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2012年7月の5冊


 

 

『「甲賀忍者」の実像』  [請求記号:789.8/F67]

藤田和敏著 吉川弘文館 2012年

 「忍者」には、子どもはもちろん、かつて子どもだった大人も懐かしさとともに興味をかきたてられるものです。今回紹介するのは、伊賀(現三重県)忍者と勢力を二分した甲賀(現滋賀県)忍者の実像を、まさに基礎資料から解き明かした労作です。甲賀者に限らず、忍者については文学作品等の影響が大きく、およそ実像とかけ離れたものが多かったのですが、本書は違います。著者の藤田さんはこの地域に何年も暮らし、甲賀衆をはじめとする在地勢力の活動を軸に地域史研究を丹念に行ってきた方です。徹底的な実証主義ですから、読者の夢をこわすようなこともあるかも知れませんが、歴史学の王道からのアプローチとして読んでいただければと存じます。
 実は、甲賀忍者のイメージの原型となったのは戦国時代に活躍した甲賀地方の侍衆で、江戸時代になってから土着して「甲賀古士」と自称した百姓集団です。彼らは地域の支配者としての実質を失ってから少しずつ困窮し始め、十七世紀後半には武士身分への復活を求めて幕府に訴願します。その願書の中に祖先が徳川家康や幕府に仕えて貢献したとする由緒が語られるのです。その由緒こそ甲賀忍者のイメージの原型となったものです。
 もちろん、彼らの武士身分復帰は認められませんでした。しかし約百年の後、この訴願は新たな形で復活します。寛政期(十八世紀末)以降、今度は甲賀古士の中での主導権争いのような形で、訴願が繰り返されたのです。彼らは幕府に対して自分たちが忍術を伝えていると主張し、忍術書を提出するに至ります。これが甲賀忍者イメージの第二段階です。
 この訴願で広まった忍者のイメージは江戸時代後期の出版文化の興隆に支えられ、大きく展開することになりました。常識を超えて活躍するイメージはこの頃作られたと考えられます。これが第三段階となります。現代に続く私たちの忍者に対するイメージはこうして作られてきたのです。歴史・文化認識形成の醍醐味を味わえる一冊、お薦めです。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『なぜ、日本企業は「グローバル化」でつまずくのか : 世界の先進企業に学ぶリーダー育成法』    [請求記号:335.5/Tu7]

ドミニク・テュルパン 高津尚志著 日本経済新聞出版社 2012年

 グローバル人材の育成は高等教育機関にとっても1つの課題となっていますが,その課題に対応するためには,そもそも「日本企業がグローバル化でつまずいているのはなぜか」ということを考える必要があります.
 本書には,人材育成を行ってきた著者らの豊富な経験と多様な事例に基づいた知見が述べられています.上記の問に対する著書らの見解も簡単には予想できないものであり,特に就職活動を行う前の学生にお勧めしたい一冊です.

(学術情報センター長補佐 吉岡博貴(情報科学部情報科学科))

 

『The arrival』  [請求記号:726.6/Ta83]

Shaun Tan  Arthur A. Levine Books 2007年

 この本を手に取ったとき、予備知識なしでSFの絵本と思ってページをめくっていたのですが、その素晴らしい絵と展開に手を止めることができず、最後まで一気に鑑賞してしまいました。
 本書は移民2世のオーストラリア人である著者によって描かれた「グラフィック・ノベル」です。文字が一切ないのですが、人物の表情は豊かで描写も細かく、想像をかき立てられるというよりは人物のセリフや息遣いがそのまま頭に入ってくるようです。
 主人公の男性は家族と離れ、異国の地で職に就こうとします。見たこともない道具・食べ物・動物に触れ、戸惑うことばかりですが、出会う人々は温かい。でもそれぞれ辛い過去を背負ってきている。その生活にも慣れたころ、男性は家族を呼び寄せる。――SFと思っていた話が、終盤になって意味することに気づかされます。
 分類記号では726.6の「絵本」なのですが、絵本で括ってしまうのは実にもったいない。 334.4にぜひ置きたいと思う、大人の鑑賞に十分に堪え得る1冊です。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 伊藤)

 

『論語物語』  [請求記号:123.83/Sh53]

下村湖人著  講談社(講談社学術文庫) 1981年

 今から二千五百年前、孔子という人が実在しました。それからはるかな時が流れた現代においても、その名や「論語」は広く知れ渡っています。ただ、その中身については難解で堅苦しく、教訓めいたものを想像してしまう人が多いのではないでしょうか。
 本書はそんな「論語」を「物語」形式で大変わかりやすく伝えてくれます。道を究めようとする孔子と弟子たちの問答は、時を超えて、現代に生きる私たちにも身近で深遠なものとして迫ってきます。妬みや驕り、疑心といった誰にでもある人の心の闇に、孔子は簡潔な言葉で光をあてて照らし出していきます。
 仁を持ち、礼を重んじ、孝を尽くす、といった徳は、口先だけの言葉では意味がなく、心からの実行でなくてはならないと説くその真理に、昔も今も多くの人が心打たれるからこそ、論語は古びることなく読み継がれていくのだと思います。
 生前も名を高めた孔子でしたが、その高邁な思想は為政者たちに浸透するに至らず、晩年は国々を遍歴することになります。自分だけを治めるのでは足りず、広く人と交わる中で己に何ができるのか、という考えのもと、より困難な道を選んだ結果でした。
 一番の愛弟子、顔回が自分より先に若くして死んだ時、孔子は「天、予(われ)を喪(ほろぼ)せり」と言って辺りも憚らず慟哭したといいます。聖人としてではなく、天命を全うするため生きた、一人の人間としての孔子の逸話も論語には残されています。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 大島)

 

『宇宙100の大誤解 : 言われてみれば間違いだらけ』   [請求記号:440//224]

ニール・カミンズ著 加藤賢一 吉本敬子訳 講談社 2005年

 今年は貴重な天体ショーがいくつか発生する「天体ショーの当たり年」だと聞きました。 皆さんも空を見上げる機会がいつもより増えたのではないでしょうか?
 そこで今月は宇宙に関する本を紹介したいと思います。この本には、宇宙に関する誤解がたくさん挙げられていて、それに関して簡単な解説がされています。宇宙に関して、なんとなく知っているように思っていても、意外に誤解していること、知らない事が多いのだとこの本を読んでいると気づきます。1つのことについて深い解説がされているわけではないですし、宇宙については日々様々な発見がされていると思うので、興味を持ったことについて自分でさらに詳しく調べてみてもおもしろいと思います。
 では、最後に問題です。表面温度が最も高い惑星は太陽から一番近い水星だと思っていませんか?実はこれは誤解なのです。ぜひ本書を読んで正解を確かめてみてください。 来月には金星食が見られるようです。この本を読んで見上げる空は、また違った風に見えるかもしれません。 

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 西川)