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2013年1月の5冊


 

 

『鎖国と開国』  [請求記号:210.5/Y24]

山口啓二著 岩波書店(岩波現代文庫) 2006年

 今回は評者が最も学恩を受けている研究者の著作を紹介します。戦後の日本史研究なかんずく近世史研究を牽引してきた山口啓二さんの講義録を基にした作品です。本書は岩波書店からすでに1993年に刊行されていたものを、改めて岩波現代文庫として再版したものです。文庫化するにあたって、山口ゼミ出身で旧来の鎖国・開国概念を批判し新しい対外関係の枠組みを構築した荒野泰典さんの解説が付されましたが、研究史上の本書の位置づけが分かりやすく示されていて、一般向けとしても大変取りつきやすくなっています。
 そこで勘違いしないでいただきたいのは、本書が鎖国と開国のみを叙述したものではないということです。鎖国から開国までの日本列島の歴史を、人びとの生活史から政治史までのレベルで密度濃く描いた通史であり、非常にコンパクトに江戸時代とはいかなるものであったのかが諒解される仕組みになっているのです。まさに学生向け近世史研究のテキストとして荒野さんが用いる所以です。
 本書の最大の特徴は、グローバルな視点が叫ばれるずっと前から地球規模の視野で日本近世をとらえ、その視点を貫き通しつつ、一地域(秋田院内銀山)の人間集団の描写を基軸に巧みに当該時代の普遍的な社会関係を描き出していることです。一見ローカルに映る近世人の営みの中にグローバルな関係性を見出して叙述するという、当時としては離れ業のようなことを山口さんはやってのけたのです。
 歴史過程に対する著者の鋭い観察眼、洞察力および構成力は、史料の博捜とたゆまぬ研鑽によるのはもちろんですが、もう一つ忘れてならないことがあります。それは戦後の民主化と科学運動において著者が絶えず先頭に立ち、歴史研究者を励まし続けてきたことです。山口さんは自らを研究者であるとともに活動家(運動家と若干ニュアンスが異なる)であると称していましたが、そうした立ち位置に身を置いたことがこうした成果につながっているような気がします。30年以上も前になりますが、その聲咳に接していた院生時代のことどもを思い出しつつ、推薦の一文を書かせていただきました。

(学術情報センター長 大塚英二(日本文化学部歴史文化学科))

 

『偉人と語るふしぎの化学史:化学法則が生み出されるプロセスを追体験する』    [請求記号:430//334]

松本泉著 講談社(ブルーバックス) 2005年

 年が明けて、まだまだ寒い日が続いています。
 今回、自然科学関係の新書の中から、ブルーバックスシリーズの中の一冊を紹介します。
 化学の歴史について、教科書に出てくる原子、分子は初めからわかっていたのではないかと思われますが、実はそうではありません。それがいつどこのだれがどんな実験をして発見したとか、そこに人間が関わっていることがわかりやすく書かれた図書です。
 まず、「万物の源は何か」について、古代ギリシア時代のアテネにタイムスリップ(?)します。そこでは教科書などで習った学者さんたちによる討論会が開かれています。例えば、アリストテレス、ターレス、デモクリトスです。それに参加する形で物語が展開してゆきます。理論や法則が生み出されるプロセスを発見者としての学者といっしょにたどることで、議論の場にいて彼らの思考を「追体験」してゆきます。
 化学の苦手なみなさんも一度手にとってみて下さい。他章には「燃焼とはいかなる現象か?」「原子は確かにある」もありますので、合わせて読んでみて下さい。少しでも化学史に興味を持っていただければと思います。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 白井)

 

『第七の十字架』  [請求記号:943.7/Se16]

