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2015年3月の5冊


 

 

『時の娘たち』 [請求記号:930.2//1687]

 鷲津浩子著 南雲堂 2005年

 今月は、アメリカ文学の研究書を紹介します。文学研究というのはたいへん幅が広いのです。文学テクストの分析方法にしても、歴史主義的なものから、精神分析学的批評、ニュークリティシズム、構造主義、読者反応批評、脱構築などがあります。コンテクストを視野に入れたマルクス主義批評、フェミニズム/ジェンダー批評、ポストコロニアル批評も。伝統的な、作家についての研究、作家を取り巻く事象の研究、本文研究なども古くからあり、こうしたものすべてをひっくるめて文学研究です。文学への多様なアプローチを楽しむことができます。
 本書『時の娘たち』は、19世紀「アメリカン・ルネサンス」と呼ばれる時代を生きた作家・思想家の著作を取り上げ、それらを知識史の中に位置づけようとしています。「鐘楼」、『ピエール』(メルヴィル)、「美の芸術家」、「ラパチーニの娘」(ホーソン)、「メルツェルのチェスプレイヤー」、『ユリイカ』(ポウ)には、その時代の「科学」、すなわち、時計、からくり人形、クロノメター、気球、博物学、天文学などが描かれています。これらに対する関心は、すべて同じ内的衝動から発しています。つまり、全宇宙を大きな普遍的な秩序として捉え、人間の営みはそのパーツであることを証明したいという強い思いです。
 啓蒙主義が席巻した18・19世紀にちょうど建国の時を迎えたアメリカ合衆国の作家たちは、例外なく啓蒙主義の波に呑まれました。アメリカは「このような啓蒙主義思想の壮大な実験室」、「多くの個別例から何らかの普遍的法則を導きだそうとするための大規模な帰納法を実行する場」だったのではないか、と著者は言っています。
 本書の特徴は、当時の文脈から、つまり当時の人々のものの捉え方の観点に立って作品を読む、というものです。たとえば、ホーソンの小説にはしばしば科学者が登場しますが、「科学者」という言葉は1830年代に現れたのであって、「知識人」、「哲学者」という名で当時は呼ばれていたとのことです。したがって、作品に現れる「科学」は今日の科学とは違った意味で捉えなければならないのです。
 本書は、知識史という長大な流れの中に置いて19世紀小説を読み直す、という試みをしています。『ユリイカ』を書いたポウ、「自然論」を書いたエマソンに似ています。成功した批評・研究は対象物によく似ていると文学業界ではよく言われるのですが、本書はその一例だと思います。

(学術研究情報センター長 鵜殿悦子(外国語学部国際関係学科))

 

『もう、背伸びなんてすることないよ』 [請求記号:159/U92]

 宇佐美百合子著 幻冬舎 2006年

 学期末を向かえこの1年を振り返り、あわただしくがむしゃらに走ってきて疲れているあなた、勉強を頑張ったのに試験で本領が発揮できず不本意な成績に終わって落ち込んでいるあなた、無気力に1年を過ごし気だるい思いのあなた、将来の道がまだ決められず悩み、迷っているけど就職活動が解禁となりあせっているあなた、一歩踏み出したいと思っているあなたにささげるメッセージがコンパクトにまとめられています。春休みを機に自分を見つめ直し、仕切りなおして新学期を迎えられる1冊ではないかと思います。

(学術研究情報センター副センター長 百瀬由美子(看護学部看護学科))

 

『ノラや』 [請求記号:080/77-3/28M]

