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2013年5月の5冊


 

 

『オリエンタリズム』上、下  [請求記号:204/1A/43, 204/2A/43]

E.W. サイード著 今沢紀子訳 平凡社(平凡社ライブラリー) 1993年

 著者エドワード・W. サイード(1935〜2003)はアメリカ人文芸批評家ですが、イギリス委任統治下パレスチナのイスラエルに生まれ、エジプトとイスラエルの両方の文化を行き来して育ち、その後合衆国で高等教育を受けました。このような出自からサイードには幼い頃から世界を多面的に見る習慣が備わっていました。「社会の中で過度にくつろがない方がいい」というサイードの言葉は、日本語を話し、生涯を日本で過ごす私たちに対する警鐘となって響きます。
 『オリエンタリズム』は有名な本なので今さら紹介するのも気が引けますが、今のような時代にこそ読んでほしいと思うのです。この本は読みにくいように感じられるかもしれません。それは私たちが直線的に読むのに慣れており、始めから段々と積み上げてゆく論じ方に(過度に?)親しんでいるからです。その場合、わかり易い反面、大事な論点は山場で一回主張されるだけなので、それを把握しそこなってしまう危険性もあります。一方、『オリエンタリズム』は螺旋状の語り口になっています。各章で述べられることはもちろん前章から発展した内容ではありますが、前に述べた重要な論点が言葉を変えて再び現れます。重要な論点が表現を変えて繰り返し戻ってくるので、全体を読み終えた時、なるほどよくわかったと得心がいきます。
 さて、「オリエンタリズム」とはいったい何でしょうか?サイードは、三段階の意味があると言っています。第一の意味は「東洋学」という伝統的学問領域です。今日では「アジア研究」等の地域研究に名称変更されていますが、この東洋学にはヨーロッパにおける厖大な学識と文献が長年にわたって蓄積されており、アジア研究を志す人は、この図書館に赴かない限り本格的な研究に到達することができないようになっています。第二の意味は、すべてを「西洋」と「東洋」に分けて考える考え方のことです。この二分法ほど合理的でないものはありません。西洋と東洋に分割する根拠は、西洋中心に世界を見、西洋の優位性に奉仕するためにほかなりません。最後に、第三の意味は前者から必然的に引き出されるわけですが、「東洋」の方が「西洋」より劣っていると当然のように考える考え方のことです。この思考様式は「西洋」だけでなく「東洋」においても流通し、多大な害悪を及ぼしている、とサイードは言います。
 オリエンタリズムとはオリエントについての知識・認識のし方の総体を意味しますが、そこにおけるオリエントとは、ヨーロッパがヨーロッパのためにヨーロッパの言葉で語る舞台であり、決して実際にそこに生きている人々のために存在するものではないのです。あらゆる二分法に潜むこうしたからくりを、この本は明瞭に教えてくれます。 

(学術研究情報センター長 鵜殿悦子(外国語学部国際関係学科))

 

『昨日の世界』 (ツヴァイク全集:19-20)    [請求記号:948/19/74, 948/20/74]

シュテファン・ツヴァイク著 原田義人訳 みすず書房 1973年

 恵まれた作家の生涯は、読んでも退屈でしょうか?
 シュテファン・ツヴァイク(1881〜1942)は、ウィーンの裕福な家庭に生まれ、中・高校時代から文学や芸術に親しみ、大学で博士号を取得、本格的な作家活動に入ります。まさに「溢れる才能」によって生み出された膨大な作品群から、彼が手がけなかった文学ジャンルを見つけるのは不可能です。中でも、ヨーロッパを舞台とした歴史小説の分野で彼の文声は高まります。(『マリー・アントワネット』、『ジョゼフ・フーシェ』、『デーモンとの闘争』等々。)大胆な史観から歴史のテーマをつかみ出し、ディテールをそぎ落とし、一気呵成にクライマックスへと突き進んでいく物語展開と文体は、読み始めたら中断するのが困難なほどの面白さです。ツヴァイクは、当時最も多くの言語に翻訳されたドイツ語作家でした。
 ロマン・ロランを始め、著名な文化人との広い交友関係も持ち、カプツィーナベルクの彼の城館は、あたかも全ヨーロッパのヒューマニストのサロンでした。ナチスの台頭により、亡命生活に入った彼は、イギリスを経由し、国賓待遇でブラジルに招かれます。数カ国語に通じ、名声にも経済的にも恵まれ、何の生活上の障害も無いツヴァイクが当地で選択したのは、最愛の妻との自殺でした。ヨーロッパ的な教養世界に生きた彼の「書斎」は、ヨーロッパ以外の場所にはなかった、ということでしょうか。彼の親しんだ世界がメリメリとひび割れる音を聞きつつ、遠い異国の地で、記憶のみに頼ってこの回想録は紡ぎ出されました。古き良きヨーロッパ社会、多分に美化された部分もありますが、美しい文章です。
 現在、ドイツや日本で、ツヴァイクが研究対象となることはあまりありません。その研究論文の少なさは、不当に評価が低いようにすら思えます。どなたか、勇気をもって卒業論文でツヴァイクを取り上げてみませんか?

