図書館今月の5冊 図書館がオススメする今月の5冊を紹介します。

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2017年6月の5冊


 

 

『地球の歴史(上・中・下)』 [請求記号:080/C64/239823992340]

 鎌田浩毅著. 中央公論新社, 2016

 地球46億年の歴史を、上巻水惑星の誕生、中巻生命の登場、下巻人類の台頭という3部構成で、新書という一般普及書の形でコンパクトにまとめ上げたのが本書です。それぞれの表紙にはフランス人画家ゴーギャンの「われわれはどこから来たのか」(上)、「われわれは何者なのか」(中)、「われわれはどこへ行くのか」(下)という作品タイトルの帯が巻かれ、著者の思いと出版社130周年の思いがこもった本となっています。私の手元には岩波新書の同名書、井尻正二・湊正雄著の『地球の歴史〔改訂版〕』(1965年刊)がありますが、両書を読み比べると、この半世紀間の地球科学の急速な発達の跡をまざまざと知ることができます。半世紀前には地球という天体の誕生の仕方もまだ定説がありませんでしたし、プレートテクトニクスという考え方も盛り込まれてはいませんでした。したがって、大陸移動説もウェーゲナーの説が紹介されてはいましたが、地質学者であった著者たちには批判的な受け止め方でした。この半世紀間の膨大な地球に関する知識の拡大が、最新版の『地球の歴史』3巻の中に詰め込まれ、46億年にわたる具体的な歴史ドラマの様子が、豊富なデータによって描かれています。まだまだ未知の問題がたくさんあるとはいえ、われわれ人類の唯一の故郷である地球について、改めてその現在にいたる姿を最新の情報から振り返ってみてはどうでしょうか。まさにグローバル時代のいまこそ。

(学術研究情報センター長 中島茂(日本文化学部歴史文化学科))

 

『あの世と日本人』 [181.8/U66]

 梅原猛著. 日本放送出版協会, 1996(NHKライブラリー, 43)

「私のお墓の前で泣かないでください♪ そこに私はいません♪」という歌が話題となって久しいですね。亡くなった人はお墓にいないでどこにいるのでしょう。大きな空を吹く風になって「この世」にいるのでしょうか。いつだったか、仏壇に向かって話しかけていた母が、急に何を思ったのか、「ねえ、お父ちゃんはお墓にいるのに、ここで話しかけて聞こえるのかな。お墓にいるのに、仏壇の水をかえても飲めないんじゃないの?」と、突っ込みどころ満載の問いを真顔で投げかけてきました。えっ。言葉に詰まる私の頭越しに弟が「携帯電話みたいなもんで、ここで話しても聞こえるようになってるんだよ。」と、これまたありえない返答。「ああ、そういうことか、じゃあよかった。」と母。で、話は終わり。えっ、いいの?それでいいの?口を挟みたくても何も浮かばず、本人が納得したならそれでいいと思うことにしました。日本人は伝統的に「あの世」を信じてきました。授業で「死後の世界はあると思いますか?」と聞くと、殆どの学生が首を横に振ります。でも、お盆にはお墓の前で手をあわせて先祖の霊を家に迎え、お彼岸には彼岸(極楽浄土)の先祖の霊を偲んだりしますよね。亡くなった方が見守ってくれていると感じることもあります。先祖の霊はこちらの都合で「あの世」と「この世」を行ったり来たりもするわけで、日本人の「あの世」観はなかなか都合がよいものだと思います。
 本書はその原点を縄文時代にまでさかのぼり、仏教渡来以来の「あの世」観から、現代日本人の宗教観に至るまで受け継がれてきた日本人の「あの世」観を辿ります。宗教や歴史というと重く感じるかもしれませんが、梅原先生がわかりやすくやわらかい筆致で語ってくれます。


(学術研究情報センター副センター長 小松万喜子(看護学部看護学科))

 

『アメリカ人は気軽に精神科医に行く』 [請求記号:493.7/O63]

 表西恵著. ワニブックス, 2015 (ワニブックス「Plus」新書)

