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2012年5月の5冊


 

 

『国境の歴史文化』  [請求記号:210.04/Ka37]

上川通夫 愛知県立大学日本文化学部歴史文化学科編 清文堂出版 2012年

 今回紹介するのは、評者自身も関わっているので、自画自賛になるかもしれませんが、どうかご海容下さい。日本文化学部歴史文化学科では、この三年間ほど「国境(くにざかい)の歴史文化」を共通のテーマとして共同研究を行ってきました。その成果をまとめたのが本書です。いうまでもなく本学は尾張・三河・美濃三国の境界近くにあります。学科の研究者集団の拠って立つ職場環境がこうしたテーマを設定させたともいえますが、それだけではありません。抗争、紛争、協調、連帯、たえず耳にする言葉ですが、現代社会を彩るそうした事象をより深く理解するために、「境界」は重要なキーワードだからです。
 ところで、学科の教員はみな同じ検討対象や共通の方法論を有しているわけではありません。研究領域で言うならば、歴史・思想・地域研究・社会学・法学等が日本の歴史文化を共通項として結びあっている学科です。国にも様々なレベルがありますので、緩やかにそれを大括りにして境界の議論をしたというのが実際です。結果として、本書は「『グローバル』時代の国境」「フィールドの中の国境」「歴史と国境」という三部仕立てとなっています。それぞれ、近現代の日本とつながる世界における境界の原理的研究、歴史文化の実態を社会生活の場に即して捉える研究、現代から遡ってみていく歴史研究という内容ですが、全体として、国境の議論を通じて、世界認識の豊富化が目指されていると思います。
 なお、本書は学科教員の現在進行形の研究がそのまま示されているので、学科の紹介になるとともに、学科の共通的なテキストとして利用することも予定されています。本学科の学生さんには必読の書となるに違いありません。もちろん、他学科の方にもぜひ手に取っていただきたいと思います。それは、教員たちが結びあって研究し、本を作るということが、大学という場でどのように行われ、そしてどのような意味があるのか、しっかり見てほしいからです。専門性はやや高いですが、十分に読破できるはずです。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『仏像のひみつ』    [請求記号:718/Y31]

山本勉著 川口澄子イラスト 朝日出版社 2006年

 5月になり、新緑が目に優しく輝いて見えます。連休にお寺に行かれた方も多いのではないでしょうか。
 お寺に行くと、思わず手を合わせて、何かをお願いするなど祈ってしまいます。その先にこちらを見つめる仏様が鎮座しています。仏像が面白いのは、拝む対象というだけでなくて、仏教という宗教が作り出したいろいろな話の登場人物だからです。
 この図書は東京国立博物館で開催された「親と子のギャラリー」という小さな展覧会の内容を元にしています。「仏像たちにもソシキがある!」「仏像にもやわらかいのとカタイのがいる!」「仏像もやせたり太ったりする!」「仏像中には何かがある!」と4つのひみつを紹介しています。これらを知れば、仏像のことがわかって楽しくなります。
 仏像のひみつを知って、お寺や博物館で出会う仏像を鑑賞してみて下さい。静かにある想いを持って見れば、仏像がこちらを見てほほえんでくれるかもしません。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 白井)

 

『わがユダヤ・ドイツ・ポーランド : マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝』  [請求記号:944.7/R25]

M・ライヒ=ラニツキ著 西川賢一訳 柏書房 2002年

 ドイツに、「文学の法王」と呼ばれ、絶大な影響力を持つ文芸評論家がいます。マルセル・ライヒ=ラニツキ。年齢91歳、ポーランド系ユダヤ人。大手新聞の文芸批評担当を歴任し、テレビで書評番組「文学カルテット」を主催、そこで酷評された本は翌日書店から姿を消す(?!)とまで言われました。(この人気長寿番組が、村上春樹の「国境の南、太陽の西」の評価をめぐって出演者が対立し、打切りとなってしまったのは有名な話です。)
 ジャーナリズムを活躍の舞台とする彼の文芸批評の特徴は、明快でわかりやい切れのある文体、通説を覆す奇抜な発想、一言で言って「読ませる文章」にあります。そして何より、辛辣を極めていること。良いか悪いかキッパリと判断を下し、容赦ない批判を展開します。しかしそれは、丹念なテクストの読み込みと、文学への愛によって裏打ちされており、清々しさすら覚えます。彼のドイツ文学への博識と並々ならぬ執念はどこから来るのか、彼の自伝であるこの本を読めば納得できます。
 少年期の教養体験、ユダヤ人を理由にドイツで大学入学を拒否され、ポーランドに強制送還、ワルシャワ・ゲットーへの隔離、強制収容所行き寸前で命からがら逃亡、潜伏。戦後は政府機関で働くも、失職。西ドイツへ着の身着のままで亡命、文字どおりペン一本で生活を切り開く日々。心の糧を文学書に求め続けた男は、故国喪失者とみなされる時、「自分の故国はドイツ文学」と言い切ります。ケストナー、ベル、グラス、レンツ、他枚挙に遑がないほど多くの第一線の作家たちとの交流が後半部を占め、「歩く現代文学史か!」とツッコミを入れたくなるほどですが、またその寸評が面白く、「作家という人種は、、、」と考えさせられます。「文学鑑賞では何かを賭けなければならない場合もある」、「相手が第一級の作家でも萎縮するにはおよばない」、とは彼が学生時代に学んだ教訓です。ドイツで120万部のミリオンセラーとなったこともうなづける内容です。
 彼の膨大な著作の邦訳が少ないのは非常に残念ですが、できるならぜひドイツ語で読んでみてください。本学図書館でも多数所蔵しています。学術論文とは違った、文芸批評の面白さがきっと味わえるはずです。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 荻田)

