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2014年3月の5冊


 

 

『ゲイ短編小説集』  [請求記号:933.7//271]

オスカー・ワイルド {ほか} 著 大橋洋一監訳 平凡社(平凡社ライブラリー) 1999年

 本書は監訳者・編者の大橋洋一氏の選書と「解説」が卓抜な一冊です。六人のイギリス作家と一人のアメリカ作家の短編が所収されています。同性愛作家として有名なオスカー・ワイルドやE. M. フォースターだけでなく、D. H. ロレンスのような異性愛主義的な作家も含まれています。このことからもわかるように、本書はゲイ作家の作品集ではありませんし、「同性愛者」を描いたものでもありません。「同性愛」という歴史上覆い隠されてきたものが、各々の作品にどのように描き出されているか/いないか、その筆致の微妙さと陰影の濃さも含めて読み解いてほしいのです。
 「W・H氏の肖像」(ワイルド、1889)という短編は、それ自体がシェイクスピアの『ソネット集』研究となっています。一五四編のソネット(十四行詩)からなる『ソネット集』の、三分の二は若い男性への愛を唱う内容です。この詩群をシェイクスピアはW・H氏に献じており、このW・H氏とは誰かが文学史上議論されてきましたが、この短編ではそれが少年俳優ウィリー・ヒューズだと特定され、その肖像画まで現れます。そして、その主張と肖像画は三人の友人に死を超えて引き継がれてゆきます。
 ワイルドの有名な短編「幸福な王子」(1888)も所収されています。この誰もが知る、王子とつばめの美しい自己犠牲の童話がゲイ物語だというのは批判を招くかもしれない、と編者は解説しています。しかし、仔細に読めば、そこに同性愛のイメージがあることは明らかです。こうしたことから、編者は、キリスト教のイメージの中に必然的に見いだされる同性愛的要素を指摘しています。「幸福な王子」は「死の欲動に取り憑かれた人間とその同伴者の物語」(大橋)の系譜上に位置するのです。
 上記の他、「密林の野獣」(ヘンリー・ジェイムズ)、「プロシア士官」(ロレンス)、「手」(シャーウッド・アンダソン)、「ルイーズ」(サマセット・モーム)等が所収されていますが、ほとんどの作品において同性愛は直接的には描かれていません。たとえば、「密林の野獣」(1903)は、重要な決断をすることができず、結局愛する女を失ってしまう男の(異性愛)物語として文学史上解釈されてきました。文学作品は不注意な読者にすべてをさらけ出してはくれません。しかし、さらけ出せないことこそ本当に描きたいことなのかもしれません。本書を通して、<描かないことによって描く>という文学の意匠にも注目してください。
 姉妹編として利根川真紀編訳『女たちの時間――レズビアン短編小説集』(平凡社文庫、1998年)があります(933.7/ /270)。

(学術研究情報センター長 鵜殿悦子(外国語学部国際関係学科))

 

『男おひとりさま道』 [請求記号:367.75/U45]

上野千鶴子著 法研 2009年

 日本の女性学・ジェンダー研究のパイオニアである上野千鶴子氏による本書は、「おひとりさまの老後」に続くベストセラーです。大学生の皆様には縁遠い、実感のないフレーズと思われますが、男子学生の皆さん、目の前の就活や婚活も重要ですが、ずーと先の自分像に目を向ける瞬間があってもよいのではないでしょうか。平均寿命では女性が圧倒的に長いので、男性高齢者の一人暮らしなんてそうはないでしょうと思われがちですが、本書によれば「死別シングル」「離別シングル」「非婚シングル」があり、2010年時点で65歳以上の男性単身者は139万人と、女性の341万人に較べて著しく少なくはありません。さらに、人口統計資料の将来推計によれば男性の15年後の生涯未婚率は35%、加えて離婚率の増加を鑑みると、男子学生の皆さんの老後が「○○シングル」になることも他人事ではありません。そうなった時、どこで、どのように暮らせばよいのか、そもそも一人で暮らせるのか。さらに、一人で親の介護を担うことになるかもしれません。そして、どこで、どのように人生の最期を迎えるのか。一人で死ねるのか・・・。多くの生々しい実例とともに、現代の男おひとりさまへのアドバイスが満載です。転ばぬ先の杖と思ってお暇なときに読んでみてください。

     (学術研究情報センター副センター長 百瀬由美子(看護学部看護学科))

 

『モンティ・パイソンアンドホーリー・グレイル』  [請求記号:DVD//1045]

