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2017年1月の5冊


 

 

『風土記の世界』 [請求記号:080/I95B/1604]

 三浦佑之著. 岩波書店, 2016 (岩波新書:新赤版 1604)

 「風土記」とは、古代大和朝廷が全国の「国司」に作成・提出を求めた各地の山川草木や物産、地名由来、旧聞異事をまとめた報告書のことです。播磨国風土記など五つの風土記が完成形で現在に伝えられているほか、後世の文書の中で一部が引用されるなどして、何十の国の断片的な遺文が残されています。いままでこれらの風土記を体系的に整理し、一般普及書として紹介した作品は意外とありませんでした。『古事記』や『日本書紀』にまつわる類書は数多く出版されており、古代日本神話を語る上で、それこそ断片的に「風土記」が取り上げられることはあっても、これに焦点を絞った本は限られていました。その意味でも本書の刊行はたいへん興味深いことで、しかも、筆者が語るように、約半世紀前に同じ岩波新書で出された西郷信綱の名著『古事記の世界』がすぐに脳裏に浮かびました。「風土記」は当時の政権が目指した「日本志」のもとになるはずだった「地方志(誌)」という位置づけに立って、風土記の概観を踏まえた上で、とくに常陸国風土記と出雲国風土記を軸に、筆者の考える風土記像を展開しています。そこでは中央国家の思惑と地方の思惑との葛藤や正史「日本書紀」との関係性が推論されるなど、1300年前の日本古代社会の姿をいろいろと思い描かせてくれる本に仕上がっています。西郷の「古事記」に絡めた話があればもっと面白かったでしょうが、そのことは今後に期待しましょう。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『飼い喰い : 三匹の豚とわたし』 [請求記号:645.5/U25]

 内澤旬子著. 岩波書店, 2012

 自分で豚を育て、つぶして食べてみたいという強い気持ちにかられ、それを実行してしまった著者による一部始終の記録です。漫画『銀の匙』の「豚丼」のエピソードや、映画『ブタがいた教室』を思い浮かべる向きもあるかと思いますが、著者はもともと世界中の屠畜(食肉用の家畜を殺して解体すること)を見聞きした経験を『世界屠畜紀行』としてまとめており、そのうえで、今度は家畜が育つまでの過程を知りたいと考えたのです。筋金入りです。
 豚を飼うためだけに夫と離れて東京から千葉に住居を移し(それもほとんど廃屋で、中のがらくたを取り除くところから始める)、夜中に豚小屋の屋根に登って雨漏りのメンテナンスをし、脱走した巨大な豚を一人きりで必死に引き戻し・・・。「壮絶」という言葉がどうしても浮かびますが、筆致はユーモアにあふれており、押しつけがましさや堅苦しさは全くありません。著者の肩書はイラストルポライターで、本書にもわかりやすいイラストが随所に盛り込まれています。豚の描写はリアルながらもとてもかわいいです。
 著者は淡々と、3匹と真正面から向き合い、愛情を持って育てていきます。そして、とうとう屠畜の日が訪れることになります。家畜を殺して食べるとはどういうことかという深いテーマが根底にありながら、あくまで楽しく読めてしまうという、すごい本だと思います。

(長久手キャンパス図書館 新川)

 

『大阪アースダイバー』 [請求記号:216.3/N46]

