがあり、最も興味深く読めました。SF=エンターテイメントとして面白いと同時に、そのうえで警鐘としても読めるメッセージとなっていると思います。
 そしてなにより、昨年(2011年)7月26日に亡くなった小松左京氏の最後の著述が、本書の序文となっています。同7月に書かれたこの著述の中で、「まだ人間の知性と日本人の情念を信じたい。この困難をどのように解決していくのか、もう少し生きていて見届けたい」と書かれており、氏の人間に向けた愛情が感じられるメッセージとなっています。
 なお、巻末には3・11を考えるためのブックガイド40作が付いており、日本沈没など様々な本が紹介されています。
 こういった本や情報を目にすると、被災者に対して思いやりを持って何かできる支援をしたいとも思うのですが、読んでいる間は共感できても、読み終わった後にはなかなか気概に満ちた行動には至らずに終わってしまいます。まだまだ想像力と思いやりが足りませんね。                    

(情報処理教育センター 落合)

 

『ドキュメント宇宙飛行士選抜試験』  [請求記号:538.9/O21/]※旧共同図書環

大鐘良一 小原健右著 光文社(光文社新書) 2010年

 みなさんは宇宙飛行士というとどのような人を思い浮かべるでしょうか?
 心身ともに健康で頭脳明晰、抜きんでた天才というイメージを持っているひともいるかもしれません。実際に、2005年までに採用された日本人宇宙飛行士は8名、日本の人口からいえば『1600万人にひとり』という超難関の狭き門であったことは間違いありません。
 NHKの取材班であった筆者は、2008年に10年ぶりに実施されたJAXAの宇宙飛行士候補者採用試験に初めて密着取材を行い、応募総数963名の中から最終的に3名の宇宙飛行士候補者を採用するまでを追いかけました。錚々たる経歴の持ち主である10名の最終候補者により行われた最終選抜試験には、決してただただ天才なわけでも、万能というわけでもない候補者たちが様々な試験に悩み、必死に取り組む姿がありました。
 筆者はこの試験も中途の採用試験であり、『大学生の就活と大差ない』と言います。『レベルの差こそあれ大学生が内定を勝ちとるために求められる資質も、宇宙飛行士に求められる資質も根本的には同じ』なのだそうです。現在就職活動中の方も、これからの方にも自分を見つめ直すヒントがあるかもしれません。その資質が何であるのかはぜひ本を読んで確かめてみてほしいと思います。
 誰でも小さな頃にはなりたかったものがきっとあり、それを忘れてしまった人、諦めた人、今もそれに向かって努力している人など様々なひとがいると思います。この本に描かれているのは、決して諦めず、夢を叶えるための努力をし続けている人たちです。そして堂々と自分の力でそれを成し遂げた人たちです。心から応援し、また拍手を送りたい気持ちになる本です。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 草間)

 

『童門冬二の歴史に学ぶ智恵』   [請求記号:281.04/D85/]※旧共同図書環

童門冬二著 中日新聞社 2009年

 毎日寒い日が続いています。朝は、特に寝起きが辛く、頭がすっきりしない日が多いです。それでも、少しの時間に新聞のコラム欄などに目を通すと、今日も1日頑張ろうという気持ちになります。
 我が家では、中日新聞を購読していますが、朝刊に歴史上の人物の名言を解説するコーナーがあり、短い言葉の中に、自分自身が励まされるものもあり、愛読していました。その新聞連載が単行本化されているので、紹介します。
 彫刻家・村上保氏の切り絵がかわいらしいので、歴史は苦手と思われる方も親しみやすく読むことができると思います。取り上げられているのは、全国的に有名な徳川家康・武田信玄・加藤清正から、中部地方にゆかりのある、徳川宗春・徳川義直・大久保彦左衛門などの武将のほかに、幕末の勝海舟・吉田松陰、明治の渋沢栄一など多彩です。

 私は、肥前(佐賀県)初代藩主の鍋島勝茂の言葉で、
        「奉公人は四通りあるものなり。」
に関心を持ちました。解説には、
  「部下を見た時の評価として、働く者には4タイプある。できる人は少数派。」
とされ、それぞれのタイプをわかり易く説明してあります。私もその中の一つに当てはまり、反省いたしました。
 この本から何かを学び、毎日を前向きに生活するために、役立つ言葉を探してみてはいかがでしょうか。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 古屋)