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2016年4月の5冊


 

 

『「歴史認識」とは何か : 対立の構図を超えて』 [請求記号:080/C64/2332]

 大沼保昭著 中央公論社(中公新書) 2012年

 近年の日中韓をめぐる国際関係の不調やそれぞれの国民の間での民族感情の悪化の背景として、近現代史における「歴史認識」の問題が大きく横たわっていることは周知のところです。第二次世界大戦が終わってから70年の歳月が流れ、当時のことを知る世代がどんどんいなくなっていくなかで、慰安婦問題や領土問題などを軸に反日感情を強める中国、韓国と、それに対抗するように、嫌中・嫌韓感情を煽り煽られた、聴くに堪えない「ヘイト・スピーチ」が巷に流れ出しています。こうした「歴史認識」の違いの問題や日本が20世紀前半に引き起こした戦争の問題、そして、戦後処理の問題がどのように関わり合い、日中韓のこじれた感情や関係がどのような背景に根ざしているのか、冷静に見つめ直し、問題を前向きに改善していこうとするきっかけになる1冊として、本書を取り上げてみました。難しい背景をもった問題ですから、この新書サイズの小さな普及書で語られる内容は限られざるをえません。しかし、この問題に1970年代頃から深く関わってきた著者が、考え方のまったくちがう何人もの研究者との意見交換を通して、できるだけ感情的にならずに、日中韓にとどまらず、欧米の動向にも目配りしながら、対話形式でまとめた内容は、「歴史認識」というものには唯一の「正解」があるわけではなく、世界で受け入れられる最大公約数を求めていく努力なのだということを語りかけています。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『風が強く吹いている』 [請求記号:913.6/Mi67]

 三浦しをん著 新潮社 2006年

 本書は竹青荘というボロアパートに住む大学生たちが、箱根駅伝出場を目指して奮闘する物語です。彼らのほとんどは陸上経験がありません。にもかかわらず、清瀬灰二(ハイジ)というリーダーに素質を見出されたキャラクター豊かな十人の面々が、共同生活と練習の日々を通して走るとは何か、駅伝とは何かを追究していきます。
 中でも主人公の蔵原走(かける)は、天賦の才能を持ちながらも高校時代に起こした暴力事件のせいで鬱屈した思いを抱えています。それでも決して消えることのない、走ることへの何より純粋な思いがハイジや仲間との触れ合いを通して磨かれ、仲間の心も動かして再生と成長を遂げていきます。
 読んでいるだけで、走るというただそれだけの行為の中に、孤独と寂しさと美しさを感じることができます。そして駅伝は一人でありながら一人ではない、襷を繋ぐことで更にそれぞれの思いが繋がっていくドラマがあります。
 ハイジが提案したあまりにも無謀な賭けに、最初は無理があると思ってしまったとしても、彼らの練習と葛藤の日々を知り、箱根駅伝を一緒に完走する頃にはただ、頑張れ、良かった、とひたすら沿道の人たちと同じように応援してしまいます。
 駅伝を好きな人はもちろん、全く見ないという人にも本書はお勧めの本です。

(長久手キャンパス図書館 大島)

 

『桜は本当に美しいのか : 欲望が生んだ文化装置』 [請求記号:910.2/Mi94]

 水原紫苑著 平凡社(平凡社新書) 2014年

 春といえば桜の季節――小さなころから何の疑問を持つことなく、毎年そう感じて過ごしてきました。満開に咲く桜はとても綺麗で、散る姿もまた趣深く美しいものであると。この"日本"という国に生まれ育ったからなのでしょうか。桜の絶対的な存在を信じていたので、信じていたというよりはその意識すらもなく当然のこととして受け入れていたので、書棚にこの本が並んでいるのを見てタイトルが気になって手に取りました。
 歌人である著者が記紀の時代から王朝文学や能・歌舞伎、近代文学、現代短歌、そして今日の桜ソングまで、歌を中心に数多くの文献を引きながらこの国での桜文化についてひも解いています。著者はあとがきの中で「迷走のまま、これという結論も得られなかった」と述べてはいるものの、桜という花がどのように描かれてきたのか、この本を通してその移り変わりを読み解きたいという著者の試みが強く感じられます。桜を詠まずにはいられない日本の心の背景にあるものとは何か、桜は美しいものであるという想いは創られたものなのか、さまざまな考えを巡らせるきっかけになる本です。

