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2017年3月の5冊


 

 

『地形からみた歴史 : 古代景観を復原する』 [請求記号:454/Ku82]

 日下雅義 [著]. 講談社, 2012 (講談社学術文庫:[2143])

 本書は、1991年に中央公論社から出された『古代景観の復原』が講談社学術文庫版になる際にタイトル変更されたものです。著者は歴史地理学の泰斗で、とくに古代景観の復原に関する研究を専門にされています。そして、いまは地下に埋もれている古代の地形環境を、検土杖などを用いた現地調査と航空写真や同時代の文献資料、古地図分析を組み合わせて復原し、そこで展開した歴史的出来事やその時代を生きた人々の生活振り、思いや感情までも再現して見せようとしています。もちろん弥生時代や古墳時代ではなかなか文字資料がありませんから、人々の思いを文献史学的に再現することは困難ですが、奈良時代まで下れば、万葉集や古事記、日本書紀、風土記のような今日まで受け継がれている文字資料があります。そこで語られている風景や土地の様子を、当時の自然景観をできるだけ精確に復原して見せ、既存の歴史研究と異なった解釈が成り立つこと、そのことの方が、語られている説話や詩歌を無理なく自然に理解できることを読者に語りかけています。本書の対象地域は全国にわたりますが、主として近畿地方、なかでも難波宮を中心とした古代の大阪が主たる舞台です。今日あるいは近世以降とはまったく異なっていた古代の海岸線や平野の様子を当時の姿として復原し、われわれの目に映る風景のイメージとして再現して、そのなかで歴史をとらえ、認識することの大切さと面白さがよく伝わってきます。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『苦海浄土 : わが水俣病 』 新装版 [受入中]

 石牟礼道子[著]. 講談社 2004 (講談社学術文庫:[い-11-3])

 いったい、私たちのなかで、日本の「公害の原点」といわれる水俣病が海外にも存在することを知っている人は、どれぐらいいるのでしょうか。2017年2月19日に、私は水俣市の公民館へ足を運びました。熊本学園大学水俣学センター主催の「水俣病公式確認60年国際シンポジウム――『カナダ先住民の水俣病と水銀汚染』」に参加するためでした。原因発生企業は製紙会社、"Minamata Disease"の被害者は歴史的に土地、言語、生活、つまりは尊厳を奪われ続けてきた先住民の人びと。このシンポジウムで、水俣病に誠実に向き合う医師が、患者数に比して水俣病研究が少ないことの理由を、それが「国家に抗うことを意味するから」と説明しました。
 この作品を構成する7つの章からは、物事の暗部などものともせずに、高度経済成長を一点に見つめた戦後日本の企業社会の非人間的姿勢と、人間としての尊厳をずたずたに切り刻まれた人びとの底を打つことのない義憤が、輪郭をともなって迫ってきます。読者に不案内にならない巧みな方法で挿まれた水俣・熊本の方言からは、原因企業にも、それを庇うことに躍起になった国家にも、何ひとつ迷惑などかけずに倹しく実直に生きた地方の漁民の息づかいが実感されるだけに、やり場のない絶望感に襲われます。いま読み返してみても、著者が〈問う〉ことで〈主題〉として浮上させたかった当時の国家や社会の姿が読者に「鮮度が落ちた」と思わせないのは、厳然とそびえ立つ「同じような現実」の前に、今なお、私たちが立たされているからでしょう。水俣病を〈問題〉として成り立たせた構造が、私たちが生きる現代にも存在し続けていることを意味します。
 水俣病を素材としたこの作品は1969年に公刊されています。ここに掲げる新装版は1972年の初版以来の、名著『逝きし世の面影』の著者である渡辺京二氏の解説に加え、水俣病との闘いに生涯をかけた医師の故原田正純氏による解説を得ています。本書の末尾で「学問を何のために、誰のためにするのか」を問うた原田医師が、次のように結びます――「現場を大切に、市民に開かれた、市民が参加できる学問でなければならない」。大学に生きる私たちへのことばでもあるように思うのです。

