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2014年5月の5冊


 

 

『北米の小さな博物館 : 「知」の世界遺産 第3巻』  [請求記号:069.025/H82/3]

北米エスニシティ研究会編 彩流社 2014年

 アメリカ合衆国への日本人留学生は1997年をピークに減少し続けてきました。1997年、中国と日本の留学生数はほぼ同数でしたが、2012年時点では日本人は中国人の十分の一に過ぎません。また、大学院留学でなく、学部や学位を取らない留学が日本人留学の特徴です。しかし、去年あたりから流れが変わり、留学生の数が上向きに転じ始めたと報告されています。
 本書は、『北米の小さな博物館』という人気シリーズの第3巻です。主としてアメリカ合衆国の三十一の博物館を紹介しています。初めて聞くような博物館ばかりですが、読めばそこに行きたくなってしまいます。観光ルートにないこれらの博物館に、ぜひ実際に行ってみてください。
 例えば、ミシシッピ州にある「デルタブルース博物館」の章を見てみましょう。著者に導かれて、メンフィス国際空港に降り立ち、そこからオックスフォードへと行きます。両側に綿花畑を見ながらハイウェイをひた走り、ブルース発祥の地クラークスデイルの町に入ると、博物館に到着です。町中には、ブルースゆかりの場所を示す「ブルース・トレイル・マーカー」がいくつも立っています。隣接して「ロック&ブルース博物館」もあり、博物館の野外ステージでは、毎年8月ブルース&ゴスペル・フェスティバルが開催されるとのこと。こうした説明とともに、ミシシッピ・デルタ地域やデルタ・ブルースの解説もされ、充実した内容になっています。
 この他、「ド・サーブル・アフリカ系アメリカ人歴史博物館」、「ニグロベースボール博物館」の章も、アフリカ系アメリカ人の歴史を伝えてくれます。日系アメリカ人の苦闘の歴史を知るには、「トューリ・レーク収容所跡」、「太平洋津波博物館」、「ベインブリッジ島日系アメリカ人立ち退きの史跡」の他、「新渡戸記念庭園」、「イサム・ノグチ美術館」も訪ねてみたいものです。
 本書とともに、『北米の小さな博物館』シリーズの第1巻(請求記号:069.025/H82/1)と第2巻(請求記号:069.025/H82/2)もお薦めします。「リトルロック・セントラル高校指定史跡・博物館」、「全国地下鉄道自由センター」、「ルイジアナ州立博物館ニューオリンズ・ジャズ・コレクション」はアフリカ系アメリカ人についての博物館です。「全国女性栄誉の殿堂」は合衆国女性運動発祥の地セネカフォールズにあります。「サンノゼ日系人博物館」、「ジェローム強制収容所跡」は日系アメリカ人の歴史を伝えています。

(学術研究情報センター長 鵜殿悦子(外国語学部国際関係学科))

 

『フジモリ式建築入門』 [請求記号:080/C44/166]

藤森照信著 筑摩書房 2011年

 「建築は、どこにでもあるし誰でも使っているから分かりやすいものにちがいないが、でも、改めて、
 “建築とは何だろう”
 と問われてみると、どこからどう答えていいやら困る。」
 この「難問」について“わかりやすく”(「入門」ですから)解説したのが本書である、ということになるのですが、とはいえわざわざ「フジモリ式」というからには相応の理由があるわけで、著者は建築史が専門(最近は若干怪しいが)ですから、今、その辺に建っている建築を対象にした入門書ではなく、人類が最初に持った「建築」から説き起こした建築史を前提とした入門書です。もちろん「歴史」について著者独自の捉え方があり、それがまた、著者独特の名調子で語られるわけです。
 藤森照信氏は、建築史家で、建築家で、えー、「プロフェッサー・アーキテクト」という方は世界中に数多いますが、建築史が専門の建築家「プロフェッサー・アーキテクト」という方はほとんどいない(「唯一」とまではさすがに言えないけど)でしょう。そのほか、路上観察「学者?」で、もっとも(世間的に)有名な肩書き?は「建築探偵」。間違いなくこの人はその最初の人の一人です(というのは2人で始めたからなのですね)。
 昨年開催された、あいちトリエンナーレで名古屋市美術館敷地内東側(屋外)に"展示"された"空飛ぶ泥舟"を見た(乗った)方もあるかもしれませんがこれも藤森氏の作品です。とにかく色々な建築(掛け値なしに、他に類例を見ない)を手掛けていますし、作品集はたくさん出版されていますし、かつて『ユリイカ 詩と批評』が特集を組んだりもしています。
 で、本書ですが、読めばわかります(それはそのとおりだが、それでは紹介にならないのですこしだけ)。構成は大雑把にいうと「始原のインターナショナル(著者言うところの―ただ、この本ではないが―)」「ヨーロッパの建築―古代ギリシャから新古典主義まで―」「日本の住宅―竪穴式住居から数寄屋造まで」の3つの柱(建築の本だけに)からなっています。
 とはいえ、歴史的な様式のディテールを説明するのではなく、「建築の歩みを、ダイナミックなひと続きの流れ」として、そして、人間の意識(あるいは無意識)の問題にまで掘り下げて、語っています。
 本書は、「一九世紀の末、世界の建築は有史以来初の激変に襲われ、人類の建築創生をゼロからやり直さなければならなかった。一〇〇年におよぶその試行錯誤の体験を語るにはもう一冊が必要になる。」と結ばれ、19世紀末からの「モダニズム建築」といわれるもう一つのインターナショナルについては語られません。ここのところは姉妹版ともいうべき(姉に当たる)『人類と建築の歴史』(ちくまプリマー新書)でちょっとだけふれられていますが、必要な「もう一冊」はまだ書かれていません。

