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2016年12月の5冊


 

 

『ガルブレイス : アメリカ資本主義との格闘』 [請求記号:080/I95B/1593]

 伊東光晴著. 岩波書店, 2016 (岩波新書:新赤版 1593)

 トランプ氏がアメリカ大統領に選ばれました。共和党の看板を背負いながら既存の自由市場政策を否定し、内向きな白人中心主義を唱える大金持ちトランプ氏の政治経済運営はなかなか予想困難です。これに対して、リベラルな立場からアメリカ経済学をリードした斯学の巨人ジョン・ケネス・ガルブレイスを、その生涯と研究姿勢から紹介したのが本書です。アメリカ経済学には二つの大きな潮流があります。一方はフリードマンを代表とする新自由主義の立場で、完全な市場経済を前提として、自由な経済活動が効率的な資源配分を通じて好ましい経済社会を創出すると考え、経済活動への余計な政策的介入を嫌う、「小さな政府」論の立場です。もう一方は制度学派で、社会経済の実態に即して市場経済信仰を避け、社会的公正が実現され安定した経済が達成されるためには、政府の積極的な政策介入が必要とする立場、「大きな政府」論の立場です。政治的には前者が共和党、後者が民主党の立場で、ガルブレイスは後者を代表する経済学者です。現代アメリカの政治経済はこの両者のせめぎ合いの中で動いてきましたが、経済運営を中心にして新自由主義的な立場が20世紀終盤頃から強くなり、格差社会が広がりました。その影響は世界中に強く現れています。そうした中でのトランプ氏の倒錯した主張ですが、経済的不均衡や不平等の是正は社会の安定に不可欠であるからこそ、改めてガルブレイスの考え方や立場をわかりやすく紹介してくれる本書は時宜を得た本と言えるでしょう。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『キッチンの歴史 : 料理道具が変えた人類の食文化』 [請求記号:596.9/W75]

 ビー・ウィルソン著/真田由美子訳. 河出書房新社, 2014

 本書では「食の歴史はテクノロジーの歴史」と位置づける筆者が、古今東西の料理道具や料理法の歴史を膨大な文献資料から拾い上げ、読みやすいエッセイのような形にまとめています。木製のスプーンから最新の真空調理器まで、料理にまつわる数え切れないほど多く逸話が時代ごとの社会事情や文化、価値観との関係を軸に詳しく紹介されています。
 例えば、地面の穴と水と焼き石を使って「ゆでる」という画期的な料理法を可能にしたピットオーブンや、大邸宅の厨房の道具目録の内容の変化から明らかになった料理法の発展、肉の塊を焼くために回転式ロースターの中で毎日何時間も走らされた貧しい少年や動物たち、テーブルマナーの変化に伴って切れないナイフに「進化」したテーブルナイフ…等々。
 イギリスのフードライターによる著書なので、聞いたこともないソースの名前や調理法も多く出てきますが、ところどころで日本やアジアの料理や道具についても触れられています。また、筆者が実際に使ってきた道具の遍歴や失敗談も随所にちりばめられ、料理や道具に対する愛着がよく伝わってきます。写真や図があまり載っていないのですが、文字からでは想像もつかないような変わった道具も登場しますので、スマホやパソコンで気になるものを画像検索しながら読むことをお勧めします。日頃使っている地味な道具ひとつひとつにこれほど意外で多様な歴史があり、無数の人々が大変な苦労と工夫をして作り上げてきたということを知ってしまうと、料理が得意でない私ですがこれから台所に立つときの気持ちが一味ちがってきそうです。

(長久手キャンパス図書館 津田)

 

『子どもと絵本 : 絵本のしくみと楽しみ方』 [請求記号:726.601/F62]

 藤本朝巳著. 人文書院, 2015

「絵本は、子どもが生まれてはじめて出会う文学であり、芸術である」
と、この本の著者は述べています。また、
「絵本は、大人が再び出会う文学であり、芸術である」とも。

