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2012年12月の5冊


 

 

『君たちはどう生きるか』  [請求記号:080/158-1/22J]

吉野源三郎著 岩波書店(岩波文庫) 1982年

 今回は少し専門の歴史学から離れて、人生のうちに何度でも読み返してほしい(自分でも読み返したい)本を紹介します。人気のある本ですから、すでに読んだという方も多いと存じますが、粗筋など思い返しながら、この書評をお読みください。
 本書はもともと1937年に「日本少国民文庫」の一つとして新潮社から発行されたものを岩波文庫に入れたものです。著者の吉野さんは児童文学者=作家としても活躍しましたが、本来は岩波書店の編集者としてのほうがよく知られた方です。当時(日中戦争の泥沼に入っていた時期)の少国民=少年たちに、真理探究の精神と本当の正義に基づいた生き方を分かりやすく説いたものです。そしてそれは、単に少年たちに向けられたメッセージではありませんでした。自由にものの言えない時代に、実に巧みに、主人公コペル君と彼を導くおじさんとの対話を通じて、体制批判を内包した社会進歩(同時に人びとの成長)の在り方を提示する内容となっています。この本を読んでいると、戦後の発展を支えた人たちが戦中をどのような形で過ごしていたか、少し分かるような気がします。
 コペル君は、あることがきっかけで「コペ転(コペルニクス的転回)」して社会を見られるようになったことから、このあだ名をおじさんから頂戴したのですが、どんどん社会の仕組みを理解してゆきます。社会的な生産関係、貧困や格差の問題、人類の進歩の歴史など、いま大学の授業等で難しく語られることを実に分かりやすくおじさんから学んでゆくのです。このような噛み砕いた人文社会科学のテキストはそうそうあるものではありません。まさに啓蒙の書というべきものです。
 評者は大人(大学院生)になってから本書と出会いましたが、分かっていたつもりの諸々のことをやっと人前で語れるような心境になりました。本学の皆さんも既に大人ですが、本書を通じてきっと多くのことを改めて確認するに違いありません。社会の仕組みはもちろん、勇気とは、強さとはどういうものなのか等々です。中学生のコペル君よりもずっと大人だと思われる方は、本書のおじさんの立場から読んでください。人を導くとはどういうことなのか、深遠なテーマであるように思います。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『殉国 : 陸軍二等兵比嘉真一』    [請求記号:913.6/Y91]

吉村昭著 文芸春秋(文春文庫) 1991年

太平洋戦争末期の1945年4月、沖縄本島にアメリカ軍が上陸、侵攻を開始しました。それ以降数か月間にわたり、沖縄では民間人を巻き込んだ激しい戦闘が繰り広げられることになります。
 本作は、14歳で軍へ招集された少年の視点を通じ、太平洋戦争最大の激戦といわれた沖縄戦の実態を描いた物語です。一応フィクションの体裁をとってはいますが、著者はアメリカ占領下の沖縄へ渡って沖縄戦経験者の90人近くに取材を行い、それらの体験談を再構成したものとして本書を執筆しました。作中に描かれている出来事については、ノンフィクションに近いものといえるでしょう。
 物語中では、主人公が一介の少年兵に過ぎないため、沖縄戦の俯瞰的な戦況についてはほとんど触れられていません。少年が何を見て、何を考え、どう行動したかという点のみがひたすら淡々と描かれていきます。抑えた筆致に加え、物語としては大きな盛り上がりも見せ場もなく構成も単調ですが、むしろそういったフィクション作品にありがちな演出や誇張を排した表現だからこそ、そのリアリズムでもって読者に迫るものがあるのかもしれません。全編を通じて繰り広げられる凄惨な情景には、あまりの生々しさに眩暈すら覚えるほどです。
 そこでは、もはや人間の死は特別なものではありません。
 同じ教室で学んだ学友、配属先の下士官、看護のために従軍中の女学生、あるいは避難中のごく普通の親子。わずかな期間のうちに、出会った人々の多くが悲惨な最期を遂げ、亡骸を晒していきました。それが、少年の戦いの日常光景です。絶望的な戦況下にあって少年は、無数の腐乱死体の下に潜んで敵から身をかくし、各地を転戦していったのです。主人公のモデルとなった人物は、当時を振り返り「自分だけが死ななかったのが不思議でならなかった」旨の述懐をしていますが、現在からつい60年ばかり前の沖縄で、このようなことが起きていたということを、我々は忘れてはならないと思います。
 また横溢する死の描写以上に異様に感じられるのが、主人公をはじめとする登場人物の思考や行動原理です。物語の序盤から、主人公は戦場を生き抜くこと、生きて家に帰ることなど考えてはいません。一人でも多くの敵兵を殺し、いかに立派に死ぬか。これが、少年の思考の全てであり、戦う理由です。そしてあまりに頑なで、誤解を恐れずに言えば純粋な少年の心は、あまたの凄惨な体験を経ても回心することなく、むしろますます理想の死、玉砕へと陶酔していきました。
 さらに彼の視点を通じて描かれる戦時下のコミュニティの価値観もまた、我々の生きる現代とはあまりにもかけ離れていて、にわかには受け入れがたいものです。何度も描かれる訓示の場面では、学校の先輩も部隊の上官も、主人公に向かって「死ね」と激励しています。またある場面では子どもを連れた母親が、敵に捕まる位ならと、主人公に子どもたちを殺して欲しいと頭を下げて懇願します。そしてまた別の場面では、敵軍に投降しようとした日本人を味方が射殺し、それを見た主人公たちは卑怯者の末路として溜飲を下げます。
 我々が現代の視点を持ち込んで、これら極限状況下の言動を狂信的と断じ、上辺の言葉だけでその是非を論じることは容易です。しかし、それにどれほどの意味があるでしょうか。むしろ14歳の少年が死を賛美し、戦いを求めるに至った理由とは何か、なぜ沖縄に生きた人々は斯くあらねばならなかったか、という点を深く冷静に見きわめることこそが、平和な時代を生きる我々の責務ではないかと思います。
 あまりに重く凄惨で、読み進めるのが辛い内容ですが、沖縄戦を知るきっかけとして、議論の題材として、多くの人に読まれてほしい本です。また著者の取材の様子については、合わせて紹介するエッセイ集「旅行鞄のなか」収録の「十四歳の陸軍二等兵」という短編で触れられています。こちらはごく短い文章ですが、合わせて読まれることをお勧めします。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 星野)

