今月の5冊へ先月までの5冊へタイトルリストへ

書名のリンクは図書館所蔵です。別ウィンドウが開きます。

2012年6月の5冊


 

 

『ロマンに生きてもいいじゃないか : メキシコ古代文明に魅せられて』  [請求記号:256/Su49]

杉山三郎著 風媒社 2012年

 今回紹介するのは、「月のピラミッド」「羽毛の蛇神殿」等で有名なテオティワカン遺跡の発掘を続けている、メキシコ古代文明研究の世界的権威杉山三郎さんの著作です。本学の特任教授でもある先生には、特に国際文化研究科の学生が全面的にお世話になっています。先生は日本とアメリカ・メキシコを行き来して大車輪の活躍をされていますが、本書はそうした中で時間をやりくりして書き上げられた自伝的エッセイです。
 本書の前半部分では、ご自身がどのようにしてこの道に進まれたのか、幼少期の思い出、学生時代の海外放浪、考古学との出会い、そしておそらく必然的なアメリカ大陸への旅立ちとテオティワカンとの遭遇等(奥様との出会いやご家族の様子なども)が描かれます。後半では、先生が発表されたご研究を分かりやすく展開しながら、併せて謎を徹底的に追究する研究者としての狂おしいまでの姿勢を前面に押し出しています。同じ研究者として本当に共感し羨ましく思います。また、先生の自分を追い込み自身で最大限の能力を引き出そうとする日常の研究スタイルには頭が下がるばかりです。そして最後に、人類学者にふさわしく人類史を大把みに展望するとともに、この時間・空間の中にいる自分の立ち位置を見る重要性を説いています。世界を股にかけて暮らしてきた研究者ならではのスケールの大きさを感じさせます。
 なお、本書の執筆動機は同じ考古学徒として研究を支え「放浪」に同伴してくれた奥様に捧げるためだったとの由ですが、上梓を待たずして奥様は急逝されました。ただ、校正の過程で最初の読者となられたのが奥様だったとのことで、評者としてはそれが何よりの救いです。奥様のご冥福をお祈りするとともに、先生のますますのご活躍を祈念する次第です。本学の皆さんにもぜひ手に取っていただきたい一冊です。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『スーラ』    [請求記号:933.7/Mo78]

トニ・モリスン著 大社淑子訳 早川書房(ハヤカワepi文庫) 2009年

 トニ・モリスンというアフリカ系アメリカ女性作家の小説を紹介したいと思います。ハヤカワ文庫の「トニ・モリスン・セレクション」のうちの一冊です。
 1970年代は、それまで注目されてこなかったアフリカ系女性作家が台頭してきた時期です。過去の女性作家の掘り起こし作業がフェミニストたちによってなされ、ゾラ・ニール・ハーストンやネラ・ラーセンといった黒人女性作家が再発見・再評価されるようになりました。こうした「レヴィジョン(見直し)」とともに、現代女性作家たちの創作のエネルギーが爆発的に吹き出してきました。それは、社会の最下層で苦難を強いられてきた黒人女性たちの心の叫びを代弁するものでした。モリスンはこうした現代作家の一人であり、黒人女性で初めてノーベル文学賞を受賞しました。
 『スーラ』(1973年)は、あまり気づかれてはいませんが、後世に大きな影響を与えた作品だと思います。女同士の友情についてこれほど深く踏み込んで書かれたものは少ないです。彼女たちの愛、性、裏切り、嫉妬、嘘、後悔が比類なきリアリティをもって描かれています。
 ネルとスーラは、自分たちは「白人でも男でもない」ので、母親を初め周囲の女たちを見て、将来に何の希望も抱けないことを知ります。しかし、ひとりではなく二人でいるということは、希望のない未来に対抗し、何か特別なことができるかもしれないと思わせてくれるものでした。しかし、二人の少女の友情は、長じてスーラがネルの夫と性的関係をもったことによって崩壊します。その後病の床に臥すスーラのもとにネルは現れ、彼女の窮状を高みから眺めます。
 スーラの死後25年が経過します。その時になって初めてネルは、彼女が自分にとってこの世でたった一人の愛の対象であったことに気づきます。

     失った者への悲しみが胸を圧し、のどもとにこみあげてきた。
     「わたしたちは仲のよい友だちだった。」(中略)「ああ、ああ、スーラ」と彼女は泣いた。

 このラストシーンには、生前ついに和解しえなかった友への悲しみの感情だけでなく、今さらではあっても、かけがえのない存在を取り戻しえた喜びが描きだされています。

(学術情報センター長補佐 鵜殿悦子(外国語学部国際関係学科))

 

『奈良』  [請求記号:210/N71/3]

