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2012年11月の5冊


 

 

『一九世紀の豪農・名望家と地域社会』  [請求記号:210.58/Fu85]

福澤徹三著 思文閣出版 2012年

 今回紹介するのは、日本の近世近代移行期の豪農・名望家研究に新風を吹き込んでいる気鋭の研究者福澤徹三さんの博士学位論文をもとにした著作です。単なる論文集ではなく、学位請求論文として全体にかかわる問題意識が鮮明で、研究史を詳しく丁寧に展開してくれているので、専門書でありながら、非常に読みやすくなっています。
 この時期の豪農論としては佐々木潤之介さんの仕事が壁のように立ちはだかっていて、なかなか乗り越えられずに来ていましたが、渡辺尚志さんがそれを突き崩すため大変苦労されて、政治活動上の豪農類型を提示したり、近代に続く豪農経営のケーススタディを検証したりした結果、近世の豪農から近代の名望家へとつながっていく様が少しずつ見えてきました。著者は、そうした段階に立ち、更に金融を始めとした経済活動の面から地域社会における豪農の役割と位置を明確にするという方法論をとりました。
 本書で特に重要な点は、豪農研究に先進地帯である畿内と非先進地帯である信州の2つの事例から取り組んでいるところです。それを類型的に差異あるものとして処理することなく、見田宗介さんの社会学の議論(共同体・集列体等の概念規定)なども導入しながら統一的に検討しているのは、従来の村落共同体から地域共同組織=連合体への拡大としてしか近代への移行を見ていなかった研究史を大きく前進させることでしょう。
 更に重要な点を付け加えると、実は近世近代移行期の研究は資料学ないし資料論的に本当に難しい(疲れる)領域だということです。多くの研究者は、方法論的には近世・近代のいずれかに比重を置き、その専門家として仕事をしているのですが、福澤さんはしっかりと両方にまたがったスタイルを貫いており、それだけでも価値ある仕事だと思います。
 中核的豪農・一般豪農双方の経営分析を移行期の中で行うことを通じて、地域経済の状況と地域政治の課題を明らかにしていく「一九世紀地域社会論」として本書は成立していますが、ここに幕末維新期の政治過程や自由民権運動などを背景としてかぶせていったら、もっとダイナミックで生き生きとした歴史像が描けるに違いありません。また別の機会となるでしょうが、著者にさらなる叙述の進化と深化を希望してやみません。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『なぜ、国際教養大学で人材は育つのか』    [請求記号:377.21/N34]

中嶋嶺雄著 祥伝社 2010年

前回は,企業からみたグローバル化の課題について考えるための本を紹介しました.では,大学や学生に求められているのはどのようなことかでしょうか.この本には国際教養大学における人材育成の取り組みが紹介されていますが,良いヒントになると思い選びました.印象的だったのは「世界で活躍しようと思ったら,外交官はもとより,どのような分野であっても,いまや学位(Ph.D.)を持っているのがあたりまえで,そうでなければ国際社会で通用しない時代になっている(以下省略)」との記述です.グローバル人材の育成は大学だけでなく政財産業界にとっても避けて通ることのできない課題の1つかもしれません.グローバル化について考えるきっかけになれば幸いです.

(学術情報センター長補佐 吉岡博貴(情報科学部情報科学科))

 

『オウエンのために祈りを』  [請求記号:933.7/I67/1933.7/I67/2]

ジョン・アーヴィング著 中野圭二訳 新潮社 1999年

 アーヴィング作品に触れたのは、大学生の時に「ガープの世界」を映画で観て以来ですが、むせかえるほどの生と性と死の匂いに当時衝撃を受けました。本作はその3点セットはそのままに、淡々と厳かに進行していく物語です。
 5歳児ほどの体にキツネの胎児のような容貌、甲高い潰れた声を持つオウエンと過ごした十数年間を、親友のジョンが回想します。11歳のときにオウエンが打ったファウルボールがジョンの母を死なせてしまいますが、その時オウエンは「自分は神様の道具なんだ」と悟ります。とても人間臭くて失敗も多いオウエン。しかし後年、ジョンはオウエンに守られ導かれ、人生が大きく変わってしまう出来事をいくつも経験します。オウエンは本当に神の遣いだったのではないか?彼の存在や言動、身体的な特徴までも全て意味を持ったものだったとジョンは悟るのです。
 読後は切ない満足感で胸がいっぱいになります。少年時代の回想と20年後の現在とが頻繁に交錯しますが、身近にいたオウエンの存在がいかに神がかり的で不思議なものだったかがより強調されます。またベトナム戦争やキリスト教の会派、家柄による偏見や地域性など、細かいアメリカの実情が描かれているのも興味深いです。 上下巻に分かれていて少々長いですが、秋の夜長にお薦めの1冊です。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 伊藤)

 

『夜間飛行』  [請求記号:953.7/Sa22]

サン=テグジュペリ著 二木麻里訳 光文社(光文社古典新訳文庫) 2010年

 南米で夜間郵便飛行を生業にしているパイロット達の、ある夜の出来事を描いた作品です。冒頭、パイロットのファビアンの目線で語られる、操縦席から見える自然の美しさと詩的な文章に心を奪われますが、飛行機に同乗している通信士の密かな不安が小さな影を落とし、その懸念はやがて現実のものとなっていきます。
 ファビアンの機体は嵐に巻き込まれます。人の力だけではどうにもならない夜の空を舞台に、地上で飛行機を待つ人々と、異なる地から何とか無事に生還を果たした飛行士、それを受けてさらに飛び立つ予定の飛行士、それぞれの人間の運命と使命が描かれていきます。
 真夜中の上空の孤独と美しさと恐ろしさ。嵐の中をくぐりぬけて、ファビアンと通信士が雲の上で見た世界は、自身も飛行気乗りである作者サン=テグジュペリにしか描けない情景だと思います。生と死、そして希望と絶望。相反する真実をどちらも内包するこの世のものとも思えないその風景は、誰も目にすることがないとしても、確固たる現実としていつも人の上に存在しているといえるのかもしれません。
 作者は30歳の時に本書を執筆しました。その後、星の王子さまで有名な「小さな王子」を刊行直後の44歳の時、偵察飛行中に地中海沖で消息を絶ちます。それから60年後の2003年、海中から機体の残骸が発見されました。最期まで空を飛び続け、そのまま帰ってくることの無かったサン=テグジュペリ。本書は作者の運命を予見するかのような内容になっています。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 大島)

 

『王妃マリー・アントワネット』   [請求記号:289.3/Ma51]

新人物往来社編 新人物往来社 2010年

 最近、ある人の靴が約640万円という高値で落札されました。その靴の持ち主が、この本の主人公であるマリー・アントワネットです。彼女に対しては、おおむね次の2通りのイメージを持っている人が多いようです。1つは、贅沢で、浪費的な生活を送り、財政を破綻させた「赤字夫人」というイメージ。もう1つは、政略結婚で革命に翻弄された悲劇の王妃というイメージです。
 本書は、彼女の人生を、たくさんの写真や絵とともに少女時代から順に紹介しています。絵を見ているだけでも、華やかな生活を送っていた時期から、革命に巻き込まれ、つらい生活を強いられていた時期の落差を感じることができます。
 マリー・アントワネットに上記のような漠然としたイメージを持っていた人も、本書を読んで、改めて彼女の人生を追ってみると、また違った一面を感じることができるかもしれません。また、当館には他にもいくつか彼女に関する資料がありますが、それぞれ別の著者が書いている影響か、同じエピソードでも違った印象を受けました。色々な資料を読み比べてみて、それぞれの違いを楽しんでみるのもおすすめです。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 西川)