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2015年8月の5冊


 

 

『置かれた場所で咲きなさい』 [請求記号:159/W46]

 渡辺和子著 幻冬舎 2012年

 著者は岡山市にあるノートルダム清心学園の理事長で、1963年〜1990年にノートルダム清心女子大学の学長を務めた修道女です。ご出身は関東で、その数奇な運命が修道女への道を選ばせたのでしょうが、小柄で物静かな佇まいからは、後年大病を患われたことを含め、想像できないような人生を歩んでこられました。彼女の父、渡辺錠太郎氏は1936(昭和11)年の二・二六事件で暗殺された陸軍教育総監でした。しかも、当時9歳の彼女は父親の機転で隠された物陰から、父親が銃弾を浴びて亡くなった一部始終を目撃していました。戦後すぐにカトリックに入信し、29歳で修道女となり、修道会の指示で渡米、ボストンカレッジの大学院で博士号を取得した後、帰国して岡山に派遣され、その翌年弱冠36歳で清心女子大の学長に抜擢されています。大先輩の面々を前にした学長業務に疲労困憊していたとき、ある宣教師から教えられた詩の一行がこの「置かれた場所で咲きなさい」だったそうです。宗教者の書いた作品ですから、お説教臭くないとは言い切れませんが、むしろ、一話ごとの短いエピソードには、著者自身の数奇な人生体験と葛藤の経験から醸し出される何とも優しい心遣いが印象的に書き綴られています。この本は、発売以来100万部を超えるベストセラーとなり、人間関係に悩み、心の癒しを求める現代人にとって、ホッと息の付ける一服の清涼剤になっていることは間違いありません。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『おとなになるってどんなこと?』 [請求記号:080/C44/238]

 吉本ばなな著 筑摩書房(ちくまプリマー新書) 2015年

 大学生のみなさんは悩んでいる時どうしていますか?
 感情的になってしまう時にはまず気持ちを言葉にして、出来るだけ論理的に考えて分析して、自分の内面を整理しようとすると思います。でも自分だけで悩んでいるとどうしても行き詰まってしまう事があります。そんな時には誰かに相談したり、何かの折にふと目にしたり耳にしたものにヒントを得たりすることもあるかもしれません。そして本も時には助けになってくれることがあります。
 本書は作家の吉本ばなな氏が、子供から大人まで、いつの時代も誰でも一度は悩む問題について、優しいイラストと平易な言葉で自身の考えを綴ったエッセイです。おとなになること、勉強すること、友だちとは、普通とは、死ぬこと、年をとること、生きること、がんばること、の八つのテーマについて経験も踏まえて語られています。
 「…なにをするために人は生まれてきたかというと、私は、それぞれが自分を極めるためだと思っています。人がその人を極めると、なぜか必ず他の人の役に立つようになっています。そんなふうに人間というものはできているんだと思います。」(本文より)
 言葉というのは不思議なもので、自分の心の状態によって同じ言葉がまったく気にならない時と、ひどく突き刺さる時があります。そして言葉で救われたり自分を整えたり、生きる力になることもあります。そのためには心を閉ざさず、こちらも受信できる状態にないとメッセージをうまく受け取ることができません。
 悩み多き世代でもある大学生のみなさんも、この夏休みにはたくさんの読書と経験を通じて、そこから多くのメッセージを受け取ってください。

(長久手キャンパス図書館 大島)

 

『祭りの季節』 [請求記号:386.1/ I35]

 池内紀著 ; 池内郁写真 みすず書房 2010年

 大学生のみなさんは、夏休みをどのように過ごしているのでしょうか。
 夏といえば、まさにこの本のタイトルのように「祭りの季節」ですね。遠くから太鼓や花火の音が聞こえたり、街で浴衣姿の人を見かけると、そういう季節なのだなと心も躍ります。
 この本では全国36のお祭りが紹介されています。しかしその中に有名なお祭りはなく、歴史や風土性があるものを厳選し、実際に筆者が訪ね見てきたものを伝えてくれています。この中で唯一わたしが行ったことがあるのは、愛知県津島市の「尾張津島天王祭」です。宵祭りの提灯をつけたまきわら船と、朝祭りの能装束をまとった人形を乗せた車楽船は、一度は見ていただきたいとても印象的な光景です。天王祭の他に紹介されているのは、わたしにとっては名前も知らないお祭りばかりでしたが、なぜかどこか懐かしく感じさせてくれて、いつか行ってみたくなりました。
 大規模な花火大会なども楽しいですが、観光客集めのためではなく地域に根づいているお祭りもまた、とても素敵な日本の行事だと思います。その歴史や意味を知り、街が大切にしてきた伝統や昔の人々の暮らしに想いを寄せてみるのも、せわしない現代で忘れてはいけないことなのかもしれません。
 みなさんが住む地域には、どんなお祭りがあるのでしょうか。お休みが多いこの季節だからこそできることを見つけて、たくさん夏の思い出を作っていただけたらと思います。

