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2017年4月の5冊


 

 

『欧州複合危機 : 苦悶するEU、揺れる世界』 [請求記号:080/C64/2405]

 遠藤乾著. 中央公論新社, 2016 (中公新書:2405)

 いま世界中で既成の秩序や価値観に揺らぎが生じています。昨秋のアメリカ大統領選挙でのトランプ氏の勝利も大きな話題になりましたが、その前の6月にはイギリスの国民投票でEU離脱派が勝利したことも、世界に大きなショックを与えました。この本は、そのショックを受け止めながらEUと世界の動揺のことを取り上げています。ヨーロッパは何百年にわたって国同士、民族同士で諍いを繰り返してきましたが、第二次世界大戦以降、立場や意見の違いを克服して互いに協調し合う「一つのヨーロッパ」を目指す動きが顕著となり、ECSC、EEC、ECを経て、今日のEUの姿になってきました。国境の仕切りをなくし、人々が自由に行き来できる社会、他民族、他文化を受け入れる理想の社会を目指して、EUは旧東欧圏にまで拡大してきたはずでした。しかし、近年は北と南、西と東の国情や立場の違いからきしみが目立つようになり、多数の移民流入やギリシアの債務危機、テロ問題などが表面化する中、多文化共生や人々の自由な往来が本当に「求められる姿」なのか、自国の利益や民族的アイデンティティの擁護の方が大切なのではないのか、こうした考え方が各地で起きてきました。何が「理想」あるいは普遍性であり、何が本当に追求すべきものなのか、多文化という個別性の追求とのバランスはいかにあるべきか。そうした課題に目を背けられなくなっているヨーロッパの状況を本書は強く訴え、私たちに「あるべき世界像」、そして、普遍と個別の関係性を考えさせようとしています。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『君と会えたから… : the goddess of victory』 [請求記号:913.6/Ki63]

 喜多川泰 [著]. ディスカヴァー・トゥエンティワン, 2006

 将来の進路について悩んでいた高校生の主人公は、ある夏の日ハルカという少女と出会います。彼女が父親から聞いたという様々な教えに、いつしか主人公も心を動かされていきます。
 私たちは歩けること、食べられること、時間があることを当たり前のこととして考えています。その上で悩んでいます。何もしたいことがない、なぜ生きているのだろう…。わからないなら想像してみるといいかもしれません。歩けない自分、食べられない自分、もう時間が残されていない自分…。その時それでも同じことを思うのだろうかと。これもしたかった、あれもしたかったと、きっと考えるのではないでしょうか。失う自分を想像したあとには、それがまだあるということに感謝する。そういった想像は私たちの意識を変える力となり、本はその想像を助けてくれます。
 与えられた時間は限られていますが、可能性に限りはない。私たちはその事実をつい逆に考えてしまいます。ハルカが最後に教えてくれたこと…最後まで読むと、それまでの言葉に込められた深い思いに気付くことができます。

(長久手キャンパス図書館 大島)

 

『つながる図書館 : コミュニティの核をめざす試み』 [請求記号:080/C44/1051]

 猪谷千香著. 筑摩書房, 2014 (ちくま新書:1051)

 新しい季節が始まり、みなさんはこれからの大学生活で様々なことを経験したいと考えているのではないでしょうか。その中でもやはり学生であるからには、学業にも力を入れてほしいと思います。では勉強や調べ物をするのに適している場所はどこでしょう。そう、それは図書館です。
 図書館といえば静かに本を読む空間という印象も強いですが、もしかするとみなさんの家の近くの図書館が少しずつ変わってきてはいませんか。カフェが併設されていたり自動貸出機があったり、ビジネス相談もできたり、「図書コン」という恋人を探せるイベントなどをおこなっている図書館もあるそうです。私の家の近くの図書館でも演奏会の開催や、ぬいぐるみのお泊り会など、これまでには見られなかった取り組みがされています。この本では、そんな全国の図書館の新しい姿を紹介し、自分にとっての理想の図書館を考えるきっかけを与えてくれています。
 この本のタイトルにもあるように、図書館はつながる場所です。人と本がつながるのはもちろん、本を通して自身と向き合い自分とつながる場所、そしてそこに集まる人と人がつながる場所です。どんな立場の人でも利用できる図書館は、すべての人に居心地のよい空間になるように、どんどん進化しています。
 長久手キャンパス図書館でも、議論ができる「グループ学習コーナー」やくつろげる「リベラルアーツコーナー」、視聴覚資料の利用で言語学習にも役立つ「AVコーナー」、ひとりで集中して勉強ができる「研究個室」など、様々な空間を用意しています。図書館の使い方の講座等も開催しているので、ぜひ図書館を活用して豊かな大学生活を送ってください。図書館でみなさんにとってお気に入りの場所がみつかりますように、たくさんの素敵な出会いがありますように、そう願って今日も図書館はみなさんを待っています。

