今月の5冊へ先月までの5冊へタイトルリストへ

書名のリンクは図書館所蔵です。別ウィンドウが開きます。

2016年1月の5冊


 

 

『栽培植物と農耕の起源』 [請求記号:080/583/19]

 中尾佐助著 岩波書店(岩波新書) 1966年

 世界の農耕文化を作物栽培のあり方から類型化し、相対化して位置づける試みをした著者の記念碑的著作(1966年刊)です。著者中尾佐助(1916-1993)は愛知県豊川市の出身で、京都帝国大学農学部で学んだ後、大阪府立大学で長く教鞭を執られました。京大のいわゆる今西グループ(生物学者今西錦司を中心に集まった学際的な研究グループ)の一員で、専門とする植物の遺伝育種学にとどまらず、戦前、戦後にまたがる世界各地の踏査を経て文化論に深い造詣を示しました。「照葉樹林文化論」を提起して、国立民族学博物館第2代館長を務めた佐々木高明氏らとともに、日本や東アジアの照葉樹林帯の農耕文化を、稲作以前の焼畑農耕文化に起源を発すると位置づけました。彼の著作は農耕文化にとどまらず、専門の植物学研究書や普及書、『秘境ブータン』などアジア等をめぐる紀行文、『料理の起源』等の食文化論、『分類の発想』等の学問論にまで広く及び、ここで紹介する本書も含めて、『中尾佐助著作集(全6巻)』(北大図書刊行会)に収められています。1960年頃まで欧米で有力であった世界の単一農耕起源説を否定し、世界の農耕文化を独立した四つの基本形に分けるとともに、日本の農耕文化や食文化も、「日本独自」ではなく、東アジア世界の中に位置づけて相対化してみせました。その旺盛な現地調査への執念と広い学識から来る豊かな発想力、そして、温厚な人柄が魅力的な学者の「1冊」が本書です。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『流刑の神々・精霊物語』 [請求記号:080/I95-32/418-6]

 ハインリヒ・ハイネ著 小沢俊夫訳 岩波書店(岩波文庫) 1980年

 ハインリヒ・ハイネ(1797-1856)が、ドイツを代表する国民的詩人であることに異論のある人はいないでしょう。愛と革命に生きた情熱的詩人、人類解放のヒューマニスト、等々大仰なレッテルもそこに付随します。それに何となくおさまりの悪さを感じるのはなぜでしょう。ロマン主義に列なるハイネの詩は、シューマンやシューベルトの旋律が加わり、よりいっそう広く世に知られています。しかし、夢想や抒情性で読者を引き付けておいて、最後に現実を突き付けて自らそれをぶち壊す、という彼の手法には、ロマン主義とは一線を画する、イロニーやリアリズムの冷めた視線が感じられます。
 ハイネは、祖国ドイツを全身全霊で愛し、また身もだえするほどに自由を求め、それを両立させないドイツの旧態然とした封建制を憎みました。世はまさにフランス革命の時代。ヨーロッパ全土が揺れているというのに、ドイツは何事もなく眠りこけたよう。結局官憲に睨まれたハイネは、創作の拠点をパリに移します。以後亡命生活は25年間にも及び、パリで最期を迎えることになります。ドイツ最大の民衆詩人は、その大半をフランスで執筆したのですね。しかも、ハイネ自身は、君主制を理想と考えていたし、体制側のフランス政府から最後は多額の年金までもらっています。(革命詩人?)彼の遺言は、どこどこの株式が将来有望だから買っておけ、という現実的なものだったそうです。
 ユダヤ人であるハイネは、いくら論文を書いても、キリスト教に改宗しても、望んだ大学の公職には結局つけませんでした。そこで、玉葱の皮をむくように、自分自身をむき、ユダヤ教からも自分をむき、最後は、ヨーロッパ全土を覆っている強固な「キリスト教」という皮まで剥き取ろうとします。そこには、詩人としてではなく、ジャーナリストとして鍛え上げられた散文作家ハイネが存在します。今回紹介するエッセーの中では、「キリスト教」が、ヨーロッパ全土を投網のようにからめ取っていく過程で、それまで民衆が大切に信仰していた古い神々を、その非寛容性でもっていかに抹殺したか、あるいは下位のものとして隷属させたか、という諸相が描かれています。ハイネは、『精霊物語』ではゲルマンの古来よりの土着の神々が、『流刑の神々』ではギリシャ・ローマの神々が、キリスト教によって、邪教の悪魔としてすり替えられたという事実を、さまざまな民話を交えつつ論じています。ハイネの散文は、平易でわかりやすく、また極めて鋭く、詩に疎い読者をも十分に魅了してやみません。

(長久手キャンパス図書館 荻田)

 

『ニューヨーク』 [請求記号:080/775/19B]

