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2014年1月の5冊


 

 

Remember : the journey to school integration  [請求記号:372.53/Mo78]

トニ・モリスン著 Houghton Mifflin 2004年

 今回は写真絵本を紹介します。『憶えておいて』と題されたこの絵本は、たいへんすばらしい本で、読み易い英語で書かれていますので、皆さんに読んでいただきたいのです。この絵本は「学校統合(スクール・インテグレーション)」を扱ったものです。
 「学校統合」とは何でしょうか? アメリカ合衆国では、奴隷解放後もアフリカ系住民に対する差別が長い間続きました。1896年のプレッシー判決により、「分離すれども平等」という考え方が合憲とされ、各地で差別的な法律が作られてゆきました。こうした法律を総称してジム・クロウ法と呼びます。多くの地で白人の学校と黒人の学校との分離が進行しました。しかし、1954年のブラウン判決は、こうした分離が憲法違反であることをはっきりと宣言しました。この判決を受けて各地で始まったのが「学校統合」です。
 この絵本は学校統合にまつわる様々なできごとをわかり易く説明しています。表紙にもなっている一枚の写真は印象的です。1954年新学期、学校統合が始まったばかりのヴァージニア州の小学校。白人小学生ばかりのクラスにたった一人入学してきた黒人少女は、不安そうな表情をしています。しかし、隣の席の白人少女は、足を一歩踏み出し、彼女に話しかけようと椅子から身を乗り出しています。二人の友情がここから始まったどうかはわかりませんが、明るい未来に希望を抱かせてくれる一枚です。
 しかし、多くの場合においてこのようにスムーズにはいきませんでした。「僕たちの学校に黒人はいらない」と書いたプラカードを掲げる白人学生たち、白人学生が一斉に欠席してがらんとした教室、黒人学生を威嚇し暴力をふるう人々、連邦警察に護衛されて通学する黒人少女等の写真が続きます。様々なジム・クロウ法社会の過酷な現実が突きつけられ、こんな社会を変えるなんて無理なんじゃないの?と絶望的になります。
 そのような状況から、1950≠U0年代の公民権運動を経て、現在、肌の色による差別のない社会が徐々に実現しつつあります。合衆国初のアフリカ系大統領も誕生しました。この絵本の最後の言葉、「何だって起こりえるよ、だから、ね?」は、どんな絶望的な状況にも必ず出口はある、だから決して諦めないで、というメッセージなのです。0

(学術研究情報センター長 鵜殿悦子(外国語学部国際関係学科))

 

『消えた国 追われた人々 : 東プロシアの旅』     [請求記号:915.6/I35]※旧共同図書環

池内紀著 みすず書房 2013年

 1945年、ドイツ人避難民を乗せた客船グストロフ号は、極寒のバルト海でソ連潜水艦の無差別攻撃を受け、沈没します。死者の数から、あのタイタニック号の6倍にも達したと言われる「史上最大の海難事故」でした。しかし、ナチスの罪科を持つ国として「被害者」を主張することが政治的に憚られ、「グストロフ号事件」は長くドイツ史のタブーとされてきました。(ノーベル賞作家ギュンター・グラスは、敢えてこの歴史のタブーに挑み、小説『蟹の横歩き』で事件の全貌を描き出します。)そもそもこの多数のドイツ人避難民たちは、一体どこから避難して来たのでしょうか?
 中世以来の古い歴史を持つ、ドイツ領「東プロシア」。コペルニクスが星を読み解き、カントが大学で観念論哲学を講じ、ロマン派の詩人ホフマンが詩作に耽った国。ドイツの敗戦によって、この「東プロシア」国は地上から消滅し、周辺地域を含め1,200万人のドイツ人が、家と土地と財産を奪われ、国外に追放されます。当地ダンツィヒ出身のグラスのこの作品を翻訳したことをきっかけに、著者は、ロシアとポーランドにかつての東プロシアの面影を追って旅をします。
 ソ連領カリーニングラードと改名され無味乾燥な町と化す以前は、「バルト海の真珠」と謳われた美しい首都ケーニヒスベルク。(カントの町!)幸いにもポーランド領に組み込まれ古い町並みが保たれた、建国のルーツ、ドイツ騎士団の拠点マリーエンブルク。対ソ連戦のための統領大本営(通称「狼の巣」(ヴォルフスシャンツェ))が建設されたラステンブルク。(ヒトラー暗殺未遂事件も後にここで起こる。)などなど。
 過去と現在とを交錯させつつ、歴史の理不尽を声高に糾弾するのではなく、国が消えるとはどういうことなのかが、理知的で冷静な語りで、時にユーモアも交えながら綴られます。深い洞察に富む、紀行記の名著と言えると思います。

(関連図書)
『蟹の横歩き―ヴィルヘルム・グストロフ号事件』 G.グラス著 集英社 2003 [請求記号:943.7/G77]