内田百闥 中央公論社 1980年

 大学には猫が集まりやすいのでしょうか。県大でも、最近見ないなぁと思っていた矢先にひょっこり現れたり、守衛さんにべったり甘えたりしているのをよく目撃します。そんな様子を見ていたら、猫を登場させた作品を紹介しようという気分になってきました。夏目漱石の『吾輩は猫である』がパッと思い浮かびますが、漱石を尊敬しその弟子として知られる内田百閧焉A猫にまつわる作品を残しています。
 『ノラや』は、百閧ェ可愛がった、薄赤で虎ブチの白猫ノラと彼との日々を綴った日記です。日々、と言っても、ノラはある日なんとなく百閧フ前に現れ、次第に自分を溺愛するようになった彼を置いて、またふらりと出て行ってしまいます。ノラがいなくなってから、百閧ヘ膨大な量のチラシを配り、訊ね人ならぬ訊ね猫として新聞に投稿し、ツテを頼り少しでも似たという猫がいたと聞けば妻にみに行かせたりと、あの手この手でノラを探しまわります。まるでこの世が滅びたとでも言わんばかりの彼の落ち込み様は、同じ経験をした人としていない人では捉え方が随分と違ってくるでしょう。
当たり前に可愛がっていたものが突然なくなってしまう喪失感が全体に漂い、読んでいるとこちらまで悲しくなってしまうのです。しかし、ところどころくすっと笑えるところが入っていて(第一章「彼ハ猫デアル」なんて題している)するところから彼のユーモアも感じられます。ほかの猫ではなく、ノラをおもい続ける百閧フ様子が心に沁みてくる一冊です。

(長久手キャンパス図書館 神尾)

 

『平安貴族の夢分析』 [請求記号:915.3/Ku53]

倉本一宏著 吉川弘文館 2008年

 人は眠っている間、一晩に何回も夢を見ますが記憶にはあまり残りません。たまたま覚えている夢が心に引っ掛かると、この夢にはどんな意味があるのだろう、と知りたくなります。書店には、専門書から雑学書まで、夢分析に関する様々な本が並んでいます。夢の意味を知りたい、という気持ちは昔から変わらないようで、平安貴族も夢の意味を探り、それを日記に記しています。
 平安貴族は夢を陰陽師に占わせ、その判断によって「物忌み」や「方違え」を行いました。夢は神仏からの啓示であると考えられていたからです。末法思想の影響もあり、外出を控えたり、祈祷を行って凶事を避けるよう現実に対応しています。
 ところで、本や雑誌などで"レム睡眠・ノンレム睡眠"という言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。"レム睡眠"は、身体は深く眠っているのに脳が活発に活動している睡眠状態のことです。目が覚めた時に覚えている夢の多くは"レム睡眠"時に見たものであることが脳生理学によって分かってきました。平安貴族も目が覚めた直後にその内容を日記に記しており、私たちと同様に"レム睡眠"時の夢を多く覚えていることがわかります。
 本書は従来の解釈とは異なる脳生理学の視点から夢分析を行い、平安貴族が夢を"自己の作品の「主張」に都合よく利用している"ことを指摘しています。夢見を怖れ、身を慎む姿ばかりでなく、出世を願ったり、参内より自分の都合を優先させている、と思わせる記述もあります。今までのイメージとは違った、夢を巧みに利用している平安貴族の姿を感じさせてくれます。

(長久手キャンパス図書館 須原)

 

『スーパーサイズ・ミー』 [映像資料] [請求記号:DVD//294]

モーガン・スパーロック監督 クロックワークス 2006年

 人口の30%以上が肥満というアメリカ。その原因の一つが、マクドナルドに代表される、ファーストフードだと言われています。
 今回紹介する「スーパーサイズ・ミー」は、ファーストフードの危険性とアメリカの食生活の問題点を訴える、ドキュメンタリー映画です。アメリカでは2人の肥満少女が、肥満の原因はマクドナルドの商品にあるとして、同社に対して訴訟を起しています。裁判自体は、因果関係が証明されていないと却下されましたが、監督はこの裁判をきっかけとし、自らの身体を用いて、「30日間1日3食、マクドナルドの商品だけを食べ続ける」という実験を行います。この実験の模様を挟みつつ、食の専門家がアメリカの食生活のどこに問題があるか、警告していきます。肥満が、喫煙やドラッグなどと並んで、深刻な社会問題であることが分かるかと思います。アメリカ文化の影響を色濃く受けた日本も、将来は対岸の火事ではないかもしれません。
 30日間で、健康そのものだった監督が、心身ともにどのように変化していくか、詳細は是非この映画本編を観て、確かめてみて下さい。

(長久手キャンパス図書館 山田)