先月までの5冊へタイトルリストへ

書名のリンクは図書館所蔵です。別ウィンドウが開きます。

2016年9月の5冊


 

 

『教養としての地歴学 : 歴史のなかの地域』 [請求記号:290.18/I89]

 伊藤喜栄著 日本評論社  2006年

 本書は大学の教養科目を想定して書かれた「地域」を知るための入門書です。著者の伊藤氏は愛知県一宮市(旧木曽川町)出身の地理学者で、経済地理学を主たる専門として地理学と歴史学を一体的に捉える視点で研究を重ねてこられました。ある地域の特性は、与えられた自然的条件(自然環境)のなかで、そこに暮らす人々が、有利な条件を活かし不利な条件を改良・克服して、その地域に叶った社会文化を築き上げてきたことによって形作られてきました。いま眼前に広がる地域の姿やその地理的特性は、ある日一挙に出現したものではなく、歴史的に様々な変遷を経て今日の姿になったものです。それぞれの時代々々における技術水準や経済状態、社会制度、価値観を前提に、人々はまわりの自然に働きかけ、周囲の人間集団との関係のなかで地域の個性を築いてきました。したがって、ある地域のことを地理学が調べるとしても、そこには歴史的な視点がなければ、真の理解は得られないことになります。筆者はこうした地理と歴史を一体のものとして捉えることの意義を本書の中で強く訴えかけています。私も同じような考え方で地理学の研究と教育を続けてきましたし、こうした歴史を踏まえた地理の姿、そして、地理を踏まえた歴史の見方という相補的な学問関係が大切であると考えています。実際の地域は地理と歴史の表裏一体の関係の中で成り立っており、本書はそのことを、力を込めて伝えようとしています。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『津軽』 [請求記号:913.6/D49]

 太宰治著 新潮社(新潮文庫) 2004年

 太宰治が昭和19年に小山書店の依頼を受けて執筆した「新風土記叢書」の1冊です。自身の生まれ故郷である津軽を、思い出や知人との再会を交えながら3週間かけて周遊する旅行記として綴られています。
 しかし、出版の目的や全般的な内容からみて、本書が、津軽という地域の歴史と風土を扱った本であることに疑いはありません。太宰は、外ヶ浜、津軽平野、西海岸などの地域を巡りながら、津軽の土地や自然、町の印象、凶作や戦国大名「津軽氏」の歴史、等々について記しています。内容に厚みを持たせているのは、古典や郷土資料、地理書、歴史書といった各種文献からの引用情報です。また、津軽の伝統的産物は扁柏(ひば)であって林檎ではないとの熱弁には作家の郷土愛のようなものが感じられます。
 とくに印象に残ったのは、青森と弘前の各中心市街の町名の比較を通じて、この二都市の性格の違いに着目したくだりです。名城はなにゆえに名城なのか、高等学校時代の太宰が、城下町の発見を通じて「弘前を、津軽を理解したような気がした」瞬間が見事な筆致で再現されています。作家が道中で度々見せる、どことなく滑稽な行動や発言も微笑ましいです。ぜひ一度味わってみてください。

(長久手キャンパス図書館 笹野)

 

『どくとるマンボウ航海記』 [請求記号:080/4-3/28A]

 北杜夫 著 中央公論社(中公文庫) 1973年

 夏の暑い日々に何かよい本をと思い、お勧めしたいのがこの本です。
 この本は船医として漁業調査船に乗り、世界を駆け巡った筆者の実体験が書かれています。とても詳しく書かれており、実際に船で旅をしているような気分になります。また海の上での生活はどんなものだろうと非日常的なものを味わうことができます。旅行や留学前に一度読んでみると世界のことがじわじわと体験できるかもしれませんし、海の醍醐味も味わえます。とても面白く通読できます。

(長久手キャンパス図書館 小栗)

 

『江戸時代子ども遊び大事典』 [請求記号:384.55/N34]

 中城正堯編著 東京堂出版 2014年

 みなさんが子どものころは、どんな遊びをしていましたか。最近の子どもたちはゲームをしたりアニメを見たり、室内でひとりで過ごす時間も少なくないと思います。もちろん公園や運動場などでも遊ぶことはあるでしょうが、屋外で子どもたちだけで過ごすには何かと危険が多く潜んでいる時代です。
 では現在よりずっと昔、江戸時代の子どもたちはどんな遊びをしていたでしょうか。お年寄りの昔話を聞くことはできても、なかなか江戸時代まで遡ることは難しいかと思います。この本ではそんな江戸時代の遊び文化について200項目以上を取り上げ、800点以上の浮世絵を掲載しながら詳しく解説してくれています。
 江戸時代は「遊びの黄金期」と言われ、幕末に日本を訪れた欧米人たちは「子どもの天国」とたたえたそうです。夏の虫取りや冬の雪遊びなど季節毎の遊びだけでなく、今はすたれてしまった遊びや、落書きやいたずらといった現代と変わらない情景など、この本の中では生き生きとした子どもたちの姿が描かれています。
 「遊び」という江戸時代の子どもたちの生活風景を通して、民俗学という観点からだけではなく歴史や絵画史、教育学や発達心理学など、さまざまな視点から文化を感じることができる1冊になっています。たまたま開いたページに懐かしい遊びが紹介されているかもしれません。みなさんも創造性あふれる子ども心に触れて、自身の子ども時代を思い出してみてはいかがでしょうか。

(長久手キャンパス図書館 加藤)


 

『麦の穂をゆらす風』[映像資料] [請求記号:DVD//366]

 ケン・ローチ監督 ジェネオンエンタテインメント 2007年

 『麦の穂をゆらす風』は、アイルランドの伝統歌のタイトルです。いわゆるレベルソング(抵抗歌)であり、約700年アイルランドを植民地支配してきたイギリスへの抵抗を歌った曲です。
 今回紹介する映画のタイトルは、この伝統歌からきています。1920年代のアイルランドを舞台に、主人公がイギリスからの独立運動に身を投じ、やがて身内や仲間同士が割れ内戦に転じる悲劇を描いた作品です。画面には常に美しい緑の大地が映し出され、過剰な演出はなく、残酷なシーンも淡々と静かに描かれているのが、かえって生々しく悲劇を際立させます。
 主人公は「この戦いに何の意味があるのか」と苦悶しますが、最後、「何のために戦うのか、その意味がわかった」と言います。しかし、映画の中ではっきりとその答えは示されず、見た人に解釈が委ねられています。鑑賞後、楽しい気分になる映画ではないですが、戦争、自由など、普段遠い出来事や当たり前と思っている事を改めて考えさせてくれる作品だと思います。
 なお、同じくアイルランドの独立運動を描いた作品に『マイケル・コリンズ』があります。『麦の穂をゆらす風』が裏側である庶民をリアルに描いたものとするなら、こちらは表側である独立運動のヒーロー、マイケル・コリンズの生涯をドラマチックに描いたものです。同じ題材ながら、描き方が異なる2つの作品を見比べるのも面白いかと思います。

(長久手キャンパス図書館 渡邉)