 

『宇宙と物理をめぐる十二の授業』  [請求記号:440/ Mu91]

牟田淳著 オーム社 2010年

 空気が澄んで、星のきれいな季節になりました。冬の星座は明るい星が多いので、星空を眺めるにも楽しい季節ですね。
 この本は、そんな星空の話や時間の話といった身近な話題を導入部分に、宇宙と物理について「ロマンチック」や「フシギ」な面にスポットを当てて書かれた本です。
 星空の話はともかく、“宇宙”や“物理”の話というとなんだか小難しいイメージがありますが、「ロマンチック」や「フシギ」な面に着目すると、今まで知らなかったことも楽しく学ぶことができます。著者は宇宙と物理について楽しく学ぶことで「自然科学を好きになってほしい」といっています。
 取り上げている話題も、「地球の空が青いわけ」や「時の流れを変える方法」、「宇宙の温度は何度?」など興味をひかれるものばかりです。また平易な文章で図や写真を多く載せていて、とても分かりやすい構成になっていますので、12のLessonを読み終わる頃にはきっと自然科学が好きになっているはずです。「宇宙や物理に興味はあるけど、難しそう…」と思っている人にもおススメの1冊です。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 井戸)

 

『ケータイ化する日本語 : モバイル時代の"感じる" "伝える" "考える"』  [請求記号:810.1/Sa85]

佐藤健二著 大修館書店 2012年

 みなさんの中で「ケータイ」を持っていない人は、とても少ないのではないでしょうか。総務省の調べによると、携帯電話の普及率は100%を超えているそうです。
 この本は、著者が社会学者という立場から、「ことば」という道具について歴史的に考察しています。まずは「ケータイ」以前の電話を多面的に捉え、玄関から居間へ移動していった固定電話の役割の検証から、個室での携帯電話での他者とのコミュニケーションについて話が展開されていきます。今や当たり前の存在になった「ケータイ」というメディアの中で使われる「ことば」は、「社会」という公共性を立ち上げる力を復活できるかという問いを投げかけた1冊です。
 いよいよ今年も最後の月になりました。みなさんは「ケータイ」を使って新年のごあいさつをしたりするのでしょうか。冬休みは短いですが、気になる本とともにゆっくり過ごしてください。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 加藤)

 

『のぼうの城』   [請求記号:共同図書環:913.6/W12]

和田竜著 小学館 2007年

 2011年に発生した東日本大震災の被害状況、被災者の心情を配慮し、劇中で描かれる水攻めが「時節柄上映するにはふさわしくない」との理由から、公開延期になっていた『のぼうの城』の映画を観て行きました。日本の戦国時代の戦い方という迫力ある合戦シーンや、主人公の飄々とした魅力ある田楽踊りなど、見所が満載で十分楽しめました。今回は、この映画の原作とされる小説をご紹介します。
 「戦国武将」といえば、「特別な知略があり、武力があり、カリスマがある」などの特有の秀でたスキルを持ち合わせている人物を思い浮かべてしまいます。
 ところが、「のぼうの城」の主人公である成田長親は、武将特有のスキルを持っていなくても、不思議と「人気」だけはある武将として描かれています。そんな成田長親がいる忍城(埼玉)に、小田原城攻略のため、石田三成率いる約2万の大軍勢が押し寄せてきます。
 忍城総大将となった長親は、豊臣側に一戦も交えず降伏せよとの忍城主の成田氏長の命がありながらも、軍使長束正家の傲慢な振る舞いが許せず、豊臣軍と一戦交えることを決意します。正木丹波・柴崎和泉守・酒巻靭負ら個性派の部下たちや領民達とどのように戦っていくかは、ぜひ小説をお読みになってください。
 また、映画が公開される前に、『のぼうの城オリジナル脚本完全版』という書籍が発売されています。この書籍では、「オリジナル脚本『忍ぶの城』を、映画作品を前提としたノベライズにしたのが「のぼうの城」である」という興味深い話も掲載されています。
 小説を、映画化を実現するためのプレゼンテーションとして読んでみるのも、面白いのではないでしょうか?

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 古屋)