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2012年3月の5冊


 

 

『逃げる百姓、追う大名 : 江戸の農民獲得合戦』  [請求記号:080/1629/12]

宮崎克則著 中央公論新社(中公新書) 2002年

 「土地緊縛」という言葉があります。前近代の農民が自由に移動することを許されず、土地に縛りつけられるようにして働かされていたことを表現するものですが、実は農民たちはよりよい生活を求め、住み慣れた村を棄てるという行動に出ることもあったのです。それが「逃散」とか「走り」とかいわれるものでした。
 こうした行為は激しい百姓一揆(強訴)や打ちこわしのような形態を取らなかったために、消極的反抗として評価され、没落した農民が逃亡したものと考えられてきました。しかし、本書の著者宮崎さんは、そうした理解は早計であり、「走る」側の視点から移動や移住の実態を検証する必要性があり、「走り」にはもっと積極的な意味があったとしています。つまり、「走り」は近世初期特有の現象であって、その時代の特質を理解したうえでなければ十分な評価が下せないとし、戦国時代後の大開発の時代に労働主体となる農民たちがいかに各大名たちに必要とされたか、農民の獲得合戦のごとき様相が起こっていたのであり、農民たちは巧みにそうした状況を利用し、戦術の一つとして「走った」と見るのです。
 確かに、近世初期の地方(じかた)史料を読んでいると、村の成立期に「牢人」たちが入り込みそこに定着したという記述をしばしば目にします。この牢人こそ「走った」人々だった可能性があります。「走った」人々を還住させようと、領主は必死になって「走った」先の領主と交渉します。その場合、出て行った農民が年貢を済ませていないと戻らなければなりませんが、そうでなければ戻る必要はありませんので、受け入れた側は強気に出ます。本書では、さまざまな条件と場面が挙げられていて、どのような場合に農民たちが目的を達成したか、よくわかるように組み立てられています。民衆運動の一つとして「走り」に大きな意味を付与した本書に、まさに目を開かされたという心持ちです。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『グローバル社会と情報的世界観 : 現代社会の構造変容』    [請求記号:361.5/Ma62]

正村俊之著 東京大学出版会 2008年

 1990年代半ば以来、インターネット、移動体通信の急速な革新と普及に伴い、情報技術によるインパクトが産業社会の根本を変えようとしているとともに日常的な社会生活、社会構成、世界観に多大な影響を与えている。「グローバル社会と情報的世界観」はグローバル化と情報化における現代社会の構造的特質に着目して社会学と社会情報学の視点を併せ持ち、リアリティの変容を周到に究める。本著書は社会的コミュニケーションを分析した上で、時空的秩序の再編、社会関係のネットワーク化とアイデンティティの揺らぎ、経済・政治・文化の機能的融合などの面で論議が多岐にわたる。著書に与えられた論点は情報化社会の再認識に有益である。

(学術情報センター長補佐 田学軍(情報科学部情報科学科))

 

『図書館に訊け!』  [請求記号:015//225]

井上真琴著 筑摩書房(ちくま新書) 2004年

 先日、出張で同志社大学の井上真琴氏を訪れる機会があり、その前日にこの本を知りました。本を手にした時、「図書館に訊け!」という書名より井上氏が書いた本であることに惹かれ読みました。
 冒頭の「図書館、誰もが知っている未知の国」に共感した私ですが、この本は一般の人にとって馴染みのない図書館の専門用語や、図書館をどのように使えばよいのか、図書館で何をどこまで調べられるのかを、親しみやすい例や文章でわかりやすく説明しています。読み終わる頃には図書館の魅力が実感でき、本に書いてあったことを実践してみたい気持ちになります。
 勇気づけられる文章がありました。人間も本の改訂版と同じように、資格を取ったりキャリアを積んだりすることによって履歴書が書き換えられ、改訂されるという文章です。このように、本のところどころに自分が前向きになれる文章を見つけることもできます。
 お会いした井上真琴氏は、大変エネルギッシュな方でテンポの良い関西弁でお話しされました。この本から井上氏の関西弁は感じられませんが、図書館への知識・熱意などの大きなエネルギーは伝わってきます。図書館がわかるようになり、元気も出る本です。 

