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【学長メッセージ】愛知県立大学の学生のみなさんへ

2020/8/9

愛知県立大学の学生のみなさんへ

愛知県立大学学長 久冨木原 玲  

 みなさん、こんにちは。8月を迎えました。新学期以来、5ケ月目になりますが、どのように過ごしていますか?元気であることを願っています。

 6月下旬から一部の授業を対面にしましたが、多くはリモート授業のままです。集中講義や後期の講義は対面にしたいと思うのですが、8月6日に再び愛知県に緊急事態宣言が出て、先の見通しが立たない状況になりました。

 このように出口が見えない事態が続くと、不安になったりしますよね。夢を抱いて本学に入学したのに、友達にも会えないし、先生にも会えない、外出もままならないという不自由極まりない状況。本来であれば、最も楽しく輝いている学生時代、人生で一度きりの素晴らしい学生時代がこんなことになってしまって、私も残念でなりません。みなさんの気持ちを想像すると、何とも言いようのない気持ちになります。

 こんな時、私たちはどうしたらいいのでしょう。特に、不安に押しつぶされそうになった時、みなさんは、どうされるでしょうか?みなさんの何倍も長く生きて来た私にとっても、こんなことは初めてですが、振り返ってみると高校生の頃に経験した2つのことを思い出します。

 ひとつは17歳で大病をしたこと、ふたつ目は、その後の大学受験で失敗したことです。

 大学受験の時、私は長い入院生活を送ったこともあって、あまり勉強する時間が取れませんでした。それで志望する大学に合格できるかどうか、とても不安でした。不安で不安で勉強が手につかず、結局、志望校には合格しませんでした。

 その前の1年近くにおよぶ入院生活の時は、そんな不安や焦りは全くありませんでした。少しオーバーかも知れませんが、生きるか死ぬかという時は、かえって焦ったり不安になったりしないのかも知れません。とにかく病気を治すしかありませんので、日々、心穏やかに過ごすことができました。

 ところが、大学受験の時には私は不安に支配されてしまったのです。そして第一志望に落ちました。幸いに第二志望の大学に入ることができましたが、第一志望に失敗したことをずっと引きずってしまい、大学生活を充実したものにできませんでした。

 みなさんは、私のこんな学生時代をどのように思いますか?

 そう、実に愚かですよね。第二志望の大学に入れたなら、そこで大いに勉強したり友人関係を築いたりすればよかったのです。けれども私はそのようにできなくて灰色の大学生活を送りました。進むべき道も見つけることができず、成人式には行きませんでした。いえ、行けなかったのです。友人たちに合わせる顔がなかったのです。

 大学生の私は、すべてに自信をなくしていました。では、第一志望に合格しなかったくらいで、どうしてそんなに自信を失なってしまったのでしょうか。それは、不安に駆られるばかりで、全力を尽くさなかったからです。目標に対して、きちんと向き合うことをしなかったからです。自分なりに努力して、精いっぱい立ち向かったのなら、不合格であっても堂々としていられたと思います。今なら、そう思えるのですが、当時の私は出口が見えないトンネルの中を歩いているような暗い気持ちで毎日を過ごしていました。

 みなさん、私がこの愚かな経験をお話するのは、みなさんに、ただ一度きりのかけがえのない時間を不安に苛まれて過ごしてほしくないからです。今、どれほどみなさんが不自由な思いをしているか、察するに余りあります。けれども不安にからめとられてしまうと、何も見えなくなってしまう恐れがあります。それでは不安に手足や心を縛られないようにするには、どうしたらいいか。それは今のこの条件の中で精いっぱい、できることをして、したいことをすることだと思います。完璧でなくても、不十分でもいいのです。与えられた状況に向き合って、精いっぱい、できることをするのです。その姿勢こそ、みなさんが生きていく手ごたえをつかむきっかけになると私は思います。

 今日は8月9日。長崎に原子爆弾が落とされた日です。すでに3日前の8月6日には広島に人類が初めて経験する原爆が投下されました。赤ちゃんからおとなまで何の罪もないたくさんの人々の命が奪われました。

 そして8月15日は、終戦記念日。75年も前のことですから、みなさんは遠い昔の出来事だと感じていることでしょう。けれども第二次世界大戦末期には、兵役義務のない18歳、19歳の学生たちまでもが、学業半ばで学徒出陣して戦地に送られ、多くの学生が命を落としました。彼らは、どんなにか大学で勉学を続けたかったことでしょう。

 私が生まれる前のことですが、8月になると、毎年、これらの一連の出来事を心に深く刻みたいと思います。戦争は人災です。人が人を殺すことは絶対にしてはなりません。なかなか収まらない現在のコロナ感染症も命にかかわりますが、これは天災と言うべきでしょうか。どうしようもない現実は時折、さまざまな形で人間に襲いかかって来ます。けれどもコロナ感染症が天災であるならば、私たちは、とにかく命を守ることを第一に考えましょう。そしてその中で、精いっぱい、できること、したいことを積み重ねていきましょう。それが生きるということだと私は思います。みなさん、どうか不安に足をすくわれないようにしましょう。十分ではなくても、少しずつ少しずつ、実現したいことに向かっていけばいいのです。

 みなさん、一歩ずつ、一緒に歩いていきましょう。

 なかなか会えませんが、会える日の来るのを待ち望みながら、今度、会えた時に自分はどんな風にこの状況の中で過ごしてきたか、その中で何を感じ、何を考えたか、お互いに語り合いましょう。

 どうか元気で過ごして下さい。笑顔で会える日は必ず来ます。

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