(川畑博昭(日本文化学部歴史文化学科))

 

『ケーキの歴史物語』 [請求記号:383.8/H98]

 ニコラ・ハンブル著/堤理華訳. 原書房, 2012 (お菓子の図書館)

 本書はイギリスのReaktion Booksが刊行している食物に関する本のシリーズ「The Edible Series」の1冊で、食物史の専門家でありケーキ好きなニコラ・ハンブル氏が著したケーキの本です。ケーキの歴史、各国での発展などを、過去の資料や絵画、写真とともに紹介しています。
 オーストリアのチョコケーキ、「ザッハトルテ」をめぐって起こされた裁判など、ちょっと意外なケーキの話があったり、『不思議の国のアリス』に登場するケーキについて、当時の社会事情を含めて紹介がなされていたり、ケーキについてのうんちくが満載なのでケーキ好きには、心ときめく楽しい内容となっています。
 また、本の末尾には珍しいケーキのレシピが何点か載っていますので、腕に自信のある方はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

(長久手キャンパス図書館 大塩)

 

『もしも宇宙を旅したら : 地球に無事帰還するための手引き』 [請求記号:538.9/C85]

 ニール・F・カミンズ著/三宅真砂子訳. ソフトバンククリエイティブ, 2008

 "もしも宇宙を旅したら・・・"、想像するとどんな旅でしょうか。
 重力のない、どこまで続くか分からない空間で、月に到着したら、太陽に近づいたら、流星群やブラックホールに出くわしたら。宇宙から見る虹は美しい円を描いているのか。みなさんはどんな旅を想像されるでしょうか。
 しかし旅に危険はつきものです。宇宙では呼吸をする、水を飲むのでさえ常に危険と隣り合わせです。本書は"地球に無事帰還するための手引き"とあるように、宇宙で起きるさまざまな出来事を紹介してくれます。宇宙への旅を考えていない方も、宇宙飛行士や宇宙で生活、活動するためのあらゆる技術に驚かされると思います。
 新たな始まりに向けてどこか現実逃避したくなる3月に、本書を読みながら宇宙に思いを馳せるのはいかがでしょうか。闇に浮かぶ青い地球が浮かび上がってきませんか。

(長久手キャンパス図書館 近藤)


 

『ナメクジの言い分』 [請求記号:484.6/A16]

 足立則夫著. 岩波書店, 2012 (岩波科学ライブラリー:198)

 ナメクジは好きですか? ほとんどの方は、かたつむりは許容範囲だけど、ナメクジはちょっと、と思っていることでしょう。かたつむりは絵本に登場したり、童謡で歌われることがあるくらい親しみのある生き物です。一方、ナメクジと言えば、"塩をかけたら死ぬ"とか"ぬるぬるして気持ち悪い"とか"進むのが遅い"(これはかたつむりも同じですが)など、あまり好意的とは言えないイメージが強いと思います。実際、私も子どものころナメクジを見かけると、溶けてしまえと大量に塩をかけていました。
 しかし、よく考えてみると、私たちはナメクジについて、何を食べているのかどこに生息しているのか等、ほとんど何も知りません。ただ、見た目が気持ち悪いというだけで興味の対象から外しています。
 分類では、ナメクジは"貝"の仲間だそうです。貝と言えば、海で生活しているものが多くいますが、ナメクジは陸に上がった進化した貝なのです。貝と分かっただけで、ナメクジにちょっとだけ親近感を覚えませんか。
春休みです。普段は忙しいみなさんもいつもよりゆとりのある時間を過ごしていることと思います。普段なら絶対に聞かない『ナメクジの言い分』に耳を傾けてみると思いがけない世界が広がっているかもしれませんよ。

(長久手キャンパス図書館 須原)