     (長久手キャンパス図書館 新海)

 

『聖なる酔っぱらいの伝説』 [請求記号:080/I95-32/462-2]

ヨーゼフ・ロート著 池内紀訳 岩波書店 2013年

 亡命作家の作品を好んで読んだ時期があります。専門がドイツ文学でしたから、特にナチス政権下、故国を追われ世界を彷徨ったドイツ人やユダヤ人作家には事欠きませんでした。ゼーガース、ベンヤミン、アメリー、マン、ツヴァイクなどなど。比較的恵まれた環境を得た作家、絶望のあまり亡命先で自ら命を絶った作家、生き延びて戦後は文豪に祀り上げられた作家。トランク一つを抱えてホテルを住かに、薄暗い部屋のデスクや、落ち着かないカフェのテーブルを書斎として、この理不尽な世界に何かを訴えようと書く。あるいは、書くことが作家にとって救いだとしたら、身を苛む不安と喪失感から、それによって幾分か自分も救われるかも知れないと信じて書く。そんな亡命作家のイメージに惹かれましたね。ヨーゼフ・ロートもその一人です。
 思えばロートの生涯は、まさにこの喪失感の連続でした。ユダヤ人なので真の祖国はないし、父親の顔も知りません。彼が愛した第二の祖国は、多民族が共存する寄木細工のようなオーストリア・ハンガリー帝国でしたが、敗戦によって瓦解しました。最愛の妻は発狂し、揚句の果てのフランス亡命。(書いていても、心が滅入ります。)アルコールへの逃避という慢性的自殺行為により命を縮め、45歳でパリにて客死。遺作となったのが、この小説です。
 パリのセーヌ河の橋の下でその日暮らしの生活を送る男が、裕福な紳士の気まぐれから、200フラン(当時の大金)を恵まれます。その条件が、いつかの日曜日に、サント・マリー礼拝堂の聖女テレーズの像の足下に返してくれればそれでいい、というもの。それから、人生を半ば失っていたこの男に次々と奇跡が起こり始め、やがて幸福なクライマックスを迎えます。『皇帝の胸像』と併せて読むと、限りなく高められた詩情に裏打ちされた、作者ロートの喪失感が、ヒリヒリと痛いほど伝わってきます。何度でも繰り返し読みたくなる、まさに短編小説の名品です。

(長久手キャンパス図書館 荻田)

 

『西洋世界の歴史』 [請求記号:230/Ko73]

近藤和彦編 山川出版社 1999年

 第一線の西洋史家たちによって執筆された西洋史の概説書です。主に大学生向けの教科書として編まれた本ですが、教科書らしからぬシャープで大胆な叙述にやや驚かされます。
 「変化する時代であると同時に、変化に抗する動きに満ちた時代でもある」近世を説明する格好の素材としての神聖ローマ帝国。この古くて新しい帝国についての説明を、執筆者は「ローマ帝国」と「神聖」に込められた意味を使って、わずか1行でやってのけます。
 神聖ローマ帝国を含む主権国家間の勢力均衡や、その均衡が新興国家の舞台への登場によって移り変わる近世ヨーロッパは、まるで今日の国際社会の縮図のようです。ヨーロッパ外交の基軸は七年戦争前夜に劇的に変化しますが、それについて執筆者は、パリ対ウィーンから「パリ+ウィーン」対「ロンドン+ベルリン」という首都を使ったメタファーで効果的に捉えます。
 非西洋世界との関係が強く意識されているのも本書の特徴です。本節の合間に、ビザンツ帝国やオスマン帝国などを扱った補節が用意されており、西洋世界を対岸から眺めることができます。これからヨーロッパの歴史や社会について学ぼうとされる方には、確かな知識と複眼的な視点を提供してくれる格好の1冊と言えるのではないでしょうか。

(長久手キャンパス図書館 笹野)


 

『しあわせの隠れ場所』[映像資料] [請求記号:DVD/ /847]

ジョン・リー・ハンコック監督 ワーナー・ホーム・ビデオ 2010年

 この作品は実話を題材にした映画です。
 ホームレス同然の暮らしをしていた高校生のマイケルは、それを放っておけなかった裕福な一家の母親リー・アン・テューイによって彼女の家に招かれることになり、今まで生きてきた場所とは違う新しい世界を知ることになります。
 絵本を読み聞かせてもらったこともない、勉強の仕方も知らない、自分のベッドを持ったことさえなかった彼は、テューイ夫妻とふたりの姉弟との交流によって、少しずつ自分の才能を開花させていきます。けれど知らなかった世界をもたらされたことによって変わっていったのは、マイケルだけではなく、それを受け入れた家族の側も同じだったのです。
 シンデレラストーリーと簡単に言ってしまえばそれまでですが、人種差別や貧富の格差、ドラッグなどアメリカの抱える社会問題も描かれ、そんな中でマイケルが自分の将来をつかみ取ったのは多くの同じような境遇の子どもたちの中で大層特別で幸運なことだったでしょう。もちろんその社会自体が変わったわけではなく、不幸な境遇の子どもたちがいなくなったわけでもありません。それでも、マイケルを迎え入れた家族の生活は、きっとこうあってほしいと願う美しい姿だったと思うのです。
 ちょっと気分がふさいでいるときにも、もちろん元気な時でも、鑑賞後はきっと温かくて幸せな気持ちになれるおすすめの映画です。

(長久手キャンパス図書館 草間)