< 今月の5冊 : 愛知県立大学学術研究情報センター長久手キャンパス図書館

今月の5冊へ先月までの5冊へタイトルリストへ

書名のリンクは図書館所蔵です。別ウィンドウが開きます。

2012年8月の5冊


 

 

『近世質地請戻し慣行の研究』  [請求記号:210.5/Sh83]

白川部達夫著 塙書房 2012年

 たいていの方は驚くかもしれませんが、江戸時代の村社会には百姓が所持地を質入したのち流地(質流の形で土地を手放すこと)しても、一定の条件が整えばいつでも土地の取戻しが可能な慣行のあったことが指摘されています。この慣行を三十数年間追究してきた研究者がいます。本書の著者、白川部達夫さんです。既に氏には『日本近世の村と百姓的世界』(校倉書房、1994年)があり、そこで近世社会における本慣行の位置づけはきちんとなされていますが、本書では改めてその背景にある社会意識や法社会学的構造等に関する解明への意欲が示され、そうした課題に合わせた実証分析がなされました。
 こうした研究は土地制度論として展開したというよりも、むしろ民衆運動論、とりわけ世直し騒動・一揆に見られた要求分析にかかわって注目され、推進されてきました。その本質には、人びとが生きていく(イエとしての経営が成り立つ)上でその基本的な財産はどのように社会の中で扱われたのかという問題意識があったと思います。同時期に外国史研究の分野から持ち込まれたモラル・エコノミー(経済的行為を支えている論理の中に存する人びとの倫理性)概念との相乗効果で、白川部さんらの研究は近世社会史の中で大きな潮流を作ることとなりました。そこでは、百姓の土地は単に私的に所有されるのではなく、重層的かつ集団的に所有されているといった、新しい所有論が提起されたり、土地取戻しの根拠は検地帳に裏打ちされた百姓(イエ)としての株式にあるといった、独自の百姓論が展開したりしました。実は評者もこうした研究グループの片隅にいて、皆さんの研究を手掛かりに、村社会における融通的側面について考察させて頂きました。その意味で大変学恩を感じているのですが、グループの中核にいた氏の研究がこうしてまとめられたことを本当に喜びたいと思います。
 なお、今回の著作では日本近世に限らず、東アジアに共通する特徴として小農的所有の位置づけがなされています。今後、おそらく白川部さんのフィールドはアジアを超えてグローバルに展開すると予想されますが、日本発のオリジナル性の高い社会史の理論がますます磨かれていくことを念じてやみません。少し専門的な話になりましたが、歴史学に関心のある方には、洋の東西に関係なく一度手にとってみられることをお勧めします。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『叙情都市名古屋 : 木村一成写真集』    [請求記号:748/Ki39]

木村一成著 歴遊舎 2011年

 普段みなさんは、自分の読む本をどのように選んでいますか?些細なきっかけから手に取った本に、思いがけずのめりこんでしまう、という経験をしたことのある人も多いかもしれません。図書館に勤めていると毎日数多くの本に触れますが、今回ご紹介するこの写真集も、返却台に置かれていたところをたまたま見かけ、手に取った一冊でした。
 私は一目見て、表紙の写真に惹きこまれてしまいました。
 琥珀色の空と、影絵となって闇に染まっていく景色、そしてそれらを映し揺蕩う水面。どこか哀愁を誘う絵画のような風景ですが、この写真が撮影されたのは、遠方の景勝地や観光地ではありません。名古屋に住む人々にとってはおなじみの市内の港湾地区です。(ちなみに、この表紙の写真にはちょっと意外な事実が存在します。詳しくは本文をご覧ください)
 この写真集は、県内在住の写真家である著者が、「しみじみ」と感じられる名古屋の風景、というテーマのもとに撮影した写真を集成したものです。収録されている作品は、俯瞰風景あり、夜景あり、路地裏のスナップあり、ポートレートありとバリエーション豊かですが、そのどれもがタイトルどおり、見る人の叙情に訴えかけるものになっています。しかしこれらは、決して過去の歴史を記録しただけの単なるノスタルジー作品集ではありません。この写真集の企画がスタートしたのは、2010年のこと。つまり掲載されている写真は全て2010年以降に撮影されたもので、これらの光景の多くは、今も名古屋のどこかでそっと息づいているのです。失われつつある、あるいはやがて失われるであろう景色とそこに住まう人々、そして新しく生まれてくるものたち。作品からは、変わっていくものと変わらないものすべてに対する写真家の温かいまなざしが感じられます。路地裏写真好きの一人として、私は写真から伝わってくるその優しさに感銘を受けました。
 名古屋に長く住んでいる方も、そうでない方も、一度本書を手に取ってみてはいかがでしょうか。もしかしたら、いつかどこかで見た景色に再会できるかもしれませんし、これまで知らなかった名古屋の一面を発見できるかもしれません。 .