テリー・ギリアム テリー・ジョーンズ監督 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント

 アーサー王伝説をもとに作られたコメディ作品です。
 冒頭では、馬に乗っているふり(実際はスキップしているような感じ)をしながら進むアーサー王と、それに合わせてココナッツの殻を叩いて馬の蹄のような音を鳴らしながらお供する付き人が荒地を進んで行き、円卓の騎士達と出会います。天からのお告げで、聖杯を探し求める指名を課せられたアーサー王と円卓の騎士達はそのまま旅に出ます。馬に乗っているふりをしながら旅を続ける一行から目が離せなくなっているうちに、気がつけばもう全体の1/3ぐらい観てしまっています。
 最近では、勇者ヨシヒコと魔王の城やSMAPのSoftBankのテレビCMなどでモンティ・パイソンが引用されていましたので、見ていただくと"もとはこれだったのか"と案外馴染みがあると思います。また、モンティ・パイソンのメンバーは、イギリスの階級による英語のイントネーション、発音の違いを役柄によって使い分けていますので、それぞれの違いを知る上で参考になるかもしれません。
 私は何気なくつけた夜中のテレビで、モンティ・パイソンの映画「人生狂騒曲」を見たとき、翌日仕事があるにも関わらず、あまりに凄くて、ついそのまま最後まで見てしまいました。モンティ・パイソンは面白いのですが、ブラックユーモアも多いので、好き嫌いがはっきり分かれると思います。"これは好きかも!"と思った方は、ぜひ「人生狂騒曲」(DVD/1022)も観てみてください。BBCのテレビシリーズ「空飛ぶモンティ・パイソン」(DVD/1-7/163)もあります。

(長久手キャンパス図書館 松井)

 

『ピアニストという蛮族がいる』  [請求記号:763/A/284]

中村紘子著 文芸春秋 1992年年

 「ピアニスト」というとどのようなイメージが浮かぶでしょうか?華麗、優雅といったきらびやかなイメージが浮かぶ一方、激情的で気難しいといったイメージも浮かびます。
 この本に取り上げられているピアニスト達は、まさにそのようなイメージ通りの、某人気クラッシック漫画の登場人物にもひけをとらない、なかなかの奇人変人ぞろいなのです。
 色恋沙汰や、演奏中の変な癖、または女優、首相になってしまった有名ピアニストの数奇な人生や奇妙なエピソードを、自身も高名なピアニストである著者ならではの視点でユニークに紹介されています。(個人的に一番驚いたのは、クラシック音楽にあまり詳しくない人でも、楽しく読める文章を書いてしまう著者の才能です。)
 しかし、一方で日本のクラシック草創期において、彗星の如くあらわれ悲しい最後を迎えた女性演奏者も紹介されており、一人の人間としての苦悩が読み取れ、心を打たれます。 経験を糧にして演奏に反映させる、「蛮族」たちのピアノをぜひ聞いてみたいと思わせる一冊です。

(長久手キャンパス図書館 渡邉)

 

『戦ふ兵隊』  [請求記号:DVD//349]

松崎啓次製作 亀井文夫監督・編集 日本映画新社

 「題名はいっぱし『戦う兵隊』なんて言ってるが、内容はまるきし『疲れた兵隊』だ」1939年に亀井文夫の手により制作された従軍ドキュメンタリー映画『戦ふ兵隊』は、当時そのように揶揄をされたそうです。この映画は勇ましいタイトルとは裏腹に、戦火の中生きる中国の人々や、そこでの日本兵たちの休息や食事などの生活にスポットを当てています。
 この映画には劇的なセリフや動作ではない、非常に生々しい兵隊たちの疲労した身体の所作が映し出されています。横たわり休んでいる兵隊の身体を虫が這う様子や、兵隊が苛ついたように貧乏揺すりをする様子は、ドキュメンタリーだからこそ見ることができる、私たちとなんら変わることのない生身の人間の身体です。それらの様子はどんな言葉よりも強く『戦争とはなにか』ということを現在の我々に教えてくれます。そういった意味ではこの作品への『疲れた兵隊』という評はある意味で的確なのかもしれません。
 当時、『戦ふ兵隊』は検閲により上映禁止処分を受けました。この作品からは反戦や人間への賛美といったメッセージを、制限された状況の中で伝えようとした監督の強さを感じることができます。『戦ふ兵隊』は今こそ観るべき映画なのかもしれません。

(長久手キャンパス図書館 松原)