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2016年8月の5冊


 

 

『ガリレオ裁判 : 400年後の真実』 [請求記号:080/I95B/1569]

 田中一郎著 岩波書店(岩波新書) 2015年

 ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)といえば、世界史で習う有名な天文学者・数学者で、1632年に出版された『天文対話』を巡って、地動説を唱えたとしてその翌年に宗教裁判にかけられたという話を思い出す人も多いと思います。宗教(キリスト教)と科学(近代科学)を巡る相克の歴史上の象徴的人物・事件として、歴史教科書では抜くことのできないテーマですね。そのガリレオ裁判に関わる400年も前の膨大な文書資料がバチカンに残されているということも、ガリレオに関心の深かったナポレオンが、イタリア遠征の際にその膨大な資料をフランスへ持ち去り、その後の混乱の中で紛失した文書も多かったということも、一般にはあまり知られていないことでしょう。その意味で、この本は私たちに歴史研究の面白さを改めて示してくれています。教科書でしか学ばないどこか現実離れした「物語」であった歴史的事件が、公開された当時の宗教裁判に関わる文書資料の分析を通じて、実際の出来事として具体的に私たちの目の前に再現され、その事情や意味するところが語られていくところは、何か歴史ドラマでも見ているようです。1630年頃といえば、日本では江戸初期の寛永年間で、参勤交代や鎖国などといった政策の始まった三代将軍徳川家光の時代です。夕涼みがてら夏の夜空を眺めて、400年前の歴史の世界を想像しながら一服の涼を取ってみてはどうでしょうか。ただしヤブ蚊にはご用心を。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『紙の建築行動する : 建築家は社会のために何ができるか』 [請求記号:520.4/B17]

 坂茂著 岩波書店(岩波現代文庫) 2015年

 4月の熊本地震の後、被災者のプライバシーを守るために避難所に紙管と布で間仕切りを設置したという報道を目にしました。その間仕切りを考案したのが、著者の坂茂さんです。坂さんは世界的な建築家で、国内外で建築による災害復興活動を続けてきています。紙の難民用シェルターや仮設住宅としてのログハウスなど、どれも安価で環境に配慮した材料で、簡単に組み立てや解体ができ、そして使いやすさを追求しています。ふんだんなカラー写真からは造形としての美しさも堪能できます。
 しかし、本書によると、紙による建築という前例がない方法だったために、実現には非常な困難を伴うことが多かったそうです。今回の避難所の間仕切りについても、その試みは2004年の新潟の中越地震から始まっていて、行政への粘り強い働きかけや様々な改良を経て現在に至ったことがわかりました。ニュースだけでは気づかなかったことです。新しい試みを根付かせるのは一朝一夕にはいかず、強い信念とあきらめない心がなければできないことが強いメッセージとして伝わってきます。そして、時には大胆さや思い切りの良さも必要なのだということも。

(長久手キャンパス図書館 新川)

 

『水中考古学 : クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで』 [請求記号:080/C64/2344]

 井上たかひこ著 中央公論新社(中公新書) 2015年

 世界の海底には、今なお謎に包まれた数多くの文明や、人類のいとなみを示す物的証拠がたくさん埋没しているといいます。それらの遺跡を発掘、保存、調査するのが水中考古学です。本書では「水中考古学の父」と呼ばれるアメリカのジョージ・バス博士のもとで学んだ著者が、自身の海中調査の経験を交えながら、ツタンカーメン王への交易品を積んでいたといわれる約3400年前の沈没船や、エジプトのアレクサンドリア沖の海底で発見されたクレオパトラ女王の宮殿などの調査について、情熱をもって解説しています。
 日本でも、これまで絵巻物のなかにしか残っていなかった13世紀の元寇船が、長崎県鷹島沖の海底で、数年前にはじめて発見されたそうです。この海底遺跡の一連の調査によって蒙古襲来という出来事が考古学的にも証明され、元寇の実態解明に向けての大きな一歩となりました。
 著者は現在、幕末に多くの熊本藩士を乗せたまま沈没した米国の蒸気船、ハーマン号の引き揚げプロジェクトに携わっています。水中考古学がまだそれほど認知されていない日本では、プロジェクトの立ち上げから資金調達まで、苦労の連続だったといいます。本書発刊当時の新聞記事によると、この本の出版にもハーマン号調査に弾みをつける狙いがあったのだとか。歴史ロマンだけでなく、現在進行中の研究・調査の実際にも触れられる1冊です。暑い季節、冷たい海の底での知的冒険に浸ってみてはいかがでしょうか。

(長久手キャンパス図書館 津田)

 

『おおきなおおきなおいも : 鶴巻幼稚園・市村久子の教育実践による』 [請求記号:726.6/A28]

 赤羽末吉さく・え 福音館書店 1972年

 最近は気温や湿度が高く、文字を読むことすら億劫になっている人も少なくないと思います。そんな時は絵本を読むことをお勧めします。子供が読むものという認識が強く、なかなか手が出しにくいとは思いますが、最近は大人の絵本も出版されていますし、読んでみると内容もよく考えられていて楽しめます。
 そこで、私のお気に入りの『おおきなおおきなおいも』という絵本を紹介します。
 いもほり遠足へ行くのを楽しみにしていた園児たち。残念なことに雨が降ってしまい延期になってしまいます。園児たちは一週間後のおいもの成長を想像して絵を描き始めます。きっと大きくなっているに違いない、紙をつぎたし大きなおいもを描いていきます。「そんな大きなおいもをどうやって掘り出すの?」という先生の一言から、園児たちの妄想がどんどん膨らみ…というようなあらすじです。
 おいもの妄想がとっても面白いです。どうやって掘り出すのか…掘り出されたおいもはどうなって行くのか…初めて読んだのは大学生の時でしたが、自分の想像する展開とはまったく違う方向へと進んでいき、気づいたら「ふふふ」と笑っていました。
 ゆるいイラストと独特の世界観がとっても素敵な絵本です。是非一度読んでみてください。

(長久手キャンパス図書館 黒岩)


 

『知の逆転』 [請求記号:304/C47]

 ジャレド・ダイアモンド [ほか述]/吉成真由美インタビュー・編 NHK出版(NHK出版新書) 2012年

 グローバル化が進むにつれて、各国の問題についても共通の認識として語られるようになってきました。世界情勢はめまぐるしく変化し続けており、インターネットの普及で日々、様々な社会問題がニュースとして取り上げられています。途切れることなく噴出し続ける問題に対して私たちは知ることで精一杯で、これらを解決にまで導くには一体どうすればよいのか、結論が追い付かないような状況を感じます。
 本書は、「銃・病原菌・鉄」の著者、ジャレド・ダイアモンド、言語学者のノーム・チョムスキー、神経科医のオリバー・サックス、科学者のマービン・ミンスキー、数学者のトム・レイトン、分子生物学者のジェームズ・ワトソンの6人の知識人に、現代社会が抱える問題についてインタビューしたものを本としてまとめたものです。
 たとえばチョムスキーはアメリカの核軍備を批判しており、抑止としての軍事力という大義では本当の意味での平和が成り立つことは決してなく支配でしかない、と言い切っています。また宗教と科学の対比については、人生の意味や人間の問題に科学は答えてくれない、とか、教育については、知りたいという自発的な要求や興味を伸ばすための枠組みであるべきで、テストのための教育は有害であるとも語っています。
 刺激的で奥深い思考に触れて、自分はどう考えるのか。わからないことだらけの中で少しでも自分の理解を深められるように、その入り口として本書をお勧めします。

(長久手キャンパス図書館 大島)