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2013年12月の5冊


 

 

『アメリカの奴隷制と黒人 : 五世代にわたる捕囚の歴史』  [請求記号:316.853/B38]

アイラ・バーリン著 落合明子, 大類久恵, 小原豊志訳 明石書店 2007年

 本書は合衆国の奴隷制に関する歴史専門書です。奴隷制とは「圧倒的な権力をバックにして、当人の承諾なしに他人の労働を享受すること」と定義されています(本書より)。本書を読むと、合衆国の奴隷制の成立状況は決して単純なものではないことがわかります。それは決して一律的な形成過程をたどってはいません。本書はアフリカ系アメリカ人の奴隷化と差別を、第一世代(アメリカ入植後)、プランテーション世代(奴隷制時代)、革命期世代(南北戦争前後)、移住世代(グレート・マイグレーション)、解放世代(公民権運動前後)の五世代に分けて説明しています。
 第一世代においては、奴隷という安価な労働力が必要とされ、その人種が何であろうとかまいませんでした。黒人奴隷は白人奴隷、先住民奴隷等と同一のカテゴリーでした。そうした労働力へのニーズも北部、中部、南部のそれぞれの地域により異なっていました。プランテーション世代になると、黒人奴隷制は浸透するものの、依然として「奴隷制社会」と「奴隷のいる社会」の二種類の社会が並存していました。奴隷制が定着した南部ブラックベルトにおいても、たとえばミシシッピ川下流域では「奴隷制社会」から「奴隷のいる社会」へという逆転が起こっています。このように、それぞれの地域における歴史・社会状況を背景に、複雑な紆余曲折をたどりながら、奴隷制が確立されていったことが本書において例証されています。
 アフリカ系住民の奴隷化とその後長く続いた差別という合衆国の体験は、全人類の教訓として詳細に分析すべきだろうと思います。誰でも同じ人間を奴隷化することができるのだということ、そして、いったんそれが社会に受け入れられたら、それを止めることも引き返すことも容易ではない、という重要な教訓です。

(学術研究情報センター長 鵜殿悦子(外国語学部国際関係学科))

 

『世界あやとり紀行 : 精霊の遊戯』     [請求記号:798/Se22]※旧共同図書環

INAXギャラリー企画委員会企画 INAX出版 2006年

 「あやとり」が世界各地に存在していて、三千種類以上もあるということを、この本を読んで初めて知りました。形も様々で、「こぶた」「耳の大きな犬」などの生き物、「たつまき」「火山」などの自然、「集会場」「テントの幕」などの身近なもの、口承文化として語りや歌と一緒に伝わっている「あやとり」もあります。ラパヌイ(イースター島)では、「あやとり」とともに、最初の移民者がどのようにして島にやってきたかが語られるそうです。本書では、ネイティブアメリカンの「ナバボの蝶」や日本の「お守り」など、いくつかは取り方も紹介されていますので、実際にやってみることもできます。たった一本の紐から、こんなにも多くの形ができるということ、そして人間の想像力の豊かさに驚かされます。
 さて、本書はINAXギャラリー(現在LIXILギャラリー)の展示図録ですが、このシリーズは、内容もさることながら装丁・デザインも素敵なので眺めるだけでも楽しいと思います。共同図書環には『クモの網』『ゑびす大黒』『やきものを積んだ街かど』『幕末の探検家松浦武四郎と一畳敷』(請求記号:289.1/B15)など同シリーズの本が何冊か入っていますので、ぜひ他の本も手にとってみてください。

     (長久手キャンパス図書館 磯部)

 

『平安京のニオイ』  [請求記号:913.6/1/709]

