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2017年5月の5冊


 

 

『馬の自然誌』 [645.2/C32]

 J.E.チェンバレン著;屋代通子訳. 築地書館, 2014

 犬に関する本を2度ほど紹介してきましたが、今回は家畜の中でも近代以前には荷役、軍役などの人間生活に欠くことのできなかった馬を紹介した本を取り上げました。現代生活の中で馬は身近な存在ではなくなり、「犬」本に比べて、手軽に読める「馬」本は非常に少ない実情です。とくに日本では家で飼うペットとしては、馬はほぼ対象外ですし、食用などの「家畜」としてみても、牛や豚、羊などに比べるとはるかに限定的です。人気なのは競馬場で走る競走馬くらいでしょうか。本書の原題は"Horse: How the horse has shaped civilizations"で、古代ギリシャ・ローマや西アジア、中央アジアそして中国、さらには新大陸の先住民文化などを広く取り上げながら、歴史学、文化人類学、民俗学や生物学から美術、文芸の領域にまでまたがる「馬と人の関わりを語る叙事詩」と言えます。著者はカナダ出身の英文学・比較文学研究者ですが、祖父が牧場主で生活の中で馬との関わりが深かったそうです。文章のもつ物語性と詩情の豊かさ、そして、馬への愛情の深さは、著者のそうした立場から来るものでしょう。一般的な乗馬用の馬ですと、体重は500キロ前後、背中の当たりで地面から150〜160pほどの高さがあります。その巨体と時に示す頑固さに気押されることもありますが、従順に人の指示に従ったり、甘えたり、凜として佇む姿に、著者は人の伴侶動物としての馬のもつ存在価値の大きさを示してくれています。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む: 4万5千キロを競ったふたりの女性記者』 [請求記号:290.9/G65]

 マシュー・グッドマン著;金原瑞人,井上里訳. 柏書房, 2013

 『八十日間世界一周』(1872年刊)をご存知ですか?
『海底二万里』や『十五少年漂流記』を書いたフランスの小説家、ジュール・ヴェルヌ(1828-1905)が書いた冒険物語です。
(最後のオチが見事なんですよね)

どの時代にもチャレンジャーはいるもので、この80日間世界一周を実際にやろうとした人物がいました。しかも女性、しかも二人。

一人目が、ネリー・ブライという女性、25歳。当時アメリカでトップ新聞であった『ニューヨーク・ワールド』の記者でありました。企画した八十日以内に世界を一周するという案が通ったのです。1889年11月の出来事です。
一方、これに目を付けたのが上品な月刊誌『コスモポリタン』。うちも世界一周をやろう。ネリー・ブライとは逆の西回りで。
育ちの良いお嬢様文芸編集者だった、エリザベス・ビズランド、28歳は、何がなんだかよくわからないうちに、ネリー・ブライに遅れること8時間30分、サンフランシスコ行きのアメリカ横断直通列車に乗せられてしまいます。
こうしてアメリカ人の若い女性二人による、世界一周競争が始まったのでした。

当時はヴィクトリア朝後期、産業革命により経済が発展し、世界に植民地を抱えたイギリス帝国の絶頂期です。
二人は初めての海外旅行でした。
東回りのネリー・ブライは最初の異国がそのイギリス。西回りのエリザベス・ビズランドが最初に訪れたのは日本の横浜でありました。

さすが新聞記者と文芸編集者、二人は見事な紀行文を旅先から送り人々を魅了します。
しかし、二人の旅も手違いやアクシデントの連続です。宗主国と植民地の人々の暮らしぶりの違い、女性の地位の低さも垣間見えます。これに『ニューヨーク・ワールド』紙と『コスモポリタン』誌のさや当てや、現代のアイドルも真っ青な便乗商法も加わり当時の世相がよくわかります。

もっとも魅了された人はこの人なのかもしれません。
エリザベス・ビズランドは最初の異国の地日本をとても気に入りました。絶賛の文章を送ります。それを読んだ読者の一人が、彼女の前々からの友人、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)その人でありました。

(長久手キャンパス図書館 松森)

 

『「結果を出す人」はノートに何を書いているのか』 [請求記号:002.7/Mi51]