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 星野)

 

『神去なあなあ日常』  [請求記号:共同図書環:913.6/Mi67/]

三浦しをん著 徳間書店 2009年

 主人公・平野勇気は、高校の担任と両親が勝手に決めた就職先「中村林業株式会社」に卒業式の日に突然放り込まれます。そこはコンビニもなく、ケータイもつながらない「神去村」という三重県の山奥。わけもわからないまま始まった新しい生活と林業という仕事に、勇気は戸惑いながらも次第に「ハマって」いきます。
 18歳の少年の目から見た山の暮らし、自然、林業という仕事が鮮やかに描かれています。勉強はできないけれど、明るく素直な主人公のキャラクターや、彼を取り巻く個性豊かな周囲の人々も魅力的です。
 読後の爽快感は、夏休みの読書にぴったりです。ぜひ手に取ってみてください。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 井戸)

 

『耳で読む読書の世界 : 音訳者とともに歩む』  [請求記号:015.17/F97]

二村晃著 東方出版 2010年

 みなさんは普段、どのように読書をしていますか。読書をする時には人それぞれ、さまざまな楽しみ方があるかと思います。眠る前のベッドの中や、電車の通学時間、授業の課題のために仕方なく本を読んでいるということもあるのかもしれませんね。では、目の見えない方たちはどのように読書を楽しんでいるのでしょうか。
 世間には点字資料というものがありますが、特に中途失明者にとって点字を指で読むにはとても大きな労力が必要なことです。そこで目の見えない方たちは、本を音訳した録音図書というものを利用して読書をしています。また公共図書館などの施設で、対面朗読というサービスを使い、訓練された朗読者の声を借りて本を読んでいます。
 朗読とはいうものの、子どもたちに聞かせる「おはなし会」などとは違い、朗読者は感情をあまり加えず、わかりやすく読むことを大切にしています。また私たちが読書をする際には難しい漢字に出くわしても読み飛ばして、その前後の文章から意味を理解することができますが、朗読する際にはしっかりと読み方を調べて、一字一句正しく読まなければなりません。
 この本の著者は還暦後に全盲になり、対面朗読(対面リーディング)を利用するようになりました。この本には著者がその中で出合った読み手と聞き手の難所が、いくつも紹介されています。私たちがいつも何気なく読書をしている中では気がつかない、思わぬ穴があるようです。ただ文字の字面を追うだけではなく、言葉をとらえる大切さをあらためて感じる1冊です。人と会話をするときにも気をつけたくなりますね。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 加藤)

 

『武士とはなにか : 企画展示』   [請求記号:210.1 /B95]

国立歴史民俗博物館編集 国立歴史民俗博物館 2010年

      「武士の世。武士の世をつくるためじゃ。
    院にお仕えするのではなく、武士が頂に立つ世を。
    それがため、われらは太刀を振るってきた。
    それがため・・・武士は今の世に生きておるのだ!」
 これは、現在放送中のNHK大河ドラマ「平清盛」で、清盛の父、平忠盛の台詞です。話は、保元の乱で源氏に勝利した平清盛率いる平氏が朝廷で政を仕切っていく、まさに「武士の世」が始まろうとしているところまで進んできました。最終回に向かってどのように話が進んでいくのか、気になるところでもあります。
 さて今回は、台詞にもありました「武士」にまつわる資料をご紹介します。
 「武士」とは一体何だろうか、そんな問いかけを読み解くテーマにした展示が2010年、国立歴史民俗博物館で開催されました。その図録が図書館に所蔵されています。
 教科書などで武士の発生は、「農民が武装したもの」と学んだこともあるかもしれませんが、実はまだわからないことの方が多いです。美化されたイメージのまま、日本の伝統として捉えられている「武士」や「武士道」について、史資料の展示という個性的な表現方法で、改めて学ぶことができる内容になっています。少し大判で手に取りにくいかもしれませんが、史資料がカラー写真で大変見やすい内容になっていますので、1度ご覧になってみてください。この図書で興味を持たれた方は、実際に博物館などにも足を運んでみてはいかがでしょうか。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 古屋)