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2016年3月の5冊


 

 

『人生に疲れたらスペイン巡礼』 [受入中]

 小野美由紀著 光文社(光文社新書) 2015年

 私は昨年3月に、VIA LACTEAプロジェクトという国際交流の仕事で、スペインはガリシア地方のサンティアゴ・デ・コンポステラへ行く機会がありました。このプロジェクトは、スペインのカミーノ・デ・サンティアゴ(キリスト教の聖地へ向かう巡礼道)と日本の熊野古道という聖地巡礼のあり方の体験をベースに置きながら、国内2大学、スペイン、ポルトガルの各1大学の間で、学生、教職員の相互派遣を行って、関係国・地域間の文化、伝統の相互理解を図る事業です。私たちもほんのわずかの距離ですが、巡礼道を数時間かけて歩きました。近年は、日本国内でも四国八十八箇所参りがずいぶん盛んですし、知多半島にも新四国の霊場巡りがあります。カミーノ・デ・サンティアゴも近年、世界中から巡礼者がやって来ています。そこには狭義の宗教性だけでなく、人生に迷ったり、自分を見つめ直したりと、様々な精神性をもった理由があり、もちろん、観光気分やスポーツ気分の人々も含まれています。この本の著者はまだ若い女性ですが、見失った自分を見つけ直すために、このスペインの巡礼道を800qにわたって歩き通した経験をもとに、その意味を問いかけ、発信しようとしています。気軽に読め、スペイン巡礼への誘いの意味も込めた小冊ですが、非人間的な現代競争社会の中で追い詰められていく人々に対して、体験的に救いの手を差し伸べようとする"聖書"なのかもしれません。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『エキゾチック・パリ案内』 [受入中]

 清岡智比古著 平凡社(平凡社新書) 2012年

 2011年の夏、フランス植民地時代のラオスについての資料を収集するために、2か月ほどパリに滞在したことがあります。パリ10区の東駅近くに部屋を借りていたのですが、当初、街の雰囲気がおしゃれなブティックやカフェの並ぶ、ファッション雑誌の特集でよく見られるような「定番」のパリのイメージとはかなり違っていて驚きました。10区はアフリカ系の人たちが多く住む地域で、アフリカ系の食品を売る商店や美容院などが集まっていて、フランスが移民大国であることを実感させてくれる地区でした。滞在中、13区のチャイナタウンにも頻繁に足を運びました。13区にはベトナム戦争のあと、ラオス、カンボジア、ベトナムからインドシナ難民としてフランスに渡った人たちが多く住んでおり、日本ではほとんどみかけない、ラオス料理のレストランも何軒かありました。ラオス料理のレストランで、店員さんとラオ語で話しをすることが、フランス語を話すのが得意ではなく、ホームシックにかかりかけていた私にとって、大きな救いとなりました。
 『エキゾチック・パリ案内』ではこのような多様な顔をもつパリの街を、ユダヤ、アラブ、アフリカ系の人々、華人およびインドシナ難民、インド系の人々が住む区域ごとに、代表的なレストラン、関連する映画作品や小説、音楽、そしてなぜ彼らがパリに住むことになったのか、その歴史的経緯とともに紹介しています。これからパリ旅行を計画している人はもちろん、シャルリー・エブト襲撃事件、同時多発テロといった悲惨な事件が起こり、フランス社会が分断の危機にあるともいわれる中、移民問題や多文化共生について学びたい人にとっても有益な一冊となるでしょう。本書への唯一の不満は、私が何度も食事に通った13区のラオス料理レストラン「Lao Douang Dy」(店名もラオ語)がベトナム料理店として紹介されていることでしょうか・・・。

(外国語学部国際関係学科 矢野順子)

 

『百年前の二十世紀 : 明治・大正の未来予測』 [請求記号:914.6/Y78]