 「桜は、遠い昔には、人知れず山中に咲いていた花である。桜を人間の俗界に招き入れ、あえかなはなびらに、堪え得ぬほどの重荷を負わせたのは、私たちの罪ではないか。
我に触るるな。
あの春に見た桜は、そう言っていたのかも知れない。」(「まえがき」より)

 いま当たり前に目の前にあるものに関心や疑問を持つこと、そこからみなさんの研究が始まるのだと思います。これからの大学生活の中で多くのことに興味を持ち、気になることは調べ考え、自分なりの答えを見つけてください。たとえ明確な結論が出せなかったとしても、そういった経験は今後のみなさんの力になると思います。みなさんがそれぞれの花を満開に咲かせられますように、そのためのお手伝いができればと思いながら図書館でお待ちしています。

(長久手キャンパス図書館 加藤)

 

『粘菌 : 驚くべき生命力の謎』 [請求記号:473.3/Ma81]

 松本淳解説 伊沢正名写真 誠文堂新光社 2007年

 皆さんは粘菌(変形菌)という生き物についてどのくらい知っていますか?私は粘菌についてほとんど何の知識もなかったのですが、ある小説に粘菌愛好家が登場したのをきっかけに、その魅力を知りたいと思ってこの本を読んでみました。
 粘菌の一生は、アメーバ状の細胞が移動しながら周囲の微生物を捕食し生長する、「粘菌アメーバ」から「変形体」にかけての時期と、胞子を蓄えた高さ数ミリのキノコのような形の、まったく動かない「子実体」の時期に大きく分けられます。変形体は湿った朽ち木や土の中を好み、時には人の手のひら以上の大きさに生長します。十分に成熟した変形体は、居心地のよい湿った場所から決死の覚悟で這い出して、わずか一晩の間に多数の子実体へと姿を変え、無数の胞子を飛ばすのです。
 本書ではさまざまな種類の粘菌がほぼ全ページに渡って大きなカラー写真で紹介されています。網目のような「脈」を伸ばして広がった変形体や、プチプチした卵のような出来たての子実体の姿を、気持ち悪いと感じる人は確かに多いと思います。それでも、特に乾燥後の子実体の写真のなかには、瑠璃色の美しい光沢を帯びるルリホコリや、おしゃれなビアカップのような形のサカズキホコリ、胞子を飛ばした後に球状の籠のような繊細な骨組みだけが残るクモノスホコリなど、自分自身の目で見てみたい!と感じさせるような美しいものもたくさんありました。
 また、実際に粘菌を採取・培養する具体的な方法や、粘菌を用いた最新科学の動向、漫画版「風の谷のナウシカ」に出てくる粘菌についての考察など、興味深い読み物も掲載されています。粘菌の魅力がよく伝わる入門書となっていますので、今まで興味のなかった皆さんもこの機会にぜひ粘菌の世界を覗いてみてください。

(長久手キャンパス図書館 津田)


 

『製本工房・美篶堂(みすずどう)とつくる文房具』 [請求記号:022.8/Se17]

 美篶堂著 河出書房新社 2010年

 学生生活を送る中で、文房具は欠かすことのできない存在です。そんな文房具、みなさんはこだわりを持って選んでいるでしょうか。「とりあえず使えればいい。」確かにそうですが、日々使う道具が自分好みであれば、気分もやる気も上がると思いませんか。
 でも、いざ探そうと思うと、ピンとくるものが見つからないものですよね。見つからないなら、作ってしまおう。そんな時に役立つ本をご紹介します。
 『製本工房・美篶堂とつくる文房具』という本です。美篶堂とは、長野県美篶に製本工房を持つ手製本の会社です。今年の6月に本学でご講演される、谷川俊太郎さんと、画家の望月通陽さんの詩画集『せんはうたう』(ゆめある舎刊)の製本も手掛けられています。
 ノートや書類ケース、小箱など、13種類の作り方が、写真付きで分かりやすく紹介されています。製本に必要な基本の道具や材料を買えるお店が紹介されているので、初めてでも、難なく文房具を作る環境を整えることができます。
 自分の手で文房具をつくるということ、素敵だと思いませんか。普段得ることのできない、達成感や満足感を得られること間違いありません。この本を参考に、自分だけの文房具を作ってみてはいかがでしょうか。

(長久手キャンパス図書館 黒岩)