(長久手キャンパス図書館 加藤)

 

『名画で読み解くハプスブルク家12の物語』 [請求記号:288.493/N39]

 中野京子著 光文社(光文社新書) 2008年

 中世から約650年に渡りヨーロッパの表舞台に立ち続けたハプスブルク家。本書は、スイスの田舎伯爵が思いがけず神聖ローマ皇帝に選出されたことから始まった名家の歴史の一端を、数々の名画とドラマティックなエピソードを通してわかりやすく解説してくれる一冊です。その中からいくつかを簡単にご紹介したいと思います。
 まず登場するのが、ドイツ・ルネサンスの巨匠デューラーによる肖像画『マクシミリアン一世』です。マクシミリアン一世は15世紀末にドイツ王兼神聖ローマ皇帝の座につき、度重なる遠征と周到な婚姻外交によりハプスブルク家隆盛の基礎を築いた英雄ですが、彼にまつわる物語もさることながら、デューラーが記した、「ケチ」といっていいほど金勘定に終始する旅日誌についての挿話も面白く、画家についてももっと知りたいと思わせてくれます。
 そして、悲劇の女王に魅せられたスペインの歴史画家フランシスコ・プラディーリャが描く『狂女フアナ』。大航海時代のスペイン王家に生まれ政略結婚によりハプスブルク家の一員となったフアナは、王位を巡る争いや夫の急死により精神の均衡を失い、以後は75歳でその生涯を終えるまで幽閉されていたといいます。この絵は、夫の死後、数年間ともいわれる長期にわたって夫の葬列とともにスペインの荒野をさまよったという逸話を描いたもので、数百年も前の出来事とは思えない臨場感に胸が痛くなるほどです。
 そのほかにも、政治を顧みず錬金術にはまっていたという、蒐集狂のルドルフ二世が描かせた型破りな肖像画の解釈や、ヨーロッパ宮廷一の美貌を持つといわれたエリザベート皇后の肖像画と写真の比較など、さまざまな切り口からそれぞれの人物の魅力や時代背景がわかりやすく紹介されています。美術館を訪れる際のよいお供にもなると思いますので、これまで歴史や絵画にあまり興味のなかった人にぜひ読んで頂きたい一冊です。
 なお、同じ時代のブルボン王朝とロマノフ家を題材にした『名画で読み解く』シリーズもそれぞれ出版され、図書館でも所蔵しています。本書とあわせて読んでみると、それぞれのエピソードの点と点が広く深くつながり、ますます歴史が面白く感じられるようになるのではないでしょうか。

(参考文献)
 『名画で読み解くブルボン王朝12の物語』  [請求記号:288.493/N39]
 『名画で読み解くロマノフ家12の物語』  [請求記号:288.493/N39]

(長久手キャンパス図書館 津田)


 

『チョコレートコスモス』 [請求記号:913.6/O65]

 恩田陸著 毎日新聞出版 2006年

 今回、ご紹介する本は、恩田陸の「チョコレートコスモス」という小説です。恩田陸は「夜のピクニック」や「六番目の小夜子」などで有名で、ノスタルジックで独特な世界観が特徴です。なんとも言えない気だるさが好きで、学生の頃はよく読んでいました。中でも、「チョコレートコスモス」はお気に入りでした。
 この小説は、演劇をテーマにしていて、2人の少女を軸に、話が展開されていきます。演劇初心者にもかかわらず、底知れぬ演技力と発想を持った佐々木飛鳥。幼い頃から天才と言われ、数々の役をこなし、才能や環境に恵まれた東響子。この2人の少女が出会い、お互いを意識し合いながら、演劇の世界へのめり込んでいく物語です。
 演劇シーンは、特に緊張感や気迫が伝わってきて、物語へぐいぐい引き込まれます。2人の少女の静かなぶつかり合い、苦悩、葛藤が感じられ、精神的にも訴えかけられるものがあります。続きが気になってどんどん読めるので、500ページ近くありますが、あっという間に最後のページ、という印象です。
 学生の頃、「チョコレートコスモス」を読み終えて、自分も何らかの行動を起こしたい衝動が湧きました。暑くてやる気が起きない人や、生活に少し刺激が欲しいなと思っている方におすすめです。

(長久手キャンパス図書館 黒岩)