(図書情報課 石田)

 

『2015年の電子書籍 : 現状と未来を読む』  [請求記号:023/N64]

野村総合研究所 [ほか] 著 東洋経済新報社 2011年

 去る2010年は電子書籍元年と呼ばれ、アップル社のiPadをはじめ様々な電子書籍閲覧端末が日本で発売されました。それから2年が経とうとしている現在。電車の中やカフェなどでそれらの端末を使っている人を見かける機会も増え、徐々にではありますが、電子書籍が身近なものになってきているようです。私自身の経験で言えば、先ごろ出席したとあるイベントで、どの企業でも営業担当者が紙のカタログではなく、タブレット型端末で自社商品の説明を行っているのを見て、電子書籍時代の到来を肌で感じました。
 この本はビジネスコンサルタントとして知られる野村総合研究所が行った、電子書籍のビジネス展開にまつわる現状分析と未来予測をまとめたものです。情報通信コンサルティングの専門部門が執筆しているだけあって、きわめて豊富なデータや事例が引用されており、その分析は客観的で説得力があります。
 出版社や著者サイドでは、収益上のリスクのためかネガティブな論調で語られることもある電子書籍ですが、一方では今までにはない表現の可能性や、個人出版の容易化、絶版本や稀覯本へのアクセシビリティの向上など、大きなメリットが期待できます。また現在検討されている教育分野への導入や電子図書館構想などが実現すれば、私たちの生活を大きく変えていく可能性すらあるでしょう。
 日本では現在から2015年までの間に、かつてのアメリカ以上のスピードで電子書籍が普及していくだろう、とこの本では予測しています。それは一体どんな未来になるでしょうか。15世紀のグーテンベルク以来の技術革命と呼ばれる電子書籍の登場。その歴史的な節目に立ち会うことのできる私たちは、ある意味とても幸運なのかもしれません。   

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 星野)

 

『永遠の少年 : 『星の王子さま』の深層』   [請求記号:146/C/123]

M.-L.フォン・フランツ [著]  松代洋一 椎名恵子 訳 紀伊国屋書店 1982年

 神話や童話、夢の中には「元型」と呼ばれる、人の心の集合的無意識にある力動作用が表れていることがあります。「永遠の少年」も元型の一つです。そして「星の王子さま」にも元型が表れているとし、物語を通じて心理分析を行っているのがこの本です。
 さて、心理学は、図書館の分類で表すと4類「自然科学」ではなく、1類「哲学・宗教」に分類されます。哲学や宗教と同様に心理学は、目には見えないものを取り扱っています。科学的に「心が存在する」ことが証明されてはいませんし、「心を開くと永遠の少年などの元型が観測される」という事実ももちろんありません。
 しかし、心理学者が多くの患者と接するうち、不思議と共通した体験を得ることがあるのは事実であり、そうした体験から推測されるストーリーを分析し、対処した結果、患者が快癒に向かうことがあるのも事実です。心は現象として存在するのです。元型もしかりです。
 「星の王子さま」にもそういった、人類が太古から経験し想起しているイメージ(元型)の要素が色濃く出ており、分析の対象として魅力的だったのではないかと思います。
 私が一番気になっている分析部分があります。それは、王子さまの住んでいる小さな星がバオバブの木に侵食され、潰されそうになっているシーンの分析です。小さな星はテグジュペリの心理的物質、その星を大きな木が呑み込んでいる様子は、小さな大地からエネルギーを吸収し破滅させる母親コンプレックスの表れとしています。
 ここまで読んで感のよい方はお気づきかもしれませんが、このイメージはスタジオジブリの「天空の城ラピュタ」と酷似していると思いませんか。主人公のパズーはシータと共に、大木に浸食されたラピュタを崩壊させ、その後ラピュタは宇宙へと去っていきます。単純に読み解くと「主人公は母親からの呪縛を解き、パートナーを得、大地に足をつけて自立することを選んだ」と解釈できそうに思います。
 出版から50年以上も経つ世界のベストセラーと日本の大ヒットアニメーションには、誰もが持つ心の原風景に近いイメージを描いた、という共通点があったのではないでしょうか。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 梅田)