 中沢新一著・写真. 講談社, 2012

 思想家や人類学者、宗教学者などの肩書をもつ著者による大阪論です。既成の学問分野の枠には収まらないアプローチの仕方で、それゆえ自由かつ大胆に、大阪らしさの根源のようなものを突き詰めていきます。
 かつての大阪は、現在の大阪城が建つ辺りから南に延びる上町台地などを除き、広い範囲が水に覆われていました。著者が注目するのは、このような水中から、淀川と大和川が運ぶ大量の土砂により、大阪が「生成」したという点です。大阪湾や河内湖の水底から出現する砂州や大小の島々。この無定形で可塑性を持った土地は、商品に潜む無縁の原理ゆえに古代人の共同体から危険視された商人にとっては格好の活動舞台になったようです。
 著者は、大阪には、目に見えない二つの座標軸、南北軸「アポロン軸」と東西軸「ディオニュソス軸」があると考え、とくに、大阪湾から上町台地、河内平野を経て生駒山地へと向かう東西軸に注目します。この東西軸は、現代人には意識されにくいかもしれませんが、上町台地と河内湖がつくる「プロト大阪(原大阪)」時代に到来した海民や渡来民にとっては強いリアリティがあったということが、航海術に関係する星座や、生と死のリズムをつくり出す太陽への強い関心などから説明されます。
 現在の上町台地周辺に位置するユニークな大阪を観察しながら、それぞれの場所に刻まれた古い痕跡や込められた原理を探り出そうとする著者の思考過程も楽しめます。しかし、ユニークな大阪を通じて、都市はなぜ都市であるのか、都市の普遍性について考える機会を与えてくれるのも本書の特徴であるように思います。

(長久手キャンパス図書館 笹野)

 

『同時通訳はやめられない』 [請求記号:801.7/So17]

 袖川裕美著. 平凡社, 2016 (平凡社新書:822)

この本は県立大学で教鞭をとっていらっしゃる袖川先生が書かれた本です。
同時通訳の世界ってどんな感じだろう?と疑問に思ったら、先生の実体験がぎゅっと凝縮されたこの本をお勧めします。単語帳を正月から作成される姿、通訳ブースの中の話、膨大な資料の読込から当日の内容を推測される姿が書かれており、とても勉強になります。事前準備がかなり大切であることがわかります。英語を勉強されている方で、通訳、同時通訳になってみたいと考えている方は一度読んでいただき、今後の指針にされることをお勧め致します。

(長久手キャンパス図書館 小栗)


 

『京都鴨川探訪 : 絵図でよみとく文化と景観』 [請求記号:291.62/N85]

 西野由紀, 鈴木康久編. 人文書院, 2011

 京都を代表する景観といえばどこでしょうか。神社仏閣をはじめ数多くあると思いますが、鴨川もそのうちの一つです。本書では、江戸末期の三条から淀までの鴨川沿岸を描いた名所図会『淀川両岸一覧』を中心として、数々の名所図会や絵はがきを元に、鴨川とその沿岸の変遷が記されています。
 『淀川両岸一覧』は旅人向けに描かれた図会で、三色刷りの鮮やかな絵図と和歌が載せられており、旅情を誘う作りとなっています。当時の旅人はこの図会を見て京の都への旅に思いをはせた事でしょう。現代の私達が見ると、牛車と船が川を渡る姿や染め物をする姿など、今では見られなくなった光景が新鮮に映ります。一方、三条、四条大橋の賑わいなど、鴨川は今も昔も人が集まる場所として変わりがない事が読み取れます。また、川から見た東山の眺望が現在とさほど変わらず、京都の人々が景観保全に力を注いできた事が分かります。
 発展した有名な町は、多くは河川沿いに町が広がっています。河川は沿岸にある町の政治、経済、文化に大きく関わる存在であり、単に人や物資を運輸するだけでなく、あらゆる情報を運搬し、生み出す存在でもあります。京都で言えば鴨川がこれに該当します。鴨川は人や物資を運搬する水の街道としてだけでなく、文学、芸能、生業など多くの文化を育んだ舞台でもあります。時には洪水を起こし脅威となりながらも、それ以上に大きな恩恵をもたらし、町と共に生きる存在となっています。
 もし京都に行かれた際、寺社巡りに疲れたら鴨川べりでひと休みしてはいかがでしょうか。昔も今も鴨川が京都の風景に欠かせない存在であると感じる事ができると思います。

(長久手キャンパス図書館 渡邉)