(参考書籍)
『ツヴァイク全集 (全21巻)』 みすず書房 [請求記号:948/1〜21/74]

  (長久手キャンパス図書館 荻田)

 

『都市の論理 : 権力はなぜ都市を必要とするか』  [請求記号:080/1151/12]

藤田弘夫著 中央公論社(中公新書) 1993年

 社会学者による1990年代前半の都市論です。冒頭で著者は、食料を輸入、消費する側の国や都市よりも、輸出、生産する側の国や農村のほうが、飢餓の脅威に晒されてきたのはなぜか、という食料問題のパラドックスを取り上げ、その答えを、都市という鏡に映し出された権力に求めます。
 一般に権力という言葉は、人々を「支配」する抑圧的な力をイメージさせます。しかし著者は、「支配」を権力の片面にすぎないとして、権力の古典的な定義に基づくもう片面、すなわち人々の欲求を実現する「保障」にも注目し、権力を、「保障」と「支配」の両面関係として捉えます。この「保障」、つまり人間の欲求を充足することこそが、集積=都市形成の源となる論理であり、これがあってはじめて「支配」も成り立つというのが、著者の考え方の根底にあります。こうして形成された都市には、その後も、「保障」を掲げた「支配」というメカニズムに支えられ、都市ならではの威容を誇る建造物や権力を演出するための祭典が生み出されていきます。
 都市の思想を綴ったくだりに、かつてのポル・ポト政権が、都市を否定したことによって権力の行使を露骨な暴力に委ねるしかなくなった、という指摘があります。だとしたら、本書のタイトルが暗示する「都市は正当な権力が行使されるのに必要な装置である」ことを、これほどまざまざと裏返して見せつけた歴史の教訓はないと言えるかもしれません。

(長久手キャンパス図書館 笹野)

 

『栄養素の通になる : 食品成分最新ガイド』第3版  [請求記号:498.55/U44]

上西一弘著 女子栄養大学出版部 2012年

 今回ご紹介する本は「鉄」「ビタミン」などの「栄養素」について書かれた本です。「もっと鉄分を取らないと」「ビタミンB1が足りないね」「食物繊維を取るといいんだって」などと日常会話でもよく栄養素の話題は出ますが、それがどんな役割があり、どうしたら効率的に摂取できるかということは、あまり知られていないのではないでしょうか。
 この本では各栄養素について、「体内での働き」「どのくらい取ればいいの?」「不足すると」「とりすぎると」「食べ方のヒント」という項目に分けて書かれていて、読んでいくと、必要な知識がすっと頭に入ってきます。さらに、「多く含む食品」で、どんな食品にどれだけ含まれているかが紹介され、「大ネタ小ネタ」として栄養素に関する豆知識も載っています。栄養素に関しては、カラーでイラストが多い本が数多く出版されています。それらと比べると、この本は白黒で、イラストもちょっとシュールで、文字ばっかりで、一見取っ付きにくく思えます。しかし、読んでみると、必要な知識が分りやすく書かれていて、最後まで読めば、タイトル通り栄養素の「通」になれる本だと思います。

(長久手キャンパス図書館 磯部)

 

『どんな仕事も楽しくなる3つの物語』  [請求記号:159.84/F84]※旧共同図書環

福島正伸著 きこ書房 2008年

 みなさんはどんな仕事をしたいか、という質問に答えることができますか。

 わたしは大学生のころ、何がしたいかが全くわかりませんでした。どんな仕事に就いて、何をして働きたいのか、全然ピンとこなかったのです。
 それは、何の仕事をしたらやりがいを持って働けるか、ということがわからなかったからだと思います。つまりはどんな仕事が自分に向いているのか、という職業にばかり頭を悩ませていたのです。

 今回ご紹介するのは、そんな考え方から少し離れて、働くことに対する考え方そのものを見つめることができる本です。
 駐車場の管理人、タクシーの運転手さんなど、同じ業務の繰り返しに見える仕事に向かうひとを通して、やりがいを持って仕事をすることに本当に大切なのは仕事の内容ではなく、どのようにその仕事に向き合っているかなのだということを強く感じさせてくれます。そして、自分がどのように仕事に取り組んできたかは、仕事の最後の日にまわりのひとが教えてくれるのだそうです。わたしは社会人になってしばらくしてからこの本を初めて読んで、涙が止まらなくなったことを今でもはっきりと覚えています。
 すでになりたい職業が決まっている人にも、まだはっきりとは見つからない人にも、大学生の今、自分の仕事に対する意識を考えてみるきっかけにしてほしいと思います。

 読み終えたみなさんには、どんな仕事をしたいか、という質問ではなく、どんなふうに仕事をしたいかと尋ねてみたいと思います。

(長久手キャンパス図書館 草間)