 亀井俊介著 岩波書店(岩波新書) 2002年

 アメリカ文学を専門とする著者が、「取り引き」の中心として発展してきたニューヨークの歴史や文化について語った本です。とくにニューヨークの中心をなすマンハッタンについて、1960年代以降、自由に歩き回り目にしてきた風景や、それにまつわる歴史上のエピソード、ときには文学作品に描かれた情景などに触れつつ紹介しています。
 ニューヨークの起源は、東西北を3本の河川で仕切られた細長いマンハッタン島の南端に、オランダ系商人によって17世紀に建設された植民地にあります。その後、市街地が北に向かって拡大するのに伴い、都心もまた北へと移動しました。本書の著者も、ニューヨークの都市化のプロセスを追うように、植民地のあった「下町(ダウンタウン)」を出発点とし、北上しながら主な地域や通りを辿っていきます。このため都市の歴史を、空間で区切るとまでは言いませんが、空間をうまく利用して説明しているように思います。
 あまりにも急速な北への中心移動は、ニューヨークの各地域にあわただしい変貌や激しい人口移動をもたらしましたが、その落ち着きのなさが、ニューヨークらしさでもあるようです。このため、例えば「下町」には、日本の下町のような人情が生まれにくく、ニューヨークが生み出した多数の文学者や芸術家の個人記念館がほとんどないのも、同じ理由によって説明できるようです。
 では、これほど急成長する空間を秩序づけるために19世紀初頭に立案された都市計画とはどのようなものだったでしょうか。マンハッタンに縦横に配置されたアヴェニューとストリートで区切られた格子の区画。なぜ碁盤目(正方形)ではなく格子(長方形)なのか。なぜ南北方向ではなく東西方向に長い格子なのか。マンハッタンの地理と将来交通量に基づく実に単純な理由が明かされています。
 著者が本書の草稿をすでに書き上げていた2001年9月11日、世界を驚愕させる事件がニューヨークで起こりました。この事件は、著者にも大きな衝撃や動揺を与えたようですが、敢えて内容に変更を加えず、本文中の付記で言及するにとどめています。このスタンスのおかげで、事件から10年以上経過した今日、かえって中身が色褪せず、ありのままのニューヨークをよく伝えてくれる本だと思います。

(長久手キャンパス図書館 笹野)

 

『ピタゴラ装置DVDブック』(全3巻) [請求記号:DVD/1〜3/1306]

 佐藤雅彦監修 小学館 2006年

 ピタゴラ装置とは、NHK教育の「ピタゴラスイッチ」という番組に登場するからくり装置です。音楽にのってころころと転がっていくビー玉の先には、日用品で作られた様々な仕掛けが用意されています。ビー玉は時にジャンプしたり、右に左に揺られたり、滑車で上に釣られたり………ドミノ倒しのように連鎖していく様々な装置をくぐりぬけて、ゴールを目指します。そして、ゴールに到着すると「ピタゴラスイッチ」と番組ロゴの旗が立つのです。たったそれだけ短い映像ですが、ビー玉が転がる先に待ち構えている装置はどれも巧妙で、はらはらドキドキしながらビー玉を追ってしまいますし、ゴールの旗がたった瞬間には、なぜだかほっとしたようなすっきりした気持ちになります。
 今回紹介するDVDブックは、そうしたピタゴラ装置の映像を収めたDVDと装置の解説本がセットになっています。ピタゴラ装置は、慶應義塾大学の佐藤雅彦先生と研究室の学生がアイディアを出し合い、合宿をして作成し、さらにテイク100を超えるほどカメラを回して撮影したものです。はらはらドキドキする装置の裏には、たくさんの失敗から生まれた工夫がつまっており、解説本からは学生達が「考えた跡」を垣間見ることができ、新しい発見がたくさんあります。
 1月は学期末の試験シーズンですね。レポート作成や試験勉強の息抜きにもおすすめです。

(長久手キャンパス図書館 民家)


 

『ケルトの芸術と文明』 [請求記号:702.03/L14]

 ロイド&ジェニファー・ラング著 鶴岡真弓訳 創元社 2008年

 ケルトとは紀元前ヨーロッパに広がっていた民族の名称です。後にローマ人にヨーロッパの辺境に追い立てられましたが、アイルランドやスコットランドなどでは今でもケルト文化が根強く息づいています。ケルト人は独特の装飾芸術を展開しており、組紐、渦巻、三つ巴、植物文様の組み合わせが特徴の金工品、写本等が残されています。本書ではケルト人の残した多彩な芸術品が時代・地域別にバランスよく、かつ詳細に紹介されています。
 中でも有名な『ケルズの書』をはじめとする装飾写本は、ケルト系修道士が作成した福音書でありながら、大変豪華で抽象的なデザインブックといった印象を持ちます。文様は大変緻密かつ繋がりあい迷路のように描かれており、じっと見ていると異様な世界に引き込まれていくようです。具体的な自然描写は見られませんが、よくみると動物や空想の生き物をモチーフにした文様もあり、遊び心的な部分も見られます。装飾写本からは深い信仰心と共に、ケルト人の独創的な気骨が伝わってくるようです。
 本書からはケルト文化が一部の地域だけでなく、ヨーロッパに広く浸透していた事が分かり、ヨーロッパ文化の源流と言われる理由が分かります。ケルト芸術の奥深い世界を知る為の恰好の入門書となっています。

(長久手キャンパス図書館 渡邉)