 

『舟を編む』  [請求記号:913.6/Mi67]

三浦しをん著 光文社 2011年

 新学期が始まって一か月が経ちました。みなさん、辞書は買われましたか? 今回ご紹介する本は、辞書選びの参考にはならないかもしれませんが、辞書がいかに個性的で魅力的かということが分かる一冊です。
 この小説の舞台は、玄武書房の辞書編集部。新しい国語辞書「大渡海」の編纂のために編集部にやって来たのが、元営業部の主人公「馬締光也」です。名前の通り大変「まじめ」で、言葉にこだわり、人とは違う視点で物事を捉える馬締は、辞書作りの才能はあるものの、ときどきトンチンカンな事を言って周りを困惑させます。そんな馬締をフォローする同僚の西岡や元編集者の荒木、辞書の監修の松本先生などの個性豊かな登場人物達が、辞書をつくるという一つの目標に向かってつき進んでいきます。笑いあり涙あり、そして馬締達の辞書にかける情熱に心を打たれる物語です。
 この本を読んでいて思い出した本があります。日本近代国語辞典の祖と言われる『言海』を生み出した大槻文彦の伝記、『言葉の海へ』高田宏著[請求記号:289//334]です。『言海』は、現在の辞書とは違い大槻文彦がほぼ一人で編纂しているという違いはありますが、途中で何度も挫折しそうになりながらも、あきらめずに辞書を完成させた情熱と粘り強さは共通していると思いました。なお、『言海』は完成までに17年、馬締達がつくる「大渡海」も15年もの年月がかっています。
 さて、この本を読み終えて、次に何を読もうか迷っている方には、前出の『言葉の海へ』と、著者三浦しをん氏のインタビューが掲載されている「ユリイカ」2012年3月号「特集「辞書の世界」」[請求記号:P911.1-14]をおすすめします。また違った辞書の魅力を知ることができるはずです。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 磯部)

 

『デス 吉本ばなな自選選集3』   [請求記号:913.6/Y91/3]※旧共同図書環

吉本ばなな著 新潮社 2011年

「あの幼い私の面影だけが、いつもあなたのそばにいることを、切に祈る。
手を振ってくれて、ありがとう。何度も、何度も手を振ってくれたこと、ありがとう。」

 死というテーマで集められたよしもとばななの自選選集の中のひとつ『ムーンライト・シャドウ』の一節です。読んでから10年以上経ちますが、ずっと印象に残っています。
 恋人を失ってしまったさつきは、絶望的な喪失感の中、どんなふうに過ごしたらいいのかもわからない、「本当はしたいことなんて何一つありはしな」い毎日を、それでも生きていかなくてはなりません。そんな毎日をかろうじて過ごしていくために始めた早朝ジョギング中に、彼女は不思議な女性うららと出会います。
 よしもとばななが大学の卒業制作に執筆した処女作ともいえる短編小説ですが、彼女の著作の中でいちばん心に残っている作品です。
 どんなにつらいことがあっても、それでも朝はやってきて、進み続けなくてはなりません。 でも、そんなときだからこそ、見えるものや気づけることもあるのではないでしょうか。そばにいてくれる友達の大切さに改めて気づいたり、心から共感できる本との出会いがあったり…。だからといってそれで悲しみが癒えるわけではないけれど、わずかでも今のつらさにも意味があるのだと思えたら、ほんの少しだけ心安らぐことができるのではないでしょうか。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 草間)