 今年度も早いもので2か月経ちました。新入生の皆さんは学生生活に慣れ、友達もできて順調なスタートが切れていることでしょう。また、4年生は着々と就活を進めてみえるのではないでしょうか。
 でも中には大学に馴染めない、友達ができない、就活が思うように進まない、といった悩みを抱えて苦しんでいる方もおられるのかもしれません。もちろん2、3年生にも、学業に、サークル活動に、恋にと悩みがいっぱいでしょう。
 ご紹介する本では、一人で悩み続けて心身に変調をきたしてしまう前に、誰かに話を聞いてもらうこと(相談でなくただ聞いてもらうだけでもいいんです)、適切な誰かがいなければ、躊躇することなく精神科医を受診してカウンセリングを受けることが強く勧められています。
 アメリカでサイコロジストとして活躍する日本人である著者は、我慢を美化する国民性や恥の意識、精神科に対する偏見などが、日本において心の病気を深刻化させているとして、メンタルヘルスに対する考え方や、実際に心の病気と思われる場合の対応のしかたについて、日本とアメリカの違いを具体的な事例を挙げながら解説しています。
 また、飛行機恐怖症の治療のために航空会社に協力を求めた、患者からあなたを殺したくなると告白された、といったエピソードなど、サイコロジストの仕事の一端を垣間見られるのも興味深いです。
実は私自身も軽い鬱状態になった経験があり、クリニックで処方されたたった1錠の薬がたちまち心を軽くしてくれたことを覚えています。(人間の心って薬で変えられるんですよ!)
悩みを抱えて心も体も疲弊していると感じている方には、ぜひ手に取って心の病から身を守っていただきたいです。(それより先に受診されたほうが良いですね。)また、メンタルヘルスやカウンセリングに関心のある方には、手軽に読める一冊だと思います。


(学術情報研究センター 竹本)

 

『恩讐の彼方に・忠直卿行状記 : 他八編』 [請求記号:080/197/22A]

 菊池寛 作. 岩波書店, 1970(岩波文庫)

 本書タイトルにもある「恩讐の彼方に」をはじめとする計10編の短編歴史小説が収められています。
 歴史小説なので、最初は読みにくそうと思うかもしれませんが、どの話も短くあっという間に読めてしまいます。「形」にいたってはたったの3ページです。
 新しいことをする時、「形から入る」という人も少なくないと思います。良い道具を持ったりそれっぽい恰好をしたりすると、初めてのことでもなんだか上手にできそうな気がしますよね。「形」の主人公である中村新兵衛は、戦場でその名を知らぬものはいないほどの槍の名手です。ある日新兵衛は、自らのトレードマークである立派な服折りと兜を初陣に臨む少年武士に頼まれて貸してあげます。見た目だけ槍の名手になった少年武士と「その他大勢」と同じ姿の新兵衛が、敵と対峙した時…1ページめくればクライマックスです。
 全話を通しての見どころは各話の主人公の心理描写です。短い話の中で、主人公たちの感情はどんどん変化していきます。嫉妬、傲慢、羞恥、悔恨、など人間の醜く弱い部分は時代背景関係なく共感できますし、その描かれ方に作品の魅力があります。個人的に好きな話は「恩讐の彼方に」と「入れ札」です。
 ちなみに、作者の菊池寛はあの有名な「芥川賞」や「直木賞」の創設者でもあります。気になった方はぜひ手に取ってみてください。


(長久手キャンパス図書館 鈴木)


 

『鴨川ホルモー』 [請求記号:913.6/Ma34]

 万城目学著. 産業編集センター, 2006

 「みなさんは「ホルモー」という言葉をご存知か。
  そう、ホルモー。
  いえいえ、ホルモンではなくホルモー。「ン」はいらない。そこはぜひ「ー」と伸ばして、素直な感じで発音してもらいたい。」 (「はじめに」より)

 学生のころ『鴨川ホルモー』を手に取り、この冒頭部分を読んで「これは面白い本に違いない」と思いました。読み進めていくうちにどんどん本の世界に引き込まれていき、すぐに読み終えてしまったので、最初の予感は間違っていませんでした。以来、人から「おすすめの本は?」と聞かれたときには、必ずこの本を紹介しています。
 物語の舞台は京都。京都大学の新入生・阿部は、祭りのエキストラのバイト帰りに、同じくバイトに参加していた高村と歩いていると、「京大青龍会」という奇妙なサークルに勧誘されます。新歓コンパに参加してみますが、特に変わったところはなさそう…。普通のサークルかと思い入会した阿部でしたが、数か月後、京大青龍会は「ホルモー」を行うサークルであることを知らされます。果たして「ホルモー」とはいったい何なのか…?
 作者の万城目さん自身も京都大学の卒業生ということもあり、作品の中には京都の名所や街並みがたくさん登場し、読むと京都に行きたくなる一冊です。


(長久手キャンパス図書館 浦野)