安田政彦著 吉川弘文館 2007年

 高校生の時、生物の先生に言われました。「どうしてもどちらか一つを選ばなければならないとしたら、イヌのウ○チを“触る”か“臭いをかぐ”か、どちらにしますか?触るを選んだ人、すぐに洗えば大丈夫です。臭いをかいでしまった人、残念ながらウ○チは微粒子となって鼻からあなたの体内に取り込まれてしまいました!」確かに映画などでイケナイものを鼻から吸い込んでいる場面、ありますよね。そういうわけで、臭いをかぐということは、見るとか触る以上にダイレクトに体に響く行為であり、ニオイは重要な情報源です。
 この本の前半123ページまではウ○チ系の臭いお話ですので、読むのが辛くなったら飛ばして下さい。でも、当時の資料の中には悪臭についての記述は少なく、平安の時代の現実の日常生活のニオイをイメージするには、トイレの構造などの情報は役に立ちそうです。
 後半は、有名な薫の君の体臭についての話をはじめとする、良い匂いを含めた生活臭についてです。清少納言と紫式部の香りの描き方の違いなども面白いです。現代と違いあらゆるところが暗く、視覚より嗅覚が頼りになるような場面も多かったからこそ、香りにより想像(と妄想)を掻き立てられ、贅を尽くした香りにこだわったり、微かな香りに敏感であったりしたのでしょう。
 全体的に引用が多く、さらっと書かれています。この本だけではいまひとつ理解できた感じがしないかもしれません。「それっていったいどんなニオイ??」と気になった部分については引用元や参考文献を読んで、より学習を深めるよう誘導する作戦だと思われます。

(長久手キャンパス図書館 大石)

 

『股間若衆 : 男の裸は芸術か』  [請求記号:712.1/Ki46]

木下直之著 新潮社 2012年

 古典文学の代表作を連想させる雅な読みとまさかの字面を持ち合わせた本書は、和歌はもちろん医学、風俗習慣、青少年教育にも全く関係のない本です。彫刻、なかでも街中にひっそり佇む戦前戦後に制作された男性裸体像の身体(股間)表現をめぐる芸術評論の本です。彫刻ときて戦前戦後・芸術評論となると堅苦しく小難しい内容と思われますが、タイトル同様中身も「股間若衆」「新股間若衆」「股間漏洩集」と茶目っ気たっぷりの3部構成となっており、名だたる芸術家たちの大真面目な男性裸体像を“ふんどし”“葉っぱ”“完全なる露出”“曖昧模っ糊り”“とろける”など著者独自の視点で分類を行い、楽しく「股間」研究を繰り広げています。芸術作品も目の付け所が変わると面白いと実感できる内容です。

 「ふざけている」「下品だ」と敬遠される方も研究書としてご覧いただきたいのは、膨大な数の作品を取り上げ、芸術を翻弄し続ける世論・倫理(検閲)に触れ、当時の社会情勢や芸術シーンを語り、男性裸体像と女性裸体像の制作意図の違いといったジェンダー論にも言及していきます。結果、タブー(股間)を通じて戦前戦後の日本社会・文化の変遷をみごとに解説しているのです。とは言え、ユーモアにあふれた文章は終始一貫しており、読み終わった頃には男性裸体像を見る目が変わっていること間違いなしです。巻末の付録「股間巡礼」も必見です。

勇気を出してご紹介した1冊。皆さんも勇気を出して手に取って下さい。

(長久手キャンパス図書館 浅井)

 

『恋する伊勢物語』  [請求記号:913.3//870]

俵万智著 筑摩書房(ちくま文庫) 2006年

 皆さんは「伊勢物語」についてどのようなイメージを抱いていますか? おそらく高校時代に古典の授業で習った歌物語の一つ、あるいは人によっては堅苦しい退屈な作品、と思っている人も多いのではないでしょうか。
 本書は現代の歌人である俵万智が自身の体験などを交えつつ、伊勢物語について解説していくエッセイです。伊勢物語では、例えば都へ行った男を女が3年間待ち続けた末の悲劇や、「天下のプレイボーイと、白髪のおばあさん」との恋など、主に男女を通した様々な人間模様が描かれています。
 これら伊勢物語の章段を、俵万智の視点を通して知っていく内に、例え現代とどんなに文化や風習が違ったとしても、人に怒ったり、呆れたり、あるいは愛したりといった感情は変わらないのだということに気付かされます。
 本書は著者が中高生に向けて書かれた本のようですが、私は受験を終え文法や暗記から少し離れた位置にいる皆さんだからこそ、是非読んでいただきたい一冊だと思っています。本書を読み終わった後に見える伊勢物語は、高校での古典の授業と違い、様々な感情が入り乱れた色鮮やかな人間模様をうかがい知ることができる物語として映っていることと思います。

(長久手キャンパス図書館 山田)