(長久手キャンパス図書館 加藤)

 

『恐竜人間』 [請求記号:748/Sh51]

 下田昌克恐竜制作/谷川俊太郎詩/藤代冥砂写真. パルコエンタテインメント事業部, 2015

 『恐竜人間』と聞くと、まがまがしい姿が頭に浮かんできますよね。頭が恐竜で体が人間、頭は人間で体が恐竜…他にもいろいろと想像できると思いますが、どれも恐ろしいです。
 ですが、本書の恐竜人間はとても可愛らしい姿をしています。布で作られた恐竜の骨の被り物を、子どもたちが頭に被っているのです。(少し大人も混ざっていますが。)そして、自然の中で恐竜らしいポーズをとっていたりだとか、街中でボーっとしたり、俯いたり、遊んだりしている姿が写真に収められています。子供たちが楽しそうで可愛くて、見ているこちらまで明るい気持ちになってきます。
 下田昌克さんという方が、被り物の恐竜を製作されているのですが、これがとても魅力的です。様々な種類の恐竜が登場しますが、私は特にステゴサウルスが気に入っています。背骨や尻尾がついていて、大きくて可愛いです。家にひとつ欲しいなと思います。
 また、写真には、谷川俊太郎さんが書かれた詩が添えられています。詩を読むと、力強く生命力に溢れたものや、少し物悲しい詩もあり、初めて写真に受けた印象とはまた違った感覚で楽しむことができます。
 写真を見るだけでも満足感があるので、気軽に読めておすすめです 。

(長久手キャンパス図書館 黒岩)


 

『わたしはこうして執事になった』 [請求記号:283.3/H33]

 ロジーナ・ハリソン著/新井雅代訳. 白水社, 2016

 本書の著者ロジーナ・ハリソンは、1918年から45年間に渡ってイギリス上流階級の使用人として「お屋敷奉公」の世界で生きた人物です。この本は、彼女がかつての仕事仲間である5人の友人を訪ねてまわり、今では失われた格式と洗練とを懐かしみつつ、彼らの人生をそれぞれ一人称で描き出したものです。
 著者によると、当時の労働者階級に生まれた人間にとって、上流階級の使用人となってその社会で昇格していくのが最も手っ取り早い出世コースだったといいます。本書にも、学校教育もそこそこにお屋敷の雑用係として働き始め、さまざまな段階を経て最終的には業界屈指の名執事となった元「ブーツボーイ」や、元「ホールボーイ」が登場します。また、唯一のドロップアウト組である元・下男の男性は、ほかの職種である程度の成功を収めた後も、機会があるごとに臨時雇いとして古巣のお屋敷奉公の世界へ出入りしていたと述べています。豪奢な大邸宅という劇場で、良い使用人という役を演じることを楽しんでいた、という彼のユーモアあふれる回想は、使用人という職種に対する私のイメージを覆すものでした。
 過去の使用人文化に関する資料としても興味深いものですが、その世界のスターたちの個性と豊かな経験が何よりもまず読み物としてとても面白い本です。カズオ・イシグロ『日の名残り』の主人公のモデルといわれる「クリヴデンのリー卿」ことアスター子爵家の名執事、エドウィン・リーも語り手の1人として登場します。イギリス文化に関心のある方にはぜひご一読をおすすめします 。

(長久手キャンパス図書館 津田)