 みなさんは子どものころに好きだった絵本はありますか。眠る前に読んでもらった本、図書館で読み聞かせをしてもらった本、なんとなくお気に入りでページをめくるのが楽しみだった本。きっとみなさんにも思い出に残っている絵本があるのではないかと思います。それらの絵本は、どんなお話しで、どんな絵が描かれていましたか。
  絵本は絵と文章がお互いにうまく作用しながら物語を紡ぎ出していきます。子どもたちはそれを眼で見て耳で聞いて手で触れて、はじめて出会う世界を体験します。平面で表現される絵本では、絵や文字の配置のしかたや枠の使い方などを工夫することによって、おはなしの中の時間の流れや登場人物の感情などを自然と感じ取ることができるようになっています。この本ではそういった描き方の手法や物語の展開のしかたなど、絵本の基本的なしくみを易しく解説してくれています。この本を読んでから絵本を開いてみると、作者がその絵本に込めたメッセージをあらためて味わうことができそうです。
 ですが、絵本はあまり難しく考えすぎず楽しんで読むのが1番だとも思います。慌ただしくなる年末に、ゆっくり絵本をめくりながら過ごすのもよいのではないでしょうか。子どものころに好きだった絵本を大人になってから読み返してみると、また新しい発見があるかもしれません。ほっこりした気持ちで新年を迎えることができればと思います。

(長久手キャンパス図書館 加藤)

 

『旅のラゴス』 [請求記号:913.6/Ts93]

 筒井康隆著. 新潮社, 2014

 生涯をかけて異世界を旅するラゴスの物語です。ラゴスと共に進んでいくうちに様々な事件が起こり、人々との出会いを通じて不可思議なこの世界の姿が見えてきます。まだ電気も発見されておらず、争いの絶えない未開発の時代ですが、人々は超能力を持っており、集団で瞬間移動ができたり人の心が読めたり空を飛んだりもできます。ラゴスは旅の途中で奴隷になったり王様になったり波乱の展開に何度も巻き込まれますが、物語は重くなりすぎることはなく、理性的に淡々と進んでいきます。
 ラゴスの旅の目的は失われた過去の知識を得ることで、故郷に戻った後は退行した世界を発展させるために貢献していきます。
 読んでいるうちにこの物語に描かれている世界は異世界ではなく、私たちのこの世界の未来の姿なのかもしれないと思えてきます。宇宙船を作れるほどに高度な文明が発達したとしても、超能力を得たとしても、知識が途絶えれば奴隷制が復活したり、略奪が繰り返されたりする。残念ながら人の持つ弱さや野蛮さは失われることはない、という変わらない人間の姿が描かれています。
 それでも晩年、ラゴスは愛する人の面影を求めて、故郷を超えてさらに北へと旅に出ます。余韻が胸に残りますが、それもまたいつの時代も変わらない人間の姿だと作者は言ってくれているのかもしれません。

(長久手キャンパス図書館 大島)


 

『うわさとは何か : ネットで変容する「最も古いメディア」』 [請求記号:080/C64/2263]

 松田美佐著. 中央公論新社, 2014

 みなさん「うわさ」はお好きでしょうか。好きな人も、興味のない人もいると思います。本書は「うわさ」が社会や人間関係にどのような影響をもたらしてきたかを書いています。読んでみると、興味がある、ないに関わらず、「うわさ」は生活をしていく上で、必然的に存在することが分かります。
 噂というと、人に関するゴシップを思い浮かべる方が多いと思いますが、都市伝説、デマ、風評、口コミなど多様な表現がされています。私はネットショッピングや旅行へ行く際に、口コミをよく参考にします。都市伝説を聞くのも好きです。両方とも信憑性の無い噂ですが、口コミはある程度信頼しています。逆に都市伝説はあまり信じていません。同じ噂でも、信じる信じないは内容によって変化します。もちろん人によって感じ方も変わります。
 噂は魅力的ですが、恐ろしくもあります。噂が広まることによって、人々の行動を変えてしまい、結果的にただの噂だったものが、実現してしまう事があるのです。例えば、「洗剤が不足している」という噂が広まります。信じた人たちが洗剤を買いだめします。すると、買いだめの影響で一時的に在庫が少なくなっているのを見て、信じていなかった人も「本当なのかも…」と思い買いだめをします。こうしていくうちに、本当に洗剤不足になってしまう。実際は不足していなかったのに、噂が本当になってしまうなんて、恐ろしいですね。
 ネット社会の今、このような「うわさ」とどのように付き合っていくべきか等も書かれています。噂について知りたい方、惑わされたくない方にオススメの本です。

(長久手キャンパス図書館 黒岩)