永島福太郎著 吉川弘文館 1963年

 奈良を訪ねると、広大な境内に建つ伽藍が古の奈良の都を彷彿とさせますし、近世以前の暮らしを偲ばせる古い町並みに触れることもできます。しかし、ここに至るまでの気の遠くなりそうな歴史については、自分自身、ほとんど知る機会がなかったように思います。
 本書は、歴史学者が、奈良について、その地名の起こりから20世紀半ばに至るまでの歴史を詳述したものです。奈良以前の都であった飛鳥が、有力社寺を平城京への移建という格好で失い、鄙びてしまっただけに、著者が提示する「社寺の都」というキーワードは、廃都後の奈良について考える上できわめて示唆的です。
 興福寺や東大寺などの有力社寺の存続によって、奈良は、京の貴族から親しみを込めて「南都」と呼ばれるようになり、引き続き国家権力と結ばれたこと。そもそもこれらの社寺は、外京と呼ばれた平城京の延長部に位置したこと。そこでは社寺を中心とした商工業の発展や、郷と呼ばれる独特の街地・社会の形成をみたこと。本書を読むと、現在の「古都奈良」は、このような廃都後の「社寺の都」の延長線上にこそあり得たのだと改めて実感します。もし奈良に、8世紀の遺跡しか残されていなかったとしたら、実に寂しいことではないでしょうか。
 奈良の歴史を都市的スケールで扱った本は思うように見つからず、刊行から半世紀経つとはいえ、今でも新鮮に読める本書は貴重な存在といえます。知らない用語や地名も数多く出てきますが、気になる場合は、事典や地図で意味や場所を確認しながら読み進めていくと、奈良がいっそう身近に感じられると思います。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 笹野)

 

『グリム童話の誕生 : 聞くメルヒェンから読むメルヒェンへ』  [請求記号:913.6/Mi67]

小沢俊夫著 朝日新聞社(朝日選書) 1992年

 誰でも一つはお話を知っているグリム童話集(原題:『子どもと家庭のメルヒェン集』)は、ちょうど200年前、1812年に第1版が出版されました。ドイツのヤーコプとヴィルヘルムというグリム兄弟が2人で物語を集めて再話した昔話集で、その後1857年の第7版まで出版されています。
 この図書は、グリム兄弟のメルヒェン観、兄弟の生涯、どんな語り手から聞き書きしたのか、作品をどのように再話したのかなどを分析しています。そこから、グリム兄弟が口伝えのメルヒェンの文体・純粋さを求めて模索していたこと、昔話=メルヒェンの奥深さを感じ取ることができます。童話集出版以前から人々に語り継がれ、グリム兄弟によって文字の文化となって世界中に広がった昔話は、グリム兄弟のメルヒェン観に表現されている強かな植物で例えられるのにぴったりです。そしておそらく未来においてもその種子が伝えられていくでしょう。
 実際にグリム童話と親しむために、著者が監訳している主に第2版を底本としている『語るためのグリム童話』全7巻(小峰書店)と、数多く出版されている第7版のグリム童話を比較してみるのも面白いでしょう。それだけでなく、昔話は口承文芸ですからストーリーテリング(素語り・素話)で、楽しんでみてほしいと思います。公共図書館の土曜・日曜のおはなし会でやっているところがあります。ぜひ、体験してみてください。
 ある講演会で、アフリカの研究者に「日本は、文字の文学と口承文学の比率はどれくらいですか」と尋ねられたという話を聞いたことがあります。日本でももう少し口承文学の比率を上げてもよいのではないでしょうか。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 平田)

 

『働かないアリに意義がある』   [請求記号:481.71/H36/]※旧共同図書環

長谷川英祐著 メディアファクトリー 2010年

 タイトルをみて不思議に思われるかもしれませんが、この本は真社会性生物(特殊な集団集団構成を持つ生物)、なかでもアリに焦点を当て、その集団システムについて書かれた本です(働かないことを推奨している本ではありません。あしからず)。
 アリは働き者、というイメージがあるかもしれません。しかしそれは外に出て働いているアリだけを見ているからで、巣の内部まで個体識別をして(!)観察した結果、ある時点で7割のアリが働かず、何もしていないことがわかったのだそうです。とても意外です。その他にも、「道を間違えるアリが交ざっているほうが、エサを効率よくとれる場合がある」など、アリ社会の意外なシステムが書いてあります。
 自分よりも大きな体の虫の死骸を大勢でコツコツと巣に運んでいる姿をみると、なんとなく日本人の働きぶりを見ているようで、アリという生き物に共感を覚えるかもしれません。しかし人とアリとの集団システムの違いを見ると、まったく新しい視点があることに驚かされます。もちろんそれがそのまま人間社会のシステム作りの参考とはならないでしょうが、人間からみても合理的で納得できるシステムであるのも事実です。集団・組織・組織行動などを考えている方が読むと、頭がほぐれるのではないでしょうか。
 ちなみに「働かないアリ」がいる方がアリのコロニーが長く存続できる理由も書かれています。タイトルに疑問や興味を持った方はぜひ読んでもらえると、すっきりと解決できると思います。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 梅田)