 美崎栄一郎著. ナナ・コーポレート・コミュニケーション, 2009 (Nanaブックス, 0084)

学生のみなさんはノートをどのように使っていますか。
講義をとるノート、予習を行うノート、研究結果を記すノートなど勉強が中心に
使われているのではないでしょうか。
では社会に出た時、ノートはどのように使われるのでしょうか。
この本ではノートの使い方、その可能性について書かれた本です。
スケジュール帳、メモ帳、ノートをどうひとまとめに管理するか、
日々の生活をどう記録するか、社会に出た時にはどう使うかと
考えていく本になるかと思います。
紙上に自分が体験したこと、考えたこと、気がついたことを残す習慣はありますか。
社会に出る前に一度読むことをお勧めします。

(長久手キャンパス図書館 小栗)

 

『深読みシェイクスピア』 [請求記号:080/Sh61/641]

 松岡和子著. 新潮社, 2011(新潮選書)

 シェイクスピアって面白い、と初めて思ったのは大学生の時でした。教養科目の英語で「ロミオとジュリエット」の原典講読をしていた時、先生が乳母の台詞を実演してくれたのです。バルコニーがこうあって、ジュリエットがここにいて、乳母が出てきて…と身振り手振りで説明を加え、こけつまろびつ、まさに熱演!という感じでした。とっつきにくい古典だったシェイクスピアの戯曲が、役者が生きて話す生の言葉になったのはあの時でした。
 今回ご紹介するこの本は、シェイクスピアの個人全訳をしている松岡和子さんが、役者や演出家とともに作り上げる翻訳について語った本です。ちくま文庫で刊行中の松岡訳シェイクスピア全集は基本的に上演台本を元にしています。翻訳は訳した時点で終わりではなく、稽古の途中でどんどん変わっていくと松岡さんは云います。稽古終盤に台詞が変わったため、出版時には訂正が間に合わず2刷から訳文が変わったこともあるとか。松たか子さん、蒼井優さん、山崎努さんなどと、実際に舞台を作り上げる中での興味深いエピソードがたくさん語られています。シェイクスピアと、人が演じる生のお芝居の魅力がたくさん詰まった実にエキサイティングな本、お芝居に興味がある方も舞台なんて見たことないという方もぜひ一度読んでみてください。

 ところで、この本では時代とともに移り変わる訳文についても語られています。個人的に坪内逍遥訳の「ハムレット」がとても気に入っているので、どこかで上演してくれないかなと思っているのですが…父王の亡霊が城壁の上で「娑婆にて犯しゝ罪業の…」と語りだしたらさぞ恰好いいとは思いませんか?

(長久手キャンパス図書館 春木)


 

『最後の秘境東京藝大 : 天才たちのカオスな日常』 [請求記号:377.28/N76]

 二宮敦人著.新潮社, 2016

 芸大(愛知芸大)は県大と同じ愛知県公立大学法人に属していますが、いったいどんな大学なのか、恥ずかしながら私はほとんど知りません。この本を手に取ったのは、東京藝大というより、隣の愛知芸大に興味があったからです。同じ芸術大学なら似ているのかな、と思って。
 著者はエンターテインメント系の作家ですが、東京藝大の現役学生である配偶者をきっかけに興味を持ち、学生たちに話を聞くことになります。インタビューした数は30人以上。全て学生や卒業生です。
 タイトルは少し大げさで興味本位な感じですし、やはり最初の方は「一般人とは違う世界を覗き見する」といった趣が強いように思いました。でも著者は素人ならではの目線で、素直に、偏見を持たずに話を聞いていて、専攻ごとの特徴もよくわかり、何より各々の芸術に対する強い思いがじかに伝わってきました。校風の違いはあるかもしれませんが、愛知芸大もこんな感じなのかなとイメージできました。
 読み終わって、二つの感想を持ちました。一つは、やっぱり東京藝大の学生は“普通”とは違うし、アートに真摯に向き合っているということ。もう一つは、県大にも、知られていない意外なことや面白いことがたくさんありそうだし、学問に取り組む姿勢という意味では実はそんなに違いはないのかも?ということです。学生さんたちと濃く関わる立場ではありませんが、そう感じます。


(長久手キャンパス図書館 新川)