 横田順彌著 筑摩書房(ちくまプリマーブックス) 1994年

 未来を予測したことはありますか。未来予測というと大袈裟なものに思われますが、将来の自分を想像したり、明日の天気を予想したり、試験に出題されそうな問題のヤマを張ったり、わたしたちは様々な場面でささやかな予測をしています。
 本書は、明治・大正時代の著名人が新聞や図書、雑誌などで20世紀という未来を大胆に予測したものを紹介しています。明治・大正期の人たちは、現在ではすでに過去である20世紀をどのように予測していたのでしょうか。
 未来予測なので、科学技術の進歩や生活の向上に関するものが多く見受けられます。中には、東京‐神戸間の鉄道での所要時間や、無線電話や国際電話といった通信技術の発達、環境破壊や公害といった社会問題など、現在の有り様を驚くほど正確に予測しているものがあります。一方、プロペラを背負っての空中散飛など、開発されたら是非とも利用したいと思うようなものもあります。さらに人造人間の製造や星間旅行のように実現に向けて研究や開発が行われているものもあります。予測の正否はともかく、明治・大正期の人たちの未来に対する期待と想像力の豊かさに驚かされます。
 日進月歩の科学技術で、100年後の未来はわたしたちの予測をかなり超えたものになるでしょう。ですが、どんなに科学技術が進歩した世界であっても、未来に対する想像力を失くすことはないでしょう。みなさんも、もうすぐ進級、就職等されることと思います。それぞれの未来予測とともに、新しい第一歩を踏み出してください。

(長久手キャンパス図書館 須原)

 

『中継ぎ投手 : 荒れたマウンドのエースたち』 [請求記号:783.7/Sa95]

 澤宮優著 河出書房新社 2012年

 3月は、卒業式など何かが終わるような、4月に向けて何かが始まるような、そんな月だなと思います。みなさんは、3月をどのように過ごされるでしょうか。
 私が今回紹介するのは、「中継ぎ投手:荒れたマウンドのエースたち」です。私は、プロ野球の試合をほとんど見たことがありませんが、タイトルの「荒れたマウンドのエースたち」に惹かれ、読みました。
 本書は、先発投手から抑えの投手につなぐ「中継ぎ投手」について、インタビューをもとに各選手の物語が語られます。
 中継ぎ投手は、きれいなマウンドを踏むことがなく、先発投手や抑えの投手のように脚光を浴びることもありません。ですが、いなくてはならない大事な投手であり、試合を左右できる投手です。そして、先発投手が年間約140試合中25試合に対して、40から70試合マウンドに立ち、ほぼすべての試合にいつでも投げられるように準備をします。ただし、先発投手の調子が良いと、準備をしても投げない日があり、準備ができてないうちにマウンドに立たなくてはならない日もあり、身体だけでなく心も酷使しているように思えます。それでもやり遂げる選手たちの物語です。
 野球に興味がない、試合を見たことがない方にも、いろんな世界を新たな視点でみる、というおもしろさを感じてもらえたらと思います。

(長久手キャンパス図書館 近藤)


 

『流しのしたの骨』 [請求記号:913.6/E44]

 江國香織著 マガジンハウス 1996年

 今までの人生で、何らかの大きなトラブルや、節目となる出来事に遭遇した時に、決まって読み返す本が何冊かあります。今回ご紹介する「流しのしたの骨」は、私にとってそのような本の中の1つです。
 本書は、いまはなにもしていない19歳のこと子と、その家族のどこか不思議な生活を描いた小説です。この物語では、ドラマチックな出来事や感動的な場面は特にありません。日常の些細な出来事を重ねて、物語は構成されています。家族の離婚や学校の停学といった事件も起きるのですが、それすらも大袈裟に扱われることはなく、淡々と日常の一場面として描写されているようにみえます。
 丁寧に進んでいくこの物語を読んでいくうちに、段々と自分の頭の中にあるモヤモヤしたものが、整理されていくような気がするのです。どのようなストレスや変化が訪れようと、日常のあらゆる動作を一つ一つ積み重ねることでしか、生活は成り立ちません。本書を読むと、日常生活を続けていくことの力強さのようなものを感じることができます。
 皆さんにも是非、自分の人生の岐路に立った時、何度も読み返すような本と、出遭っていただきたいなと思います。

(長久手キャンパス図書館 山田)