アンナ・ゼーガース著 山下肇、新村浩訳 河出書房新社 1972年

 ドイツ中部を貫流するライン川は、マインツを過ぎたあたりでタウヌス丘陵に突き当ってその流れを大きく変え、ローレライの岩山を右手に眺めコプレンツに至ります。どこまでも続くブドウ畑に、古城が点在する、眺望の奇麗なところです。牧歌的で平和そのもののこの地方といえども、歴史の呪縛から免れられるはずもなく、ヒトラー政権下ではファシズムの時代を経験しました。反ファシズム文学の金字塔と言われるこの物語は、当地を舞台としてヴェストホーフェンの強制収容所から脱出した7人と、彼らを捕縛しようとする時の権力と、匿おうとする市民たちを巻き込むスリリングな逃亡劇です。追われる側の目線だけでなく、日常的で平穏な生活を営んでいた普通の市民が、ナチスに追われる逃亡者と接することで、その偽りの平穏に疑問を感じ、それぞれの方法で何かを克服しようとし始める姿が描かれます。
 マインツを故郷とする作者アンナ・ゼーガースは、ブレヒトと並んでかつて東ドイツを代表する文学者でした。そのためこの長編小説についても、社会主義的イデオロギーに過ぎる作品解釈が多く発表されています。しかし、イデオロギーがゼーガースの本質であるかどうかは大いに疑問に思います。彼女の創作原理は、それを超越してもっと豊かで、空想力に溢れています。リアルなストーリーの背景に、キリスト教や神話、ユートピア的なモチーフや形象世界まで取り込み、多様な物語空間を形造っています。また登場人物にも、イデオロギー的な使命感というより、モラルやヒューマニズムの印象を強く感じます。短編小説を組み合わせたような緻密な構成と、映画的な場面転換と(フレッド・ジンネマン監督で映画化もされました)、ぐいぐいと読ませる文章で、読み始めたら終わりまで一気に読んでしまわずにはおられないまさに小説的な面白さがあります。
 東ドイツが消滅した今こそ、ゼーガースを改めて読み返してみる時ではないでしょうか。

 (関連図書)
Seghers, Anna : 『Das siebte Kreuz』 Luchterhand 1973 [請求記号:948/3/325]

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 荻田)

 

『部活で俳句』  [請求記号:080/I95/721]

今井聖著 岩波書店(岩波ジュニア新書) 2012年

 今回紹介する本は、俳句をよく知らない方や初心者の方におすすめの一冊です。
 俳句が趣味で俳句同好会の顧問をしていた男子校英語教師の「俺」は、ある日、生徒からダンス部の顧問になって欲しいと頼まれます。そこで考え付いたのが、部員不足の俳句同好会とダンス部を合体させてしまおうというアイデア。俳句に合わせてヒップホップダンスを踊るという驚きのコラボレーションは果たしてどうなるのか。というのが第1章。第2章以降は様々な句を引用しつつ、俳句の作り方と魅力を丁寧に教えてくれます。解説も分りやすく、例えば季語については「空間の状態を表すに当たって季語ほど有効なものはありません」、切字については「上句が4音の名詞なら『や』を付けてみる」「下句が3音の名詞なら『かな』を付けてみる」「下句が2音または3音の動詞で終わりそうなら、その動詞を連用形にして『にけり』または『けり』を付けてみる」 などとても具体的です。読み終わったら、初心者の私もさっそく一句ひねってみたくなりました。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 磯部)

 

『女子のキャリア:「男社会」のしくみ、教えます』  [請求記号:080/C44/188]

海老原嗣生著 筑摩書房(ちくまプリマー新書) 2012年

 新しい年が始まりましたね。
 3年生の方は就職活動が始まり、慌ただしい毎日を過ごされていることと思います。
 今回わたしがご紹介するのは、女性の働き方や生き方について考えてみる本です。

 みなさんは女性がクリスマスケーキに例えられていた頃をご存知でしょうか?
 これは25日までは売れるが、それを過ぎると売れ残ってしまうクリスマスケーキに女性を重ね合わせ、女性の結婚の適齢期は25歳までということをあらわした例えです。
 現在ではとても時代遅れでナンセンスに思えますが、つい20年くらい前までこの例えは使われていました。
 女性は結婚するまで働き、そのあとは専業主婦となり仕事をやめる、女性総合職なんてほんのわずかという時代、再放送のテレビドラマなどでもごく当たり前にそういった主人公や会社の中が描かれており、そのギャップにぼんやりと違和感を覚えることがあります。
 つまり、女性が一生のキャリアを持てる(と思える)時代が訪れたのは日本ではごく最近のことなのです。
 本書では現在までの歴史や、会社が女性を敬遠する原因、業界ごとの女性のキャリアに対する理解等を考察し、女性が働ける社会について考えます。
 多少一面的だと感じる部分もありますが、女性のキャリアの歴史を分かりやすく説明しています。
 これからみなさんも社会に出て働くことでしょう。その上で、働く女性の立場はどのように変遷してきたのかを知ることは意味のあることなのではないでしょうか。

(学術情報センター長久手キャンパス図書館 草間)