     (長久手キャンパス図書館 荻田)

 

『都市景観の20世紀』  [請求記号:518.8/R25]

エドワード・レルフ著 高野岳彦 神谷浩夫 岩瀬寛之訳 筑摩書房(ちくま学芸文庫) 2013年

 ウェールズ出身の地理学者による1980年代の都市景観論です。19世紀後半以降に現れる都市計画や建築上の理念の数々、あるいは、モータリゼーション、大量消費社会、「企業化」といった社会変化を取り上げ、これらの条件が、20世紀の都市景観にどのように映し出されてきたのかを辿りながら、建築物をはじめとする景観構成要素に鋭い考察を加えていきます。
 本書が事例として取り上げるのは欧米諸国の都市景観ですが、その要素の多くは、私たちにも見覚えのあるものです。確かに、例えば高度経済成長期のニュータウン建設は、近隣住区論(小学校区をコミュニティ単位とする)やラドバーン原理(歩車分離)といった有名な都市計画手法から大きな影響を受けていますし、公団住宅や小学校の鉄筋コンクリート校舎も、「四角い形」のモダニズムや「はっきりとした正面がない」キュービズムと無縁ではないような気がします。
 著者が、都市景観を改変させる大きな原動力と考え、日本でもその影響が明白に表れつつあると実感されるのが、営利企業による都市空間の占有すなわち「企業化」です。その性質は、公共空間たる街路に、「企業化」された空間の一例であるショッピングモールを対比させた説明によく表れているのではないでしょうか。ショッピングモールは、屋根で覆われた街路に似ていますが、実際には、企業が専ら利潤を追求するために周到に設計された空間です。例えば、入口は、外側からはわかりやすく、内側からはできるだけ目立たないように設計されています。
 都市景観が「企業化」されるということは、裏を返せば、それだけ、都市に生きる人びとが、消費者にしか過ぎない存在と化しつつあることを示しているのかもしれません。現代の都市景観を分析的に捉えるための視点や情報を満載した本書は、都市景観という鏡に映し出された私たちの姿を浮かび上がらせてくれる本でもあります。

(長久手キャンパス図書館 笹野)

 

『わが最良の友動物たち : 犬猫猿九官鳥家鴨鹿狸』  [請求記号:914.6//222]

遠藤周作著 グラフ社 2003年

 小さなころから生き物がとても好きでした。
 犬や猫はもちろん、大きな動物も、鳥や魚も、今はちょっと苦手になってしまった虫も、昔は何でも見たくて触りたくて、仕方がありませんでした。
 芥川賞作家でありユーモア作家でもあった遠藤周作も、動物がとにかく大好きで、色んな生き物と生活をともにしたそうです。著者と動物の最初の関わりであった愛犬クロとその別れからはじまって、様々な動物、はては植物に至るまで著者の興味と関心は生涯尽きることはありませんでした。そんな動物にまつわるエッセイや短い小説を集めたのが今回ご紹介するこの本です。
 生き物が好きな方、飼ったことのある方なら、家族のように友達のように感じる気持ちがきっとわかると思います。動物が苦手な方も、少しでも生き物と接する楽しさやうれしさ、温かさをユーモアたっぷりの文章とともに感じて頂ければと思います。
 九官鳥と著者の両方から「おい、順子!」と絶えず呼ばれて頭に来たという著者夫人の前書きも含めて、著者の生き物に対する親しみと愛情を感じられる一冊です。

(長久手キャンパス図書館 草間)

 

『なぜヒトの脳だけが大きくなったのか : 人類進化最大の謎に挑む』  [請求記号:469//333]

濱田穣著 講談社 2007年

 「人間は昔はサルだった」小さい頃、この言葉を聞いて驚いた人も多いことと思います。実際、人間とチンパンジーのゲノムは98%が同じであると言われています。しかし、人間とチンパンジーでは、見かけも生活スタイルもかなり異なっています。この違いはどこから来るのでしょう。本書はその違いを“脳の進化”という視点から解き明かしています。

 人類が最も近縁種の類人猿であるチンパンジーと共通祖先から分岐したのは、約600万年前です。その後、人類は分岐と絶滅を繰り返し、現在はホモ・サピエンス一種が生き残っています。ホモ・サピエンスとは「知恵のある人」という意味です。人類とチンパンジーの大きな特徴の違いは脳の大きさにあります。人類の脳が進化する基盤となったのは直立二足歩行です。人類は直立二足歩行することによって、手の自由、発声器官の発達など脳の進化を促すような形態変化が起こりました。そして、大量のエネルギーを必要とする脳を支えるために食糧の確保が重要な課題となりました。食糧確保のため、人類が用いた生活史戦略とはどのようなものだったのでしょうか?そして、人類の進化は今後どちらの方向に向かうことになるのでしょうか?興味のある方はご一読ください